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 城下街への行き方を通りすがりの女官に聞いたら、門から定期的に馬車が出ると教えてくれた。「姫さま。馬車を手配しましょうか?」と、いまだにセシルを王族として扱ってくれる彼女にお礼を言って門へ向かった。


 ラング国はもう存在しない。だからセシルは王女じゃない。人に馬車を頼むことなどできない。みんなのように公共の馬車に乗ればいい。


「私、馬車に乗るのはじめて~。街もはじめてで、お買い物もはじめて。セーちゃんもだね。ディー、私たちにお買い物の仕方を教えてね。

 お母さんももう覚えていないと思うから、ディーだけが頼りなの」


「そうね。ディーがいてくれて安心だわ」


 リンダがディランに微笑みかける。リンダはディランと並んで歩いている。セシルとリリーはお互い腕を組んで歩くので、リンダはいつも後ろから一人で付いてくる。でもいまはディランがいる。

 昨日はセイズの護衛が後ろを付いてくることに怯えていたが、ディランドが隣にいるので安心して景色を楽しんでいる。


「リンダさま。いえ、リンダさん。俺はあなたを永遠にお守りする騎士ですよ」


 ディランがお茶目な顔でウインクする。ディランドにとってリンダは母親だ。リンダにとって彼は息子。手紙と窓越でしか会話したことがないけれど、ディランドはずっとセシルたちと一緒にいた。だから、こうして安心した関係だから、お互いの冗談がいえる。

 ディランが後宮に出入りできたのは彼が10才の時までだった。たった二年だったけれど、お互いの顔を晒すことをとーさまに禁止されていた。

 でもお互いに容姿を知らない間柄だったけれど、みんなの絆は本当の家族以上に強い。


「てめーーー!! リンダから離れろーーー」


 ディランがとっさに剣を抜きセシルたちを彼の後ろに隠す。門はすぐそこだから、門番が気づいて助けてくれるかもしれないが、なるべくディランの足手まといにならないようにしないと思うが体が恐怖で動かない。それだけ恐ろしい雄叫びの男がセシルたちに向かってくる。


 リリーがセシルを庇って目の前に立つ。後ろからリリーとリンダがふるえているのがわかる。


「きゃーーー」


 リンダの叫び声が聞こえた時に、ディランの剣が飛んだ。そして、彼が殴られ倒れた。地面にディランが倒れた時に、リンダとリリーにぶつかり、セシルたちも積み木崩しのように倒れた。


「きゃーー、ーーーー、いっ、痛い!」


「ごめん! セーちゃん」


「ううん。リリーのせいじゃないよ。それよりディーは?」


 地面にぶつけたお尻が痛いが、今はディランの安全を確認しないといけないから起き上がる。


「セシルさま! 大丈夫ですか!!??」


 セイズの護衛のノブが聞いた。はっきり言って、全然護衛なんてできていない!


(大丈夫じゃない!)


 ノブ以外の護衛は……


「いやーーーー!!!」


 セシルは信じられない目の前の景色に悲鳴をあげた。


 (タイラさまがディランに!)


 セシルは急いで立ち上がり、持っているカバンでタイラさまの後頭を殴る。タイラさまを止めようとしている護衛たちは、セシルの切羽詰まった顔を見た途端タイラ殿下から離れた。


 セシルが持っている手さげカバンの中に、瓶が入っている。調合した薬草の入った瓶だ。


 一瞬薬草の心配をしたが、ディランの純潔の方が重要だ。


 タイラさまがディランに馬乗りしている!! 二次元の世界だったら、ヨダレを垂らしながらじっくり見入っているところだけれど。相手がディランだからそんなことはできない!


 不意打ちでタイラさまの体が傾いた途端、セシルは前世で習った痴漢攻撃方のサイドキックをする。完全にタイラさまがディランから離れた時に、体制を整えようと地面に寝転がった一瞬の隙に、彼の小股のボールを踏みつけた!


「ギャアーー%%$#$#%$%」


 タイラさまの悲鳴と一緒に数人の男たちの叫びが聞こえたのは気のせいだろう。


「セイズ王族は全員俺さま野獣攻めで大嫌い!」


 ディランの腕を引っ張り門を目がけて走る。リンダもすかさずにディランの剣を拾っており、すぐにセシルたちの後に続く。


 門で荷馬車が見えた。


「街まで乗せてください! 痴漢が追ってきます!」


 呆気な顔でセシルたちを見ていた馭者が、「ええ、もちろんです!」と言ってすぐに荷馬車を発車させた。


「きゃあーー」


 勢いよく坂を下りる荷台は揺れが激しくて、リンダが叫んだ。もちろんその叫び声を聞いたタイラさまが、さらに勘違いしてセシルたちを追っているとは知らなかった。


 

 親切な馭者はセシルたちを薬屋の近くまで乗せてくれた。

 リリーは「おもしろい!」といってまた乗りたいとはしゃいでいた。リンダは真っ青な顔でいまだに荷馬車に座っていて、ディランが彼女の背中をさすっている。

 セシルは若い体なのか、前世トラックの荷台に乗ることが多かったので平気だった。


 セシルが謝礼を払おうとした途端に、馭者は「ひ、姫さ、さま、あ、握手してください! お金はいいです!」赤面した彼が言った。


 もちろんセシルも持金はセスがくれた小銭しかなかったので受け入れた。馭者は何度も何度もズボンで手を拭いた。亡国の王族が珍しいのだろう。

 薬草や小物を売った分でセイズ国への旅費が十分かわからない。


 薬屋で薬を買い取ってもらう。薬草だけだとすぐに売れたが、調合した薬はいろいろ問題があった。セシルとリリーは国の薬師免許を持っている。特別にセスが発行したものだ。


 そしてこの薬屋はセスから紹介されたところで、彼の名前を伝えたら、薬を見てくれた。「間違いなくセスさまの調合した薬と同じです」と定期の資金を払ってくれた。

 薬屋はセシルが王女と気づいていたようだ。帰り際に、「また薬を売りにきてくださいね」といった。


 店を出てお金をリンダとリリーにわけようと渡された小袋を開く。中には予想した以上の銀が入っていた。


「リンダ!!?? どうしよう? あの薬屋さん、間違って銀貨三枚入れたみたいだよ」


 ラング国貨幣は、金銀鉄銅鉛だ。鉛貨幣は1円で銅が100円。鉄が千円で銀が一万円。そして金が10万円の価値がある。そして平均的なラング国民の一年間の収入は銀3枚だ。


「セーちゃん。返してきたら?」


「うん。それがいいよね」


 銀3枚あれば三人で半年暮らせるという気持ちを抑える。薬屋に戻ってお金を返そうとしたら、それはセスさまが以前預けた薬の代金といった。

 セスがもし銀髪の少女か赤い髪の女の人が来たら渡して欲しいといったそうだ。薬屋はまさかセシルたちがすぐに気づくと思わなかったみたいだ。


 以前、セスがお金が必要になったら、ラング国内の薬屋にセスの名前を出せばお金を貸してくれるよ。といった言葉を思い出す。


 リリーと一緒に箱庭から出ることのないセシルたちにお金のいる時が来るなんてありえないと笑った時があった。

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