天下に面目を施す者
こんばんは、三日月景光です。
二話目でございます、遂に歴史的(?)主要人物の登場も近くなってきました。どうぞお楽しみください。
三
あ…熱い 火が…炎が……お…おのれぇ…
お…だ……な……つを…
人が…民が死んで逝く…僧が…全てが…焼き尽くされてゆく……
うぁ熱い…う…ぎゃぁぁぁ……
「ハッ!ゆ…夢…か?何かをそれがしに伝えようとしたのか?」
夢を見た。長い夢を。酒場に光が差し込み朝の訪れを感じた。
頭が痛い。まだ昨日の酔いが醒めていないようだ。戸が開いた。
「おぉ、貫兵衛様、お目覚めに御座いますか、良く眠れましたかな?」
「あいにく嫌な夢を見た、それに酔いすら醒めておらぬ。…?丸目殿は?」
「ああ、昨日の侍は貫兵衛様が寝られたもんで、お帰りになられましたよ、文を預かってございます」
主人の指先が机にむいた。机の上に文が置いてあった。貫兵衛は目を擦ると目を大きく文へ向けた。文には以下のようなことがしたためてあった。
『唐突なれど、昨夜に貫兵衛殿と話が出来たこと決して忘れはせぬ、俺はそもそも貴公とけりをつけるつもりで酒場に入った。為れど、少し話して貴公の価値が解った気がした。俺は上泉信綱のもとへ向かい勝負するつもりだ、勝算は無い、だが戦うことに意味がある。互いに励もう、極めの先にお互いそれぞれの境地がある。…俺の知り合いに明智十兵衛という者がいる。聡明にして、先の分かる男だ、奴を頼れば力になろう。奴こそ天下に面目を施す者なり。最後に乱文申し訳ない、またいつか酒を飲もう。 丸目蔵人 』
貫兵衛は自分の涙腺が滲むのを感じた、何故か涙が零れた。それは長恵との戦いを避けられたことでもからでもなく、明智十兵衛という秀才を紹介してくれたからでもなかった。ここまで失敗を繰り返してきた自分に可能性を与えてくれることに感極まったのである。その長恵ほどの男が推薦する明智いう男には幾分か興味が出てきていた。
「相当急いで書かれたようですな。……何者にも止められぬ、波と成りなされ」
「分かった、行けるところまで行ってみよう、先に何が待っていようと」
村岡貫兵衛は波と成って酒屋をとびだした。
「明智十兵衛……、智に明るく、天下に面目を施す者、楽しみだ、これから楽しみで仕方ない!」
貫兵衛は明智十兵衛の家を探すことにした、地図など無くても見つかる気がした、進める気がした。京の街の住人には馬を駆る男の姿が一浪人ではなく若い武士の姿に見えたに違いない。
お読み頂きありがとうございます。話は着々と前に進んでいます、ご期待ください。
気が向いたら感想を下さいませ。(以上三日月でした