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 ラングの神殿長は、自分の犯した罪の懺悔を話せる時がきたことをアシール神に感謝をした。

 目の前に座るセシル姫は、神の化身。そして神殿長はセシル姫にそっくりなもう一人の神の化身を穢してしまった。

 今からこの方に自分の過去の罪を話す。何年この時を待ったのか……。


 20年前、ラング神殿長はただの神官だった。ミチルとの国境都市の神殿で上官をしていた。神殿の孤児院の院長もしていた。

 いつか上の地位に付きたいと、神官のくせに俗世の野心を持っていた。


 孤児院にルネンさまがいた。多分娼婦が捨てたのだろう。飛び抜けて綺麗な赤子だった。彼女は幼い時から美しく、他の孤児たちの中でも一際目立っていた。男の子たちは彼女に惚れて、女の子たちは嫉妬していた。

 何度もいじめや言い争いがあったけれど、同じ場所で生活する子供たちは、兄弟姉妹仲良く成長していった。ルネンさまの性格が、素直で明るかったから、妬む女子たちも徐々に彼女を姉妹のように愛した。


 ルネンさまは年々さらに美しくなる。彼女の美貌の噂は、遠いところまで広まった。幾人かの貴族たちが彼女を養女にしたいと申し出た。

 ほとんどの貴族は彼女を養女にして、将来自分の妾にする気と調べてわかったから断った。

 12歳を過ぎると彼女の美しさは、顔だけではなく体にも及んだ。すべての女性が羨ましくなる体系に育っていった。

 ルネンさまには、孤児院から外に出ることを禁じた。

 それが彼女にとって一番安全だった。でもずっと彼女を孤児院に閉じ込めておくことは、可哀想だった。



 王都の薬師館で働くセスさまに相談の手紙を書いた。セスさまは王さまの薬師だ。ただ放浪くせがあったから、薬師館長になれなかった。でも優秀な薬師で、国や国王が認めた薬師さまだ。


 ラング王の父王が崩御なされた時にも筆頭薬師をされた。セスさまは珍しい薬草を求めて、何度かこの街にきた。

 その際に孤児院の子供たちの病気も見てくれた。

 セスさまはルネンさまのことを知っている。セスさまは神官長の手紙の返事の代わりに直接会いにきた。


 セスさまも数年ぶりに見るルネンさまを見て困惑した。王宮で美しい貴婦人を見て目が肥えているはずのセスさまでも、ルネンさまの美貌は神がかりに感じたのだろう。


「ルネンは将来なにをしたいのだ?」


 セスさまがルネンさまに尋ねた。


「私はセスさまのように薬師さまになりたいわ。薬師になって子どもたちの病気を直したいわ」


 ルネンさまがキラキラした目で語った。


「そうか。薬師になりたいか? だが薬師になるには、多くの植物の名前や成分を勉強しないといけない。それでもいいか?」


 セスさまがルネンさまに、本当に薬師になる覚悟があるか念を押した。


「勉強は……。で、でも、植物の名前は、植物が教えてくれるから覚えなくてもいいわ。それに薬師になるには王都の薬師館で勉強するのでしょう? そうしたら、王さまを見れるかもしれないわ。

 今度王さまになったラング王がすごくかっこいいって、みんな噂をしていたわ」


「こらルネン! 王さまを見るために薬師になるなどと!?」


「あはは。もちろん両方よ」


 神官長はルネンが大切なことを言ったのに、気づかなかった。セスさまはなにか深く考え事しながらルネンさまを見ていた。


「少しルネンと庭を散歩してくる」


 セスさまがルネンさまを連れて執務室から出て行った。


 しばらくして戻って来たセスさまが、すぐにルネンさまを連れて王都へ行くと言った。それは急過ぎて、神官長は断った。

 16歳以下の子どもが孤児院から離れる時には多くの書類を国へ提出しないといけない。セスさまが自分の権力でその必要をなくすと言ったけれど、神殿長は聞き入れなかった。


 少しでも不正なことをすると将来に神殿長になれない。

 それにルネンさまにとっても旅の準備や、いままで一緒に育った子どもたちへの別れの時間が必要だ。どうにかあらゆる理由をつけて、セスさまは後日ルネンさまを引き取りにくることになった。



 セスさまがラング王がミチル国へ婚儀の儀で訪問する帰りに、ルネンさまを引き取りに来ると決まった。

 セスさまはラング王について、ミチル国へ一緒に行く。ラング王とミチル王女の結婚は、ラング国民の誰も望んでいない。


 ミチル王国はよい噂を聞かない。人身売買や人殺し餓死などの噂が絶えない。元にミチル国境のこの街にもミチルから逃げ出した者であふれている。

 この孤児院も他の地域に比べて子どもが多いのは、ほとんどミチルからの難民の子どもたちだ。この孤児院の子どもも、よくミチルの人買いに攫われる。


 だから孤児院の警備体制は国がしている。孤児院は高い壁に囲まれて、門には街の兵が常時待機している。

 人の出入りも厳しい。先のラング王は、孤児であっても子どもを大切にする方だった。


 今のラング王以外の王子王女たちをすべて失ったからだ、と国民たちは知っている。先先代からラング王族は、王太子以外すべて幼い時に亡くなる。

 セスさまが「王族は王太子以外、すべてミチルに殺された」と酒に酔った席でつぶやいたが、真実はわからない。今回ラング王がミチル王女と結婚した理由に関係があるのかもしれない。たかが一階の神官には政治の裏事情など知る手段などない。


 ラング王とミチル王女の婚礼が終わり帰国する時に、この国境の街を通る。街はお祭り騒ぎだった。

 もちろん神殿長も一神官として、さらに忙しい毎日を過ごしていた。だから孤児院のことは、すべて役員たちに任せっきりだった。


 王さま一団が街へ到着する前日に、孤児院で働いている役員が報告を持ってきた。


「孤児の一人のルネンがいなくなりました」


「なっ!! どういうことだ!!??」


 聞き込み調査によると、孤児院で風邪が流行っていた。セスさまが置いていた薬が少なくなっており、神殿に補給の連絡を何度もしたけれど、神官たちも忙しく後回しにされた。


 ルネンさまは風邪にかからなかったので、他の子の世話をしていた。子どもの一人が高熱で命が危ないと世話役が話した時に、ルネンさまが「私が森へ熱さましの薬草をとってきます」と言った。

 孤児院には現金がほとんどない。神殿で衣食のすべてを管理されていたから、薬を買いに行くことができなかった。


 世話役もルネンさまが薬師になるために王都の薬師館に行くと知っている。彼女が薬草について勉強をしているのも知っていた。

 神官はルネンさまの外出禁止を知っていたが、もう一人の孤児の命の方が優先事項と決心した。


 ルネンさまに孤児院の年長組の男の子たちを5人護衛につけた。


 でも数時間後に孤児院に戻ってきたのは、血相をなくした男の子たちだけだった。森で散策していた時に、黒い服を着た者たちに襲われて意識を失ったと。もうその時はルネンさまがいなかったと。


 神殿長は街の警備兵に捜索願を出したが、王さまの入街が迫っており、たかが一人の子ども探すことはできないと言われた。


 神殿長は神殿騎士及び神官や巫女たちにルネンさまを探させた。一晩探しても彼女の消息が見つからなかった。


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