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「ルーク。わたくしは、あなたを愛していました……」


 倒れていくセシルの周りには全身を黒い服で被われた集団が取り囲んだ。倒れた彼女を黒い服の一人が抱きかかえた。


「セシルーーーーー!!」


 ルークはセシルに近づこうとしたが妨害される。


「お前たちは、何者だ!?」

 

 ルークたちの側に来たマイクが黒い服の男たちに聞いた。ルークたちの後ろには警備をしていた騎士や兵士たちがいる。


「我々はセシル姫さまの護衛だ」


 セシルを抱いている男が言った。


「セシルをどこに連れて行くのだ!!」


「セシル姫さまの安全な場所だ」


 セシルの護衛の隠密たちは、彼女を王宮居館に連れて行くのだろうか?


「なら俺がセシルを連れて行く」


 目の前にいる隠密に横に動くように言ったが彼は動かない。隠密たちはルークをセシルの近くに近づけないよにしている。


「そこをどけ! セシルをこちらに渡せ!」


 ルークは声を上げた。

 その時ルークたちの様子をしずかに見守っていた者たちが、ざわざわ騒ぎ出して入り口を見た。


 チラッと見たら二十人ほどの神殿騎士たちがルークたちの方へ来た。神殿騎士たちの先頭にディランがいた。


「ご苦労」


 ディランの腕にセシルが渡された。ディランはルークを虫けらのように一瞬見た後はまるで彼がいないように無視した。


「ディラン。セシルはどうしたのだ? セシルを俺の渡せ。俺がセシルを連れて行く」


 ディランはセシルを抱いて会場を去ろうした。


「ディラン。セシル姫をどこにお連れするのですか?」


 ディランはルークの言葉を無視したが、マイクの言葉には返事をした。


「神殿です。もうこの国にはセシル姫を預けられません」


 ディランはマイクに頭を少し下げて出ていった。二人を守るように神殿騎士たちが寄り添っていた。


 


「陛下は緑の民のセシルに洗脳されています。いま、ここでわたくしたちは国を守らないといけません。

 わたくしはルーク殿下と結婚して、王妃としてセイズ国を守っていきます。セイズ王にはすみやかに政権をルーク殿下に渡すように要求します」


 

「み、み、ミチル国はそ、そ、ソフィア王妃を支持します」


 ソフィアの後にアマンダ王女が声を上げた。


「ラング王女セシルは、緑の民の怪しい力を使ってセイズ国を乗っ取ろうとしています。元に元ラング国境に近い北部の領地は豊になり、南の領地は荒地が増えています。

 この国の富はすべてセシルに取られ、我々はラング国の奴隷にされます。いますぐに洗脳された王から王位を剥奪しなければならない。


 みなの者、我々と共に立ち上がるのだ!」


 マリアンナが剣を天に向けて掲げた。会場はソフィアやマリアンナの言葉に感化されて騒がしくなった。


「ルーク殿下、ここからすぐに離れてください」


 レイと共に近衛騎士たちがルークの腕をひっぱり、混乱している人々の間をひっぱった。マイクも騎士たちに囲まれてルークの後についてきた。


 舞踏会会場の外は中ほど騒ぎがないが、廊下はいつもより多くの使用人や騎士や兵士たちが行き来して騒がしかった。


 ルークは父の執務室の近くにある大部屋に案内され、父上が座っている玉座の前に連れてこられた。


 部屋には父の他に叔父上たちやそれぞれの部署の重臣たちがいた。将軍たちや騎士団長たちもいた。


「ルーク。おまえはセシル姫に薬草を創るように要求したのか?」


「兄上を助ける薬です。セシルは緑の民だったのです」


 セシルが伝説の緑の民といまだに信じられない。彼女が緑の民だったと知ってルークは隠し事をされたことに傷ついた。

 でもセシルは兄上を助ける薬草を創ってくれた。セシルは兄上を助けると言うことは、ルークと結婚しても王妃になろうとしているわけでもない、と言うことだ。

 それはつまりセイズ国を乗っ取ろうとしているわけではない、と証明できた。


「この馬鹿者ーー!!」


 父上がルークの前に来て、顔を殴った。ルークはその場に崩れ落ちた。


「セシル姫が緑の民だと知っている。この国ではワシとタイラと神殿長だけが知っていた」


「えっ? 父上は洗脳されているのですか?」


 ルークの言葉を聞いた父上が彼に馬乗りをして殴ろうとしたのを、叔父上が止めた。


「おまえはワシが洗脳されていると思うのか? みなの者もだ? わしはキルディアの言うように洗脳されていると思うか?」


 叔父上に支えられて父上は玉座に座った後に言った。



「いいえ。陛下は正常です。これはキルディア卿の反乱です」と次々に返答の言葉があった。


「キルディア侯爵及び 閥族派が反乱声明を出した。南部のクレード伯を中心に軍隊が王都へ向かっている。

 いまミチル国の内乱を抑えるために王都の半分の兵士たちがテレーズ領にいる。北部の領主たちからの援軍は明日の夕方にでも到着するだろう。

 

 援軍が来るまで王都の門を閉じて籠城する。

 兵たちは王都の閥族派の貴族たちを捕らえろ。少しでも反抗する者たちは取り押さえろ」


 キルディア侯爵が舞踏会の間に反乱声明を出した。

 ルークはソフィアたちに捕らわれる予定だったが、神殿騎士たちの乱入により実効されなかった、とタイラ叔父上が説明された。


 ソフィアたちは王都の城壁の外に逃げたと報告があった。次々と騎士たちが部屋に入ってきて報告を続けられた。


 キルディア卿たちは民衆を煽って王城の外に人々が集まっていると連絡があった。


 民衆たちは小麦粉の値上がりをセシルのせいだと叫んでいるらしい。


 次々に報告される内容に父上たちは重い声を上げた。


「キルディアたちの計画は疎か過ぎる」


 父上をはじめ部屋の中にいる重臣たちもあまり焦慮していなかった。


「キルディアは所詮器の小さい男だった」


 父上たちはすでにキルディア侯爵の内乱の計画に気づいて用意されていた。



「いったいどこでセシル姫が緑の民だと漏れたのだ。

 みなの者に伝えとく。セシル姫と亡きルネン妃は緑の民だ」


 まさか父上がセシルが緑の民と認めると思ってもいなかった。


「緑の民は植物の生態を知る力と植物を促進する力がある。ただまれに緑の民の中に、創造する緑の民がいる。創造する緑の民は、新たな植物を生み出す力だ。


 この緑の民はまれな存在だ。歴代の創造する緑の民は、植物を一つ創った。だがルネン妃やセシル姫はいくつかの植物を創った。


 緑の民が力を使う度に対価を払わないといけない。ルネン妃が若く亡くなった理由は、対価が命だったからだ。セシル姫は対価は生命と違うと言っていたが、植物を創る度になにかの対価を払っている」


 内乱については気にしていなかった父上が、いまはイライラしていた。



「我々は緑の民に植物を生産する要求をしてはならないのだ。緑の民は神殿と緑の里の者たちに守られている。緑の里とは薬師で生計を立てている者たちで、存在ははっきりとしない。


 ルークがセシル姫に植物を創るように要求したことで、セイズ国は薬師たちと敵対することになるだろう。

 マイク、学園の薬草の保管を任せる。王都はこれから薬草が減って大変なことになる。

 神殿は我々と敵対しないが、協力もしないだろう」


 ルークの目の前が真っ暗になった。


(セシルが死ぬ)


 倒れていくセシルが何度も脳裏に浮かんだ。


 愛していました……。


 セシルの最後の言葉が何度もルークの心に木霊する。


(どうして俺はセシルにあんなことを言ったんだ!!)


 いくら兄上の病気を治したいと思っていても、セシルにあんな要求をするのは間違っている。マリアンナの言葉に乗せられてセシルを傷つけてしまった。

 いくら後悔しても、もう自分はセシルの側にいることができない。

 それよりセシルが二度と目を覚ますことがないかもしれない。

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