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「はい。でもタイラ閣下やルーク殿下はご存知ないようです。独断ですがセシルさまのことはセイズ国神殿長に伝えました。
だが神殿は決してセシルさまの力を利用しようなどということはありません。
アシール神に誓います。
緑の民は巫女一族です。昔から緑の民の意志を守る、という掟があります。それゆえ緑の民を神殿が軟禁したり力を利用することはありません」
「ええ、わかっています。じーじの判断に反対するつもりはないわ……。でもセイズ王は……」
セシルはもしかしたらセイズ王になにかされるのでは? と不安になる。
「セシルさま。ラング王はセイズ王と親友でした。ラング王が幼少の頃に、王族が次々に亡くなった時期に、ラング王の命を救うために5年ほどセイズ国に留学されておりました。
ラング王はセイズ王を無二の親友とおっしゃっており信頼しておりました。どうぞ父上を信じてセイズ王に会ってください」
(じーじがそこまでいうのだったら……。)
セシルは元々セイズ王に会うつもりだ。セシルが怯えていることは、庶民になれるかどうかだったが、きっと神殿長にはセシルの気持ちなどわからないだろう。
「セシルさまの心配する気持ちもわかります。お願いがあります。どうぞディランをセシルさまたち付きの騎士として、お仕えすることをお許しください」
「じーじ。頭をあげて!! どうしてディーを? 私はもう王女じゃないわ。市井へ出て庶民として暮らす予定よ。私もディランが一緒にいてくれるとうれしいけれど……」
ディランはセシルにとってかけがえのない家族だ。前世の記憶が少しあるけれど、この世界で生きてきて悩みや不安がたくさんあった。
リリーに言えないことを、ディランに聞いてもらっていた。リリーもリンダも同じだった。
「私はディーを養う能力がないわ……」
お金がないなんて王女として恥ずかしい台詞も、神殿長には正直に言える。
「ほっほっほ。セシルさまは、本当に愉快な方だ。ほっほっほ」
「もう、じーじ!!」
セシルのことをいつも『愉快な方』と神殿長がいう。きっと王族としての常識を持っていないからそういうのかもしれない。
「ディランへを養う必要はありません。給料など考えずにお側つきにしてください」
神殿長の目が笑いながらセシルにいった。
「ディランはこのまま神殿騎士としての地位は保証されています。給料も神殿から出ます。そしてディランには私の全財産を与える予定ですよ。
私はずっとセシルさまやリンダさまやリリーさまのことを見守っていたい。ディランには三人の様子を手紙に書いて伝えて欲しいという役目をしてもらう。
私がもっと若ければ一緒について行けたのに……」
文明の利器がないこの世界で、一度離れると今度いつ会うかわからない。ましてはセシルはラングに戻ってくることはないと思っている。
滅びた王族がいつまでもラング国にいれば、ラング王国復興を企てる輩に利用される可能性が多い。なるべくラング国から遠いところへ行かなければいけない。この美しい祖国が戦地になることを望まない。
「じーじ。手紙をたくさん送るわ。もちろんリリーも下手な刺繍を送ると思うわ」
「もうセーちゃん! じーじ。私の刺繍を喜んで褒めてくれるのは、じーじしかいないわ。だからたくさんお手紙と刺繍を送るわ。
そしたら、じーじは返信がとても大変になるわ」
「ほっほっほほ。そうじゃな」
神殿長の部屋を出る時に、何度も彼に抱きつき頬にキスをした。日本ではこうしてスキンシップなどしなかったのに。
この国の人たちは挨拶代わりにする。寒い地域だから、相手のぬくもりが恋しいのだろうか。
神殿長はセシルたちが見えなくまで微笑んで見ていた。でも神殿長の目が涙で埋もれていたのを知っている。
ディランは箱庭に一緒に付いてきた。
元々セシルたちに付いてくるつもりだったらしく、荷造りをしていた。
ディランはすでに神殿長ともお別れをすませていた。
神殿長とは出発する時にまた会う予定だが、その時は人が多くて混乱していてこうしてゆっくり別れを伝えられないだろう。
セイズ国への出発は後3日後。




