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「護衛はすべて外で待機しろ!」
王さまがルネンさまを驚かさないように小声で指示を出す。
「ルネン。迎えにくるのが遅くなって、すまない。私を許してくれないか? 私を見てくれないか?」
王さまはルネンさまとなにも約束などしていないし、会ったこともない。それなのに、王さまはルネンさまを気遣いやさしい声で話しかけて、彼女の横に座る。
「わ、私、汚れているの。もう結婚できないの」
さっきと違ってまともな口調でルネンさまが言った。
「ルネンは汚れていない。もし汚れているなら、私がルネンを綺麗にするよ。私を見てくれないか?」
ラング王がこんなにやさしい声を出せるとはじめて知った。軍を引き連れている時も、民に声をかけた時も、常に威厳のある声だった。
ルネンさまがゆっくりと頭からかぶっていたシーツを外した。
長身で脂肪のない均等のとれたラング王は、男の神官長から見ても端正な美しいお方だ。ルネンさまの白磁の色の肌はいっそう白々として、蒼い顔でラング王を見つめている。
この世にこれほど美しい人たちがいるのだろうか……。
目の前の景色に見惚れて息をすることも許されないような景色だった。
「ルネン。迎えにきたよ。一緒に私の家にきて欲しい」
ラング王がルネンさまの目からこぼれた涙を、人差し指で掬う。その仕草一つ一つに彼女への愛情があった。のちにラング王が言っていた。
『私は女神に一目惚れしたんだ』と。
ルネンさまは子どもが癇癪を起こしたように泣きつづけた。ラング王は根気よく何度も彼女を抱きしめて、背中をさすった。
どれくらいの時が過ぎたのだろう。
「セスさま。わたし。もう薬師さまになれないの。私、人を殺す草を作ったの。それでね。人を貶める草も作ったの」
さっきまで光のあった目が、またあっちこっちに忙しく動かしながら、ルネンさまが言った。
「そ、それは、どういう草ですか?」
ルネンさまの様子がおかしいのに気づいたから、セスさまは恐る恐るやさしい柔和な声で尋ねる。
「それ。触っても大丈夫だよ」
ラング王から離れて、ベットの横にあるサイドテーブルの上にある親指くらいある実をさした。
セスさまがその実を手にする。
「これは人を殺める草になるのですか?」
セスさまがルネンさまを怖がらせないようにやさしく尋ねる。
「ううん、それは、人を殺さないわ。怖い人たちがこの部屋にきたら、この実を暖炉に投げて燃やすの。そしたら怖い人たちが、ぼーっとなるから、私を殴ったりしないの。
人殺しの草は、あ、あ、あいつの家に、お、おいてきたの」
ルネンさまの体が急にふるえ出して、ラング王にしがみ付いた。
部屋にルネンさまのすすり泣きがこだまする。
ルネンさまはラング王のマントにくるまれて館を出た。ルネンさまは3日間目をさまさなかった。セスさまがルネンさまの私物を調べたり、娼婦館を調べた。
ルネンさまは娼婦館の敷地を使用人と同伴であれば、自由に歩けた。使用人の一人が、ルネンさまは庭の雑草が生い茂っている場所を好んで、暇さえあれば雑草を見ていたと言った。
セスさまがその場所で多くの薬草の雑草を見つけてきた。ルネンさまが自分で創造した薬草を育ていた。他の雑草に混ざっており、館の者は気づかなかった。
ルネンさまは自分の傷や病気を自分の薬草で治していたのだろう。そして彼女はこの薬草のことを館の誰にも話をしていなかった。
薬草の中に、花が咲いている草があった。その花が人に幻覚を見せる実をつけた。ルネンさまが見せた実。ルネンさまが創った四つの植物。
どんなに人へ害を与える植物であっても、人はその植物を受け入れなければいけない。
アシール神が、創造する緑の民に与えた力で創造した植物。どんなに害があろうとも、アシール神がこの世に必要な植物としてお与えになったもの。
例え、それが有害物でも……。毒は薬にもなる。また薬は毒にもなる。セスさまの口癖だ。
アシール神がルネンさまの創造した幻覚作用の薬草や人殺しの薬をこの世に与えたなら、人はそれを受け入れなければいけない。
その時、緑の民のルネンさまを虐げた罰としてアシール神が人に与えた植物と受け入れた。
ルネンさまはラング王の後宮に入った。だが、まだ力の弱いラング王の後宮は、有力者たちが次々に女や刺客を送った。刺客はもちろんルネンさまに。
玉座についたばかりのラング王は力がほとんどなかった。ラング国をミチル国から守るためにミチル王女を娶った。
だが王太子出産後は、ラング王にも刺客がせまった。一番大きいのは毒殺だった。
ルネンさまはすべての毒に効く薬草を創った。ルネンさまと王さまは、常にそれをユッパと共に飲んでいた。セシルさまが生まれてからは、セシルさまも摂取している。




