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次の日セシルが目を覚ますとリリーとディランが「よかった。また何日も目を覚まさないかと心配した」と涙を流しながら喜んでいた。リリーは昨日からずっと泣いていたらしい。
朝食を食べてお風呂に入り気持ちがすっきりした。長い間寝たきりだったから足腰が弱くなっているはずなのに、全然普通だった。
ガジャマルの木はかなり優秀だ。
朝食の後にまたセシルが寝ている間のことを、二人にに詳しく教えてもらった。リンダがセイズ王弟と結婚して、セシルとリリーがセイズ王女になったと聞かされてビックリした。
アリスさまと血のつながりがない赤の他人だと教えてくれた。アリスさまは旅行しながら各地の民話を集めて本を作っているらしい。もともと交流のない人だったから、アリスさまのことを聞いても「そうなんだ」と思わなかった。
リリーがミチル王女で、国の合併、緑の力がバレたことなどなど……もうなんでもありで、ショッキングニュースがつづくと、どんどん驚き加減も減った。
セイズ王からとりあえずセシルは好きなように生きていい、と言われているらしい。セイズ国の王女になったけれど、庶民になって暮らしていいのだろうか? と考える。
アシール神殿の神官長に会った。渋い油の乗ったいいおじさんさんだった。
リンダとセイズ王弟も後で見舞いに来た。遠くからみたら美女と野獣で、近くで見たらロリ美女とワイルドイケメンワンコ獣だった。
王弟は一応セシルの義理の父親になるらしいが、リンダの周りにワンコのように、チワワのような態度でかい残念な人だ。これでセイズ国の将軍だと聞いて、この国ヤバいかも思ったのは内緒だ。
でもあの男嫌いなリンダが嬉しそうな顔をしていたから、二人の結婚を応援しようと思う。
昼食はメキシカンに似た料理でタコスだった。この世界にもメキシカンがあるんだなあ、と思いながら食事をした。食後にヤーリが来た。料理を作ったのがヤーリと知ってビックリした。
ずっとヤーリはもっと太っていると想像していたが、筋肉が引き締まっていて軍人と紹介された方が納得できる。ヤーリがメキシカンもどきの料理はセイズ国の伝統的な料理にセシルが手を加えたと教えてくれた。
セシルは不思議な気持ちで聞いていた。
今度セシルがセイズ国へ来た時に出会った家族に会いに行くことになった。その家族について覚えていないけれど、セイズの料理人だと言うことで楽しみだ。
午後はじーじに会った。はじめて会うのに、とーさまのようにずっと知っている気がした。ずっと文通していたからかな。今度じーじがラングへ連れて行ってくれることになった。
ラング国神殿長やデビー夫人などセシルは、みんなに会った記憶がないけれど、心のどこかで懐かしい気がする。
セシルは神殿の客室でセイズ国王と王族に会った。二人の王子たちと公爵家の令息。セイズ国はイケメンマッチョしか生産されないのだろうか?
キラキラでムチムチなイケメンたちを見ていると胸がドキドキする。恋でないのに、この胸の萌え萌えは一体なんなんだろう。
セイズ王と息子が並んだり、いいやディランも入れて、ノブさまでもいい。このさいフツメンのヤーリとセイズ王でもいい……なぜ男性たちが仲良くするとドキドキするのだろう……??
(……)
セシルは自分がなにか入ってはいけない思想の門を開けようとして戸惑った。
セイズ王の話に集中しないと.......。ノエールさまはリリーとお付き合いしていると説明された。さっきなにも言わなかったリリーをチラッと睨む。
サイール公爵家のマイクさまは中世的な顔立ちで物腰が柔らかった。王宮学園の薬師学科で研究をしていて、セシルも植物辞典を作る手伝いをしていたらしい。
またお手伝いできたら嬉しいと伝えたら、マイクさまもにっこり微笑んでくれた。
「陛下、わたくしは庶民になりたいのですが、なれますか?」
セイズ王が親切でなんでも尋ねてくれ、と言われたから質問してみたら、ギョッとした顔をした。もちろん周りにいる全員唖然とした顔でセシルを見ている。
「なぜ庶民になりたいのだ?」
なぜと改まって聞かれても返事に困る。前世が庶民で気楽だったから?
「自由に生きたいのです」
「セシル姫には公務をしてもらうつもりはない。好きなように生活をしていいんだ。だから庶民にならなくても自由に生きていけるぞ」
確かに……。セシルの中で前世の自分のことがかなり曖昧な記憶になっている。緑の力を使った対価は前世の記憶も失ったんだ。
「目覚めたばかりで体調も万全ではないうえ、見知らぬ土地で不安だろうが、我々はセシル姫を家族だと思っている。この国で姫が安らかに生活できるように我々は協力するつもりだよ」
セイズ王の言葉は本心だ。セシルを見つめる目が温かった。
それに反して第二王子のルークさまは、セシルの顔をジーッと怖い顔で睨んでなにも話さない。
結局、セイズ王たちが去る時までなにも言わなかった。
(リアル、俺さま王子だよーー)
個人的にお付き合いしたくない相手だ。
王族が帰った後にリリーとディランで、セシルに与えられた新しい部屋でお茶をした。シナモンが効いたユッパのお茶がおいしい。
「失礼します」
神官の一人が入室の許可を尋ねた。リリーが入室を許可した後に入って来た人物は、さっき会った俺さま第二王子だった。
「ルークさま、どうしたのですか? てっきり先ほど陛下たちとお帰りになったと思っていたのですが?」
リリーが尋ねると、「これを」とスーツケースを一つセシルの方へ渡された。
「スーツケース?」
「あっ、セーちゃんが前に作ったスーツケースと言うカバンをお母さんがいろいろな大きさやデザインを作って売り出しているの。
もちろんセーちゃんの案だから、お店も収入もラング商会が中心に商売をしているわ」
「別に収入とか利益とかいいの。ちょっと見たことのないスーツケースで驚いただけよ」
「う、うん。他に帽子とか最近流行しているの。セイズではサリーを使っているから帽子は受け入れられないと思ったけれど、以外に流行して。とくに男性に広まったのよ。今度商店街へ行こうね」
「俺も一緒に行く」
「えっ!?」
俺さま王子って喋れるんだ! イケメンは声もイケメンだった……声を聞いただけで心臓がドキドキするから、一生知らないでいい事実だった。
第一に王子と一緒にお出かけって、どんな嫌がらせ?
「セシル。スーツケースの中を開けてみてくれ」
(呼び捨てキターー)
イケメン王子に呼び捨てにされたのに、リリーもディランもリアクションがない。なんで?
おそるそるスーツケースを開けてみて驚きで言葉を失った。
「セシルに贈ろうと思ってずっといろいろ集めていたんだ。この他にもまだいろいろあるけれど明日にでも持ってくるよ」
ルークの言葉に戸惑う。
スーツケースの中には黄色と水色のラングの花の刺繍がされたサリーがあった。緑色や青色のカラフルなコップ。
紫の薔薇の刺繍がされているエプロンや、革製の軍手。セシルが庭仕事に使う道具にはセシルの名前が一つづつ掘られていた。
「ドレスや宝石は王宮のセシルの部屋にある」
「なんで……」
「心配するな。全部俺が騎士として働いて稼いだお金で用意した物だ」
「違う。そんなことじゃない。どうしてわたくしにこんな贈り物をするの?」
ルークは不思議そうな顔をした後に悲しい顔をした。
「すまない。俺はセシルを傷つけた。そして緑の力を使うように迫った。謝ってすむことではないが、謝罪させて欲しい」
ルークが上半身を曲げた。ルークが自分を傷つけたと言っているけれど、セシルにはなんのことか分からない。リリーもディランも緑の力で創った薬草で多くの人を救ったと言った。セシルは困ってリリーとディランの方を向いたけれど二人はなにも言わなかった。
「わたくし、なにも覚えていなくて」
「俺のことを、少しでも、俺のことを覚えていないのか……? ほんの少し、俺への憎しみでもいい、ほんのささやかなことでもいい思い出してくれ!」
綺麗な顔が苦難で歪むのは、見ていてこっちも苦しくなった。
「わたくし、あなたのことはなにも覚えていません。謝罪でこれを貰うわけにはいきません」
「謝罪だけではない。セシルに持っていてもらいたいんだ。セシルが眠っている間、苦しくて悲しくて、でもセシルの好きな物を考えて贈り物を用意してるとそんな気持ちがなくなって、代わりに楽しい気持ちになったんだ。
だからこの贈り物を受け取ってくれ。セシルに持っていて欲しいんだ」
さっきセシルのことを睨んでいたのは、セシルがルークに気づかなかったからなのかな? でもみんなセシルが記憶喪失と知っていたし、ディランが時前に教えたと言っていた。
「ルーク殿下はわたくしとお友だちだったのですか?」
「!! 違う、俺はセシルの「ルークさま!!」」
ディランがルークの言葉を遮った。
「ルークさま。セーちゃんにはセイズ国の記憶が一つもありません。あなたに出会ってからの記憶はなにもないのですよ。先程もお伝えしたように、一から新しい関係を築いていかないといけないのです。
私もセーちゃんと一から関係を築いていかないといけないのです。その関係が以前と違う形になるとしても」
「ディー?」
やっぱりディランもセシルが記憶がなくなって彼のことを忘れていて辛かったんだ。
「セーちゃんも不安にならないでください」
「セシル、俺は、俺は、セシルが目を覚ましてくれて、生きていてくれて嬉しかった。すまん。今日はここで失礼する。また明日会いに来る」
ルークは最後にセシルの手の甲にキスをして帰っていった。