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 審査会は国の重臣及び、多くの貴族たちも参加した。庶民の代表者たちもいたが一般庶民はこの場にいない。


 審査会の進行は法務部が努めた。今回の審査会はすでに刑罰が決まっていたが、事件の全貌を記録し国民に立証するためのものだ。


 キルディア卿をはじめとしソフィアやマリアンナたちは被告人席にいる。さすがに一応他国の王族のスクイ殿下やアマンダ王女は重臣たちのいる席にいる。二人とも苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 ソフィアやマリアンナがしきりにルークの方を見てなにか言っている。多分二人の無実を助言するように言っているのだろう。ここ何日もの間に二人がルークとの面接を何度も要求したと聞いたがすべて無視した。


 会場にタイラ叔父上を従え父上が入場してそのまま玉座に座った。その後は法務部が挨拶をした後、内乱の過程を淡々と述べた。


 内乱はすべてキルディア卿と一部の閥族派がミチル国のスクイ殿下を引き込んで起こした計画犯罪と発表された。

 

 その後被告人たちが証言台に立ち一人一人発言できるようになっている。


 母上の妹で、ルークの叔母でソフィアの母親のキルディア夫人は不機嫌な顔をして証言台に立った。


「わたくしを誰だと思っているのですか! わたくしは王の義妹で王子たちの叔母よ」


 ルークは生まれてから一度も彼女のことを身内と思わなかった。幼いころのソフィアはまだ可愛い従妹と思ったことがあったけれど、キルディア夫人には家族の親しみを感じたことがない。きっとそれは彼女がルークを王子としての価値でしか見ていなかったからかもしれない。


「あなたは王妃を洗脳して王宮の行事や人事などを私物にしていた。キルディア卿はすでに侯爵の身分を剥奪されている」


 法務部の審判の言葉を聞いてキルディア夫人とソフィアが甲高い声で叫び声で暴れた。


「陛下がいけないのです! あんな平凡な姉を王妃に選んで! わたくしこそが王妃にふさわしいのに!

 大体洗脳したと言う証拠を見せなさいよ!」


 叫び喚くキルディア夫人を護衛騎士が会場から連れ出した。妹のことをいつも大切にしていた母上のことを思って不快な気持ちになる。今日ここに母上がいなくてよかったと思った。

 母上はすでに自分がキルディア夫人に操られていたと知っている。何度も父上に謝罪した後に離縁を申し出たらしい。もちろん母上を愛している父上が承諾することはなかった。


 洗脳で使った茶は出所どころか現物がない。父上をはじめ法務部は洗脳の罪を立証することができない。


 マリアンナが証言台に立った。


 マリアンナは今回の事件でクレード辺境伯家から勘当された。クレード辺境伯をノエール兄上の側近の長男が謀反に反対して実家を説得した。そして謀反の内容を探り父上に密告していた。あいにく妹のマリアンナを説得できなかったと謝罪して兄上の側近を辞任するつもりだったらしい。


 審判がマリアンナに謀反の動機をたずねた。


「あの女のせいです。ルークさまはわたくしのことをずっと大切にしてくれていたのに、あの悪女の毒牙にかかりわたくしを粗末に扱うようになったからです。わたくしは卒業後ルークさまの側近になって、いつかはわたくしとルークさまは結婚する予定でした」


 ルークがマリアンナにやさしくしたのは彼女が騎士科でたった一人の女だったから。騎士道として女性に優しく接するのは当たり前だ。だがどこで彼女と結婚すると勘違いさせたのかがわからない。

 

「わたくしが唯一ルークさまを支えられる女性です。いままでもずっとルークさまの横にいたのに……。犯罪者の亡国の姫がルークさまを惑わしてしまわれました。ルークさまをお助けするためにソフィアさまのお話を受けました。わたくしは決して反乱軍に加勢したわけではありません。

 国を思ってルークさまのためにソフィアさまに味方しただけです。


 ソフィアさまがルークさまの妃殿下になられた後にわたくしをルークさまの側室にしてくださるとお約束されました。わたくしがルークさまの側室になって彼をお助けするのです。

 ルークさまははやく目を覚ますべきです。この部屋にいる方々もあの女は緑の民でみなさまを洗脳して国を奪おうとしているのです」


 発言の間、マリアンナはずっとルークを見ていた。彼女のひたむきな思いがルークに通じると思っているのか。飽きれてならない。

 マリアンナの言葉に反吐が出る。なにかルークのためだ。結局は自分のためではないか。

 ルークはマリアンナを蔑みの目で見る。いままで泣きそうなすがる顔をしていたマリアンナの顔が怒気でなのか羞恥でなのか真っ赤な顔をした。


「あの女は傾国の王女よ! ラング国を滅ぼした元凶よ! なんでみんなそれに気づかないのよ!


 ルークさまはわかってくださるでしょ! わたしは騎士科なんかに選びたくなかったけれど、ルークさまのために選んだのよ! ルークさま、今更わたくしを見捨てないでよ!?」


 マリアンナもしばらく喚めき立ていた。マリアンナやキルディア夫人やソフィアは王都から遠く離れた辺境の乖戒律の厳しい修道院に永久入る予定だ。

 

 ソフィアは淡々と自分がいかに王妃にふさわしいか語った。自分が王妃にふさわしいのに、ノエール兄上が自分のことを嫌っているからルークの方が次期国王にふさわしい、と言った。

 いつもは感情的にルークと話すのに、いまのソフィアは本当に王妃にふさわしいと思わせるように能面で機械的に質問に答えている。


「なぜ小麦粉を頭にふりかけたのだ?」


 審判の質問に会場の人たちは困惑した。たしかに小麦粉を最初に頭につけたのはソフィアかもしれないが、流行の髪型と内乱は関係ないことだ。


「ふふふ。気まぐれよ」


 ソフィアが審判を見下しながら鼻で笑った。


「キルディア卿は小麦粉の買い占めをしていた。民衆を扇動するためか反乱に兵糧にするためか、どちらにせよ貴族が小麦粉を無駄に使うためにしたのだろう?

 それによって小麦粉の値段の変動の本来の理由を隠したのだろう?」


「そうかもしれないわね。どうわたくしはすごいと思わない? わたくしは幼いころから王妃になるように教育されていたのよ。

 頭の足りない他の令嬢たちと違うわ。おもしろいようにみんなわたくしの真似をして、目立つように高い髪型をして小麦粉をふっかけていたわ」


 ソフィアは最後まで自分が王妃にどれだけふさわしいか語った。ソフィアはキルディア夫人から将来王妃になるように厳しい教育をされていた。それと同時に選民主義の貴族主義の教育をされていた。もしかしたら幼かったころの可愛い従妹が本来の彼女だったのかもしれない。

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