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後宮へ向かう廊下を歩いていると、真っ赤なドレスを着た女の子がこっちへ歩いてくる。
真っ白な顔でワシのように高い鼻のそばかすに、つい目がいく。
琥珀色の目の色はアンバーのようで、とーさまの色を思い出す。ウエーブのあるハニーブロンドの髪を綺麗に結っている。
綺麗な色彩を持つ女性だったが、赤いドレスと目のつり上がった顔で初体面なのによい印象を持てなかった。
「そこをどいて頭を下げなさい」
甲高い声が石造りの静寂な廊下にひびく。
「アリス殿下。こちらは妹姫のセシリアさまです」
テルが言った。
「そう。あなたが……。母親に似て、男に媚びるのが得意そうな顔をしているのね」
(うわー。これって、いちゃもんつけられているの? 男に媚びるのが得意そうな顔ってはじめて言われた!)
セシルは前世、「ブス、おかめ、にきび豚、きめー、こっち向くな」と言うことを言われたけれど、アリス姉様のように言われたことがなかったのでうれしくて感動していた。
「はじめまして。お姉さま。セシルと申し上げます。よろしくお願いします」
王族への礼ではなく対等な身分の相手にするお辞儀をする。
「誰が姉よ! いい、よく聞きなさい! わたくしはミチル王族です。あなたは罪人と娼婦の子ども。今後わたくしと血縁関係があると思い、軽々しくわたくしに声をかけるのはやめなさい。
セイズ国王もこんな子をさっさと断罪すればよろしいのに。そう思いません?」
アリス姫が周りの護衛や侍女たちに尋ねた。彼女付きの者たちが返事に困っている。
「分かりました。それではご機嫌よう。行きましょう」
失礼な態度を取ったかもしれない。でも二度とアリスお姉さま、いやアリス姫と二度と接触することがないから別にいいと思った。
セシルは箱庭に戻った後も無言だった。護衛たちは心配そうにセシルをうかがっている。
でもセシルはどのようにして護衛から離れるか思案していた。
(告別式に紫のバラを持っていきたい。)
リンダとリリーに小声で耳打ちをする。
「ねえ、どうしたら護衛さんたちから離れられると思う?」
「姫様はアリス姫様の言葉に傷ついていなかったのですか?」
「まさかセーちゃんがそんなことで傷つくなってないわ。きっと心の中で、『今後関わらないでいいからよかったわ』とか思っていたんでしょう?」
リリーがニヤニヤした顔をした。
「うん。リリーは本当によく私のこと知っているよね」
「もう何年一緒にいると思うの? そうだ! そのまま傷ついた顔をしていて。そして『少し一人になりたいの』って言うのよ」
リリーはなにかと策略家だ。
「うん。それはいい案だわ。そうするね」
「姫様。くれぐれも無理をしてたくさんのバラの花を促進してお倒れにならないでください」
「はいはい。リンダは本当に心配症なんだから。三本だけにするよ。二人は告別式の準備をお願いね」
リリーの作戦は成功した。
リリーたちと別れた時に彼女が「男なんて単純な生き物なの?」と聞いてきた。男について知らない。所詮セシルの知っている男は二次元で、ほとんどが腐女子作家が書いた男たちだ。
「リリーが知らないことを私が知っているはずないわ」
リリーは納得していない顔をしながら、告別式の準備をしに行った。
グリーンハウスの扉でテルたちが待機する。
グリーンハウスは屋根にガラスが張っている。この世界ではガラスは貴重品だ。グリーンハウスは贅沢品だ。
セシルが10歳の時にセスにグリーンハウスの説明をした。
とーさまがグリーンハウスを作ってくれた。工事の時はセシルたちは屋敷の部屋から一度も出ることを禁じられた。家の外は何人の護衛がいるのを、リリーと一緒にカーテンの影から見ていたらリンダに怒られた。
グリーンハウスには、かーさまが創造した薬草が四つ植えている。セシルが創作した植物も一つづつ植えられている。
かーさまの創作した残りの二つの薬草のことをセスに聞くと、彼が口を閉じて教えてくれなかった。「セシル姫様が大きくなった時に教えますよ」と、どこか悲しそうな顔で言った。
文通相手の神官長にも聞いたけれど、なにも返事がなかった。ただ「時が来たら、教えます」と手紙をもらった。




