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『トントン』
「入れ」
「失礼します!」
セシルにつけた護衛のミックが息を弾ませながらいった。
「セシルさまが城下へ向かわれました! タイラ閣下が神殿騎士を殺しかけそうになったのを、周りのすべての騎士で止めました! セシルさまが『セイズ王族は全員俺さま野獣攻めで大嫌い!』と叫んで、走って逃げていきました!」
「ッ!!??」「ひゃっはっはっっはーーー」
レイはお腹を抱えて笑い転げている。
「なんで城下へ行くのだ!! 王族は城下へそう簡単に行くもんじゃないだろ!? それよりなんで叔父上が神殿騎士を殺さないといけないんだ!!??
俺さま野獣攻めってなんだ!!??
くっそーー。セシルたちを追うぞ! レイ、お前は仕事してろ!」
「ひゃあ、ッ、いいえ。仕事は優秀な部下がしてくれます。こんなおもしろいことを見ないでどうするんですか! ひゃはっっはっは」
冷やかし精神で付いてくるレイを無視して、城門へ向かう。血相を変えたルークたちを、通りすぎる人々たちが慌ててお辞儀をする。
セシルたちはすでに城へ配達にきた商人の荷馬車に乗って街へいった後だった。
「王女が荷馬車に乗るのか?」
門番にいった言葉でレイは笑い転げた。ますますルークの頭が痛くなった。
「閣下!! お待ちください!」
タイラ叔父上の馬が門に迫っている。
「叔父上!!??」
ルークはありったけの声で叫ぶ。
「なんだ!!??」
かろうじてルークに気づいたようで馬を止めた。叔父上のいまの顔は強面で、戦地だったら敵の将軍も逃げるだろう。
「どうしたのですか?」
理由はなんとなくわかったけれど、一応聞いてみる。
「リンダが危ない! 俺は彼女を守らなければならない!」
「いや、閣下といる方がリンダさんが危ないと思う」
ぼそっと。後ろにいるレイのつぶやきが馬上の叔父上に届いていないことをアシール神に感謝する。
「叔父上。仕事はどうなされたのですか!?」
「はっ!!?? お前がしろ! リンダの貞操の危機なんだ! あの神殿護衛め!」
叔父上が馬を疾駆させる。
ルークも叔父上つきの護衛の馬を奪って後を追う。もちろんレイも馬を誰かから奪って後に付いてきた。
疾走している叔父上に驚き、通行人が道端に転げながら移動したおかげで城下街にすぐについた。
叔父上は美しい真っ赤な髪の女性のことを厩舎で尋ねる。まあ、尋ねるというか拷問というか……。
ルークが四人の美しい人と聞くと人々は、セシルたちの足取りを教えてくれた。護衛以外はフード付きコートで素顔がわからなかったらしい。だが護衛が美しくて、人々の記憶に残っていた。
四人は薬屋へ行ったようだ。
セシルにとってかーさまの過去は想像越えて悲しいものだった。昨夜は早めに布団に入って泣いた。隣にいるリンダとリリーも泣いていた。三人はなにも言葉を話さなかった。
三人の目は真っ赤で腫れていた。お互いの顔を見て笑った。もうかーさまの過去のことで涙を流さないと決めた。かーさまの思い出は、とーさまと一緒に幸せな思い出だけでいいと。
腫れを抑える薬草をお湯に混ぜて布に浸す。それを目に当てた。十分したら目の腫れが引いた。
リンダとリリーも目元に布を当てた。
ディランドはセシルたちの目元が腫れているから布を当てていると知っているけれど、テルをはじめとした護衛たちは三人を不思議の見ている。
別に朝から早起きして付きまとう必要ないのに。と、動物園のパンダのようにセシルたちを見ている護衛に悪態つく。
朝の支度はディランドが手伝ってくれて早く終わった。彼は家事万能で、リリーが大騒ぎしている。最初はセシルの手伝いをすると言ったけれど、洗濯物が多いのでリリーの手伝いを頼んだ。
(やっぱり、ディーが危ない!!)
いくらセイズの騎士護衛たちが既婚者でも。ディランの美貌にフラリと理性が外れるかもしれない。ましては家事が上手などと知られたら……強気攻めで健気受け?
(いやだーーーー! 逃げてディー。逃げるのよーーーー!)
今朝は卵を混ぜる手に力がこもる。食事中についつい護衛のテルさんたちを睨んでしまった。
食後に薬草貯蔵室から薬草をカバンに詰める。リリーとリンダは小物などをカバンに詰めている。
今日は街へ降りて薬草と小物を売るつもりだった。服や食品は孤児院へ寄付することを女官長に伝えている。その他のものもなるべく孤児院へ渡して欲しいと伝えている。
荷物はディランが持つと言ったけれど断った。ディランには自分の身を守ってもらわないといけない。
警戒した通りに、ディランの貞節の危機はすぐにきた。




