11
セシルたちの朝は早い。夜明けとともに起床する。
(護衛は空気。って思えないよ……。)
朝から爽やかな護衛たち……。朝日とともにこっそり起きたセシルたちは、ドアを開けて悲鳴を上げた。
廊下に護衛がいた。護衛のテルがすかさず剣を抜く。
「お、おはようございます。よく眠れましたか?」
ドアを開けたら、護衛がいてびっくりしたのをごまかして挨拶をする。テルも何事もないことに気づき剣をしまい挨拶をした。リンダとリリーも小声で挨拶をする。
「はい、交代で睡眠とりました」
テルさんがヒゲの生えた顔でにっこり笑う。世の中のお姉様たちが朝からクラクラする笑顔ビームをセシルたちに振りまく。
(テルさん。抱擁オヤジ受けに決定!)
セシルたちの悲鳴を聞いた他の護衛たちも剣を携えて起きてきた。二度寝はせずにそのままセシルたちの護衛についた。
(はっきり言って。朝から邪魔!)
金魚の糞のようにどこでもついてこられると精神面に悪い。リンダたちのためにも、早く庶民生活をしたい。
昨日のことと、護衛のことを忘れるためにいつものように日課をこなす。春がそこまで来ているから気のはやい植物の芽が出ている。庭に行って植物の様子を見た後、鶏小屋で鶏たちに餌をあげて、ダッシュで卵を拝啓する。
ええ、もちろん後ろにべったりとついてくるテルさんがあっけにとられた顔をしているのは無視した。
着ているドレスをひざくらいにたくし上げて走ったから……。この世界は女性が足を見せるのは淑女のすることでは禁じられている。
結婚した後に夫にだけ見せてもいいらしい。
取り立ての野菜を台所に持って行く。朝食の準備をしているリンダの手伝いをする。レタスに似たこの世界の野菜を洗って切り、リンダがその間にスクランブルエッグを作った。
辺りに焼き上がるパンの匂いが漂う。
「お腹すいた~」
「洗濯、ご苦労、リリー」
レタスを皿に盛って、保存していたレモンに似た果実のドレッシングをかける。リンダはスクランブルエッグをレタスの横に載せて、ケチャップをかける。
「早く来月になって、洗濯係から朝ご飯担当に代わりたいよ」
「はいはい。でも来月は、どうなるかわからないわ……」
「きっと予定通り、セイズ王に面会して、この家みたいなところで生活しているから、来月の家事当番はいままで通りに交換制になるわ」
二人を安心させるために言った。
「うん。そうだね。あのね、私、外に出てみたい!」
「まあ、リリーったら。そうね。告別式は午後だから、いままでお世話になった方々に挨拶まわりしましょう。もちろんリンダもよ。今後外で暮らすのだから、男の人を怖がったらいけないわ」
「ええ。もちろん姫様と、どこまでもご一緒いたします」
気丈に返事をしたリンダの顔は青ざめていた。
家事を終わらせて門の外に出た。テルが「ルーク殿下に外出の許可を先に取らないといけません」と言ったけれど無視する。
「わたくしたちは捕虜ですか? 殿下の許可がないと何もしてもいけないのですか?」
テルはなんとも言えない顔をした。
門の外はまだ後宮内なので閑散としている。セシルたちが門を出たと言う噂はすぐに城に広まり、女官長とデビー女官が急いでセシルたちに会いにきた。
女官長は結婚するまでかーさまの侍女をしていて、しばらく箱庭に住んでいた。二人は涙を流してセシルたちの無事を確認した。セシルたちは今後の予定といままでのお礼を言った。
王族から席を外され市井で暮らすことを伝えると、女官長がさらに泣いた。セイズ王に謁見した後に女官長の家に住むように言われたけれど断る。セシルたちは南に行く予定だ。南の暖かい地域でしか育たない食べ物を作りたい。
女官長からの出発するまで他の侍女たちをセシルたちにつけると言う申し出を断った。
またテルが「ルーク殿下の許可が必要です」と言ったので、二人は諦めてくれた。彼に面会したがる者たちが多い。
きっと出発までルークの顔を見ることはないだろう。とーさまの告別式にルークが出ると思えなかった。
とーさまの葬式は身内の小さなものだろう。セシルたちできちんととーさまを送り出そうと昨晩ベットに横になりながらリンダたちと話し合った。
三人でとーさまが大好きだった曲を、手持ちハープで弾くつもり。箱庭は下手をすれば何も娯楽のない場所だ。
リンダが手持ち竪琴の弾き手で、セシルたちも習った。前世では音楽などカラオケしかしたことがない。セシルが歌っていたカラオケメロディーを、リンダ拾い曲を作った。リリーがその曲にのせて歌詞を作った。
リリーは男性に慣れていないから今は男性恐怖症だけれど、とーさまがかーさまを愛したように誰かと恋をしたいと言っている。その度にリンダが悲しい顔をする。
3人でとーさまとかーさまの愛のを歌を仕上げた。かーさまが曲を気に入り、何度も聞かせてとねだった。