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 翌日昼時にセスさまが孤児院へきた。ルネンさまがいなくなったことを伝えた時の彼の絶望的な顔が忘れられない。


 セスさまに神殿で待つように言われた。それ以外に彼は口を開かなかった。


 数時間後、神官たちの慌しい音が響く。神殿長は自分の出世の道が閉ざされたと、ルネンさまの身を案じているが自分の出世のことも案じていた。


 神殿にセスさまと王さまがきた。冷や汗を何度も拭きながら当時の地方神官長が王さまを迎え入れた。だが彼が挨拶をしようとしたが、王さまが「神殿長と個別に話がある」と言った。


 特別に秘密事を会議する部屋に案内した。部屋には神殿長、セスさまに王さまだけだった。護衛たちも部屋の外にいる。


「セス。話を」


 王さまが言った。まだ22歳のラング王は貫禄のあり美貌の持ち主だった。彼の口から出る威圧のある声を聞いただけで、今後どんなお咎めがあるのかと、身がふるえた。

 しかし心の中で、たかが一人の孤児がいなくなっただけで、王さままで出てくるなどありえない。怯えているが、たいしたお咎めにならないだろう、という気持ちもあった。


「ルネンさまは緑の民です」

 

「……」


 ラング王と神殿長は、唖然とした。いまセスさまが言った言葉を理解するのに時間がかかった。


「緑の民だと? 緑の民はおとぎ話ではなかったのか?」


 ラング王が問う。


「はい、私も緑の民はおとぎ話の人物と思っていました。神殿が作った伝説と、ルネンさまに会うまでそう思っていました」


 セスささまがルネンさまに緑の民に対して敬意を払って、「さま」をつけた。いまたかが孤児だった少女が、王族よりもはるか尊き存在になった。

 神殿長も神殿に仕える神官なのに、緑の民をおとぎ話と思っていた。


「でも、緑の民は実在しているのです。ルネンさまは確かに緑の民でした。この前会った時に、『植物のことがわかる』と言ったので、『まさか!』と思い確認しました。


 庭で植物を促進した力を見ました。もうそれだけで十分でした。彼女が緑の民で保護しないといけない尊いお方と。すぐにルネンさまを保護したかったのですが、できませんでした」


 チラリとセスさまが神殿長を見た。


「私だって、もしルネンが! ルネンさまが緑の民とその場で知らせてもらえれば、すぐにでも彼女の身柄をセスさまにお渡ししました!」


 ま、まさか、あのルネンが……。ルネンが伝説の巫女の末裔だったなど。頭から血の気が下がっていく。もう出世などどうでもよくなった。


 神殿長は自分が犯した罪の深さに気づいた。


「ああ、下手に他言できることでなく、神官を信用しなかった私の落ち度だ……。

 陛下。ルネンさまの捜索を本格的になさってください。ルネンさまは、ルネンさまは……普通の緑の民ではありません。彼女は『創る緑の民』なのです」


「なっ、なんだと!!??」


 王さまが顔面蒼白になる。『創る緑の民』は、ほんの一握りの神の使いと言われている伝説の人物だった。神の力の一部を持ち、植物を創造する者。

 この緑の民を虐げるとこの世は消えるといわれ、緑の民を慈しむと土地は豊になると言われている。


「ルネンさまに庭を見せてもらった時に、彼女が作った薬草を見せてくれました。『見て、私が創ったの。不思議でしょう』と彼女がおっしゃいました。

 彼女に緑の民について教えました。最初は驚いていましたが、『この力があればたくさんの病気を直せる薬をつくれるわ』と喜んでいました。

 もちろん彼女に、緑の民が一つ以上の植物を創造したと聞いたことがないとお伝えしました」


 セスさまの目から涙が一粒こぼれた。


「彼女が『私は何個でも創れるわ。見て、これは傷が治る薬草で、これは肌が荒れた時の薬草よ。それでね、こっちがお腹が痛い時に飲むとすぐに治る薬草よ』と三つの薬草を見せてくれました。

 私は薬草に詳しいです。いろいろな土地へ行き、さまざまな薬草を調べました。

 ルネンさまの見せてくれた薬草は、どれも今まで見たことがなかったものでした。いくつか王都に持ち帰り調べました。その結果、ルネンさまがおっしゃった通りの効果がありました。


 元来、似たような症状を抑える薬草がありますが、ルネンさまの薬草の効果は一発です。なにより彼女の薬草は手入れをしなくても雑草のように育つのです。

 質素な草で、誰が薬草と気づいたのだろうか……。ルネンさまが怪我や擦り傷が多い子どもたちを思い、またすぐにお腹を壊す子どもたちのことを思って創造した薬草。


……陛下。お願いします。ルネンさまを探してください。私は彼女に約束しました。王都へ連れて行って、陛下に挨拶をしようと……。

 その時の彼女の笑顔が忘れられません……」


 ルネンさまが他の子どもたちお世話を、他の年長者たちより喜んでしていたのを知っていた。彼女がどれほど孤児の仲間を、幼子たちを愛していたかと思うと、自分の犯した罪の大きさに罪悪感に押しつぶされる。


「わかった。セスにルネンの捜索を依頼する。軍を一団託す。その際、一かいの孤児の捜索では人は動かない。彼女になにかあると疑う者も出るだろう。

 緑の民と知られていけない。今後のために、また彼女を保護のために、ルネンを我の側室になる者だったとする。


 彼女の美貌は前に噂で聞いた。王都まで聞き及ぶ美貌だ。一目惚れした王が彼女が成人するのを待ち側室にするつもりだった。と適当に話を作ればいい。

 そうしたら、もっと彼女についての情報が入りやすくなるだろう」


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