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(リリーとリンダをこの野獣たちから守らなければ!)
セシルは自分に言い聞かせながら、目の前の侵入者たちを見ていた。
「ああ……。ラング王国第二王女、傾国姫の娘セシル姫だな?」
ワイルドイケメンは、声までセクシーだった。
隣国セイズ国には二人王子がいる。まだ未婚の王子たちの噂は、世間から孤立した箱庭にも噂が流れてくる。週一に生活用品を運んでくるデビー女官が世間話をしてくれた。
「はい。セシル=ルネン=ラングです。隣に控えているものは乳母のリンダと彼女の娘のリリーと申します。わたくしは傾国姫の娘ではありません。母上は傾国姫ではありません」
大好きなかーさまのことを諫められて、むかっとした。
どうせ処刑される身だからと、どこか投げやりな気持ちがあった。
「姫さま」
リンダが震える声でセシルに声をかける。
……、はっと息を飲んだ。リリーとリンダの命を守らないといけないのに……。
『ルネン』はセシルの母の名前だ。4ヶ月前に母が亡くなり3ヶ月前に、父ラング王が訪問してきた東の隣国ミチルの王様と王太子を殺害した。ミチルとラングは小国で、大国セイズによって生かされている国だった。
セイズは別に周辺の小国を吸収する必要のない富国で、実質上セイズが小国の運命を握っている。小国はセイズに贈税して庇護を受けている。かといって今までセイズは小国間の小競り合いに皆無だった。
けれどとーさまは隣国ミチルの王様と王子を殺害した。今まで国境で小競り合いがあったけれど、王族殺害までの理由がない。
とーさまの正妃はミチルの王妹で、セシルの姉姫と王太子の母親だ。だからとーさまがミチル王と王子を、ラング訪問の滞在中、城内で暗殺したことで世間に衝撃が走った。
誰もとーさまが隣国ミチル王族を殺害した理由を知らない。でも寵愛していた側室が亡くなって3ヶ月してからだったから、かーさまが原因と言う噂がある。
「私はセイズ第二王子ルーク=フォン=セイズ。セイズ王の名によって、ラング王を我が国セイズに連行せよと言う名目でラングへきたが、我の到着の前に自害した。
ラング王太子ならび王妃は、ラング王によって毒殺された。アリス王女は無事で保護した」
「とーさま……っ!!」
(なぜ!? なにがあったの!? あのやさしいとーさまが!!?)
「ひっ」
隣にいるリリーから小さい悲鳴が聞こえた。リンダがセシルの右手を握る。セシルの手がふるえているのかリンダがふるえているのか分からない。悲しみと不安な気持ちで混乱しているけれど、今はやるべきことがある。セシルはリンダの手を振り切って、地面に膝着いた。
「殿下! わたくしを処刑する前にお願いがあります。どうぞこの者たちの見逃してください。この者たちはただの使用人です。16年間、この屋敷から出たこともありません。
だから決して謀反に何も関わっておりません。どうぞわたくしめの死ぬ前の願いをお聞きください。どうぞご慈悲を!」
セシルは地面に頭をつけた。この世界の行儀作法なんてかーさま付きの女官に少し習っただけで、王子に対しての礼儀作法が分からなかったから土下座をした。人と会話なんてリンダとリリーとしたことがないから上手に言えない。
日本語の知識が妨げになり、この世界の言語を覚えるのに苦労した。今だに会話は苦手だ。
「嫌! 姫様を殺さないでください! 代わりに私を殺してください!」
「おかあさん! 私が死にます。姫様を助けてください。私を殺してください!」
リンダとリリーも地面にひれふした。
決して泣かないと決めていたのに、涙がでた。二人に愛されていると思って、この世界に生まれてきてよかったと思えた。リンダとリリーの涙声も辺りにひびいた。
「……いや~、俺たちって、相当悪者じゃん?」
「……別に誰も殺す予定はない……」
「そうそう。姫様たち、そんな地面に座ってないで立ってくれない? こんな入り口で立ち話もなんだから、ちょっと中に入れてくんない?」
王子の横にいる中性的なイケメンがしゃがんでセシルたちに話かけた。
リンダとリリーがセシルを見て、今なにを言われたかわからない顔をしている。
「あっ、はっ、はい。姫様お手を」
リンダがはっとして涙を拭いて、セシルの体を起こす。中性イケメンがリリーに手をかそうとした時に、リリーが「ひいっ」と叫び声をあげて倒れた。