表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/116

19

 室内の中はすすり泣きが絶えない。今回は王妃や王太子の告別式も一緒に行われている。でも、神殿長の話では二人がアシール神の元で正しき自身を見つけることを祈るとしかなかった。

 後はすべてとーさまの業績や賢王としての人生を讃えていた。


 一番驚いたことが、神殿長がとーさまはかーさまに出会えていま幸せにしていると言ったことだ。かーさまは側室。

 ここにアリスさまが出席していなくて、よかった。

 でも心の中で、アリスさまの薄情さに嫌気がさしていた。ルークにアリスさまが出席しているか聞いたら、「あの犯罪者はわたくしの身内ではありません」と言ったそうだ。


 セシルたちはかーさまととーさまの歌を演奏する。ハープの三重奏の音色にセシルたちの歌を乗せる。


(とーさま。さようなら。私はラングを離れます。ずっと守って愛してくれて、ありがとう。私は大丈夫です。)


 どうしてとーさまが自分に会いにきてくれないのか。と何度も怒りが沸いた。とーさまが自分に会いに来ない理由を知っているのに……。

 ただ最後に「さようなら。ありがとう。愛しています」と伝えたかった。とーさまはセシルの思いを知っているけれど、口に出して伝えたかった。


 演奏が終わると、セシルはもう涙をこらえることができなかった。リンダはリリーを抱きしめて泣いている。セシルは最後まで王族としてしっかり勤めをはたそうと、涙を拭く。

 今日出席した人々にお礼を伝えた。とーさまのことずっと支えてくれる臣下や国民に恵まれて幸せだったとよくセシルに話したことを伝えた。

 

 セイズ王はとーさまがすべてを託した信頼のある王さま。今後、セイズ国民とともに、貧しい民がいない平和な国を作って欲しい、と伝えた。


 前世のセシルは人前でスピーチなどできる性格じゃない。現世でも人前に立つなんてしたことがない。


 告別式が終わり人々が出て行った後に、数人の重臣たちと挨拶を交わした。宰相をはじめとする数人の者たは何度か手紙のやりとりをしていた。


 全員、セシルがかーさまにそっくりで、元気に立派に育ったことを褒めた。宰相においては、ラング国を豊にしてくれたお礼をされた。

 セイズ国へ出発前に渡したい物があると言われた。


 神殿の神官に紫のバラを渡した。とーさまの納骨室へ置いてきて欲しいと頼む。紫のバラを目にした者たちが感嘆のため息をする。


 ルークに「紫のバラなど聞いたことも見たこともない。どこで手に入れたのか? ラング王は一体どれだけ俺たちが知らないものを知っているのか?」と問われた。


 セシルは返答に困り黙った。ルークがイライラしながらセシルを見ている。

 リンダとリリーはセシルの腕をつかんでふるえている。リンダにおいては、タイラさまの視線から逃げているだけだろうけれど。


 タイラさまは独身だけれど王族だ。もしかしたら、彼はプレイボーイで今まで結婚しなかったのかもしれない。

 リンダをただの侍女と思って、お手付けするつもりなのかもしれない。


(絶対、そうだ。男なんて、女を顔と体しか見ていない!へっ、私のことをニキビ豚って呼んで女って見てなかったくせに! ふん! 男なんて2次元だけで間に合ってます! 絶対にリンダを野獣から守る! はっ!? タイラさまは獣攻め?)


 『キッ!』


 とルークを睨む。ルークはタイラさまの甥っ子。同罪!


「いや、別に無理に問いているわけではない……」


 ふん。っと顔を逸らす。背の高いルークの顔を見続けるのは首が痛くなる。大体、彼を見ているとお腹の辺りが蝶々が飛んでいる感じがする。その得体知れない感じが落ち着かない。


「セシルさま。リンダさま、リリーさま」


 正装から着替えた神殿長が声をかけた。


「「じーじ!」」


 セシルとリリーが神殿長の手を握る。神殿長はセシルたちに会いに何度か後宮に来た。もちろん箱庭には入れなかったけれど、門の横にある連絡窓越に会った。


 小さいセシルとリリーは神殿長のことを『じーじ』と呼んでいた。じーじからアシール神について話を聞いた。他にもラングの国や民のこと。

 またはラングの伝統行事など。


 リリーが7歳の時に、外に出てみたいと言って駄々をこねた。


 とーさまがリリーの願いを聞いて、神殿長に頼んだ。リリーは神殿で巫女見習いとして生活をすることになった。

リンダが何度もリリーを説得したけれど、リリーの外への願望の方が大きかった。


 とーさまは一度箱庭を出た者を、二度と招くことはない。


 セシルは何もリリーに言わなかった。セシルにはリリーの気持ちが痛いほどわかっていた。

 リリーが外に出る前に、神殿長がセシルたちに言った。彼はセシルたちによいことしか話していなかったと。


 セシルとリンダには、世間の残酷さや汚さを知っている。でも、リリーは知らなかった。神殿長の話す楽しい外の世界だけを信じていた。


 リリーが箱庭を出る時に、門が開かれた。門の外に女官長が一人待っていた。でもリリーは門を出なかった。その日以来、リリーが外に出たいと言うことがなくなった。


 でも、とーさまが、セシルやリリーが成人したら二人をここから出してあげる言っていた。もちろんその時は、リンダとかーさまに会いに後宮の箱庭にいつでも遊びに来れるようにすると。


 セシルたちは18歳の成人になる前に、箱庭から解放された……。


 神殿長がセシルたちと話をしたいとタイラさまに言った。タイラさまがセシルたちの護衛で付いてくると言った時は、このオヤジの脛を蹴りたくなった。


 タイラさまが一緒に付いてくる方が危険すぎる。


(ええ。もちろん睨みましたよ!)


 この世界に伝わっていない名前の知らない邪神を招き入れながら、『はげろ』と言う怨念をこめてタイラさまを睨んだ。


 前世セシルのことをバカにした男どもに、『はげろ』怨念は結構威力を見せたと信じている。


 ルークがしぶとく護衛をすると言っているタイラさまを側近のレイさんと一緒に引きずって祈祷館から出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ