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ラング王城内にあるアシール神殿は、代々王族の婚姻葬式などの行事を執り行っていたから大きい。人が300人ほど入れる。
とーさまの時代にすべての窓にガラス窓に入れ替えた。祈祷館の奥座にあるステンドグラスは、諸国に有名だ。
ラングの花。マーガレットの形をしている花。春に咲く花びらは水色。冬の長いラングに最初に春の訪れを教えるラングの花。
そして冬が来ることを教える花。秋の終わりに、ラングの花は黄色花びらをつけて咲く。年に二回違う色の花びらを咲かせる不思議な花。
長い間大地を被っていた雪が解けて、生命の息吹を最初に吹きかけるラングの花。
ラング国民に喜びを運んでくれる花。水色の花びらの『ラングの花』の花言葉は、『生命、息吹』ラング国民は、この花を愛している。『ラングの花』と言う名前の植物。多分、このラング国に生きた緑の民が創造した花。
秋の『ラングの花』黄色い花びらは、『希望、故郷』と言われている。冬将軍の訪れですべてが閉ざされる世界で、人々が春が来ると希望を持つようにと。
また、ラング国民が土地を離れる時に、戻って来る場所はここだよ。と道標。旅立つ者へ、ラングの花が描かれたお守りをあげる。
セシルには『ラングの花』は、緑の民が創造したと確信している。
緑の民が創造したほとんどの植物は、神殿にも記録が残されていない。アシール神が創造した植物か、緑の民が創造した植物か人には知ることができない。
もちろん緑の民のセシルにも。
でも、『ラングの花』は緑の民が創造した植物と信じたかった。もしかしたらセシルの祖先が、創造した花と信じたかった。
ステンドガラスも、セシルがセスと会話をしていた時に出た話題だ。セスがステンドガラスのことを開発機関に教えた。
セシルはただ「緑のコップが欲しい」とセスに頼んだだけだった。ガラス職人によって色つきのガラスが開発された。
キラキラ違う色のコップを、窓辺に飾った。違う色の光が入る景色を、かーさまが喜びながら眺めていた。
拳くらいの大きさのクリスタルカットのガラス玉をセスに頼んだ。
窓辺に天井からクリスタルカットのガラス玉を吊るす。風に揺れて、日光の光を反射して、部屋に七つの色が飛び交う。
リリーと両手をつないでくるくる光の中で回る。かーさまは一人で両手を広げて回っていた。
何度も何度も。部屋は幼いセシルたちの笑い声で埋もれていた。
「セス。クリスタルのガラス玉をありがとう。いつかステンドガラスを見たいな」
と伝えた。
「セシル姫さま。ステンドガラスとはなんですか?」
もしかしたら、貧しいラングにはステンドガラスがないのでは、と気づいた。セスにステンドガラスについて説明した。いつか他の国のステンドグラスを見にいきたいと、その時はそう思った。
まさかこの世界には、色ガラスやステンドガラスがないと知らなかった。
ステンドガラスも色ガラスも、ラング国の特産物。でも、すぐに他国も生産しはじめた。しかしこの世の最初のステンドグラスは、ラング王城のアシール神殿にある『対の水色と黄色いラングの花』。
ステンドグラスは、とーさまが愛する側室のために作った物。と言われている。
祈祷館の入り口には、ノブと同じ紺色のユニフォームを着ている神殿騎士が二人両サイドに立っている。
「お疲れ様です」
足を止めて二人に声をかける。
「お疲れ様です」
リリーもセシルの真似をして頭を下げた。
「きょ、恐縮で、ご、ございまっしゅ!!」
二人はセシルたちが階段を登ってくると、セシルの斜め後ろにいるリリーとリンダの美貌に目をとられているようで唖然とした顔をしている。
やっと声が出た一人の騎士の言葉で、ここまで来る間にひしひしと積もる緊張が少し解けた。
建物の中に入る時に、護衛のテルが「姫さま。無闇に頭を下げるものではありません。リリーさまもお気をつけてください」と怒られた。
リリーと顔を合わせる。二人にはどうして怒られるのか理由がわからなかった。