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 部屋に戻り少し横になった。

 リンダに手伝ってもらい告別式の準備をした。シンプルなハイネックのドレス。髪を未婚女性がするハーフアップに結ってもらう。

 リンダもリリーも準備ができている。リンダは結婚経験がないけれど、既婚者の髪型をしている。二人の髪にはとーさまがプレゼントしたそれぞれの色でできた髪飾りを挿している。


 セシルの髪にも最後の仕上げで、とーさまからもらった髪飾りをつける。

 水色のブルートーパズでできたバラの形の髪型。バラの葉っぱは、ペリドットとグリーンガーネット。金の串に添えられた繊細な水色のバラの花。

 とーさまが特別セシルのために作らされた髪飾り。


 リンダの髪飾りはイエロートーパズの花びらで、リリーはマンダリンガーネットで作られたバラの髪飾り。かーさまのバラの髪飾りはダイアモンド。この髪飾りは形見としてセシルが持っている。これだけは、セイズに渡すことができなかった。代わりにセシルの小遣いで換金した宝石をセイズに渡した。


「リンダ。綺麗にしてくれて、ありがとう」


「姫さま。私はもっと姫さまを飾りたいのに、全然させてくれないですもの」


 リンダがすねて頬を膨らます。こういう仕草はリリーもよくして、リンダの年を忘れてかわいいと思う。


「そうよ。セーちゃん。セイズに持っていく正装ドレスが三つって少なすぎよ! セーちゃんが三つしか持っていかないって言うから私も三つしか持っていけないのよ。

 せっかく着ていく機会ができたのに」


 リリーがリンダと同じように頬をプーとする。


「だって謁見で一着、もしかしてお茶会で二着、さらにもしかして、もしかして、で三着よ。それに身軽じゃないとセイズ王さまに会った後で旅行する時に大変な思いをするのはリリーよ。身軽じゃないと大変よ」


 セイズまでの旅行について詳しく聞かないといけない。セシルたちはトランク一つづづ用意したけれど、セイズ王族へのお土産が増える。

 どれくらいの荷物を運んでいいか聞かないといけない。


「うん、それはわかっているわ。で、でも、全部のドレスを着てみんなに見てもらいたいって思ったの」


 とーさまはセシルたちにドレスを何着もプレゼントしてくれた。毎シーズン流行のドレスをリンダとリリーにもあげた。箱庭から出ることがないのに……。

 セシルたちにドレスや装飾品を送るのは、とーさまのセシルたちへの罪滅ぼしと知っている。


 とーさまはかーさまを守るために箱庭を作った。かーさまが守らないと生きていけない人だったから……。


「じゃあ、リリー、いまから全部ドレスをいっぺんに着たら?」


「も~。セーちゃんの意地悪!!」


「あっはっは~。リリーはどのドレスを着てもかわいかったよ。セイズ王さまの会見が終わったら、もうこんなドレスを着ることはないけれど、いつかリリーが結婚式をあげる時に、リリーの一番のお気に入りのドレスを着たらいいよ」


 『結婚』セシルとリリーが結婚と言う言葉を言う度に、リンダが悲しい顔をする。

 リンダはいまだに若くてかわいいから、嫁に欲しいと思う殿方がいると思う。結婚年齢が早いこの世界で相手が初婚と言うのは難しいけれど。再婚でもいい人がいると思う。でも、リンダがそれを望んでいないのを知っている。

 リンダはこのままずっと箱庭で三人で生きていくことを望んでいたことも知っている。

 いま一番リンダが辛い時を過ごしている。セシルとリリーは外の世界に希望を抱いているけれど、リンダには外は恐ろしい場所だ。

 リンダとかーさまは、同じだった。


 市井で生活したら、もうシルクのドレスを着ることがない。


 この世界は不思議だ。地球と同じ動物や生き物がいるのに、植物だけは全然違う。


 リンダもリリーも黒い布の質素なドレスを着ている。二人のストロベリーブロンドの髪の毛がさらに映える。二人のゆったりとウエーブのかかった髪型に、とーさまの髪飾りが輝いている。

 二人の髪はシルクの糸のようだ。輝くのシルク糸に包まれた輝くバラの宝石。二人の姿を見た護衛たちが呆気な顔をした。


(うん。二人は綺麗だもんね。見惚れるのわかるよ。私も男に生まれたら、絶対二人と結婚するよ。

 しっかり二人の護衛を頼む!)


 と、セシルが護衛たちに期待しているのに。彼らはセシルたちの持っている手持ちハープを持つと言ってきた。


「手がふさがったら護衛できますか?」


 結局二人の護衛が三つのハープを持つことになった。リリーとリンダを守る人が少なくなったから、セシルは二人を守らなければ! と気合を入れたけれど。


 (とーさまの告別式に来る人なんていない。城内にある神殿の祈祷館は閑散としているはずだ。

 別になにも心配などない。)


 護衛を連れて生活をすると、下手に世間が物騒なところと勘違いしやすくなった、と反省する。


 箱庭の門を出たらデビー女官や女官長をはじめとする侍女たちが待機していて驚いた。みんなとーさまの告別式に出席するからお供をしたいと言った。


 目から涙がこぼれそうになる。


「姫さま。化粧が落ちます」


 リンダの言葉でグッと涙を止める。女官長たちにお礼を伝えて祈祷館へ行く。祈祷館までの間、人に会うことはなかった。


 (朝はあんなに賑わっていた城内だったのに……。)


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