村岡貫兵衛という水
こんにちは、三日月景光と申します。
この「時の流るること河の如し」は戦国時代を題材とした作品です。歴史は史実の通り流れていきますが、登場人物の中には架空人物も存在します。
前もってご了承の上お読みください。
一
肥後国八代出身の剣豪・丸目長恵の視界に酒屋に入るある男の姿が映った。やっと見つけ出した。
京の町にて長恵がその男を探しだしたのは十日前のことである。男とは半年ほど前、野試合で木刀にて立ち会ったことがあった。二十にも満たない若造のくせして腕は確かであった。勝負は引き分けに終わり長恵はそれ以来その男と決着をつけたいと考えていた。だが長恵がその男を探していた訳はそれだけではなかった。
半心、長恵は男を殺したくはないと思っていた。近江にて初めて出会い立ち会ったその日から男のことが気になったいた。「奴には人を惹きつける何かがある」、そう睨んでいた。もっと知り器を見極めるつもりだった。
長恵は覚悟を決め酒屋へと入って行った。
二
永禄元年(1558)、この頃の日本(後は日ノ本と表記)は戦国大名が群雄割拠し独自の分国法を定めそれぞれの土地を統治していた。足利将軍は力を失い、形だけのものとなっていた。人々は戦乱を平らげる英雄の出現を心待ちにしていた。その一方で大名に仕官せず、気ままに自らの意思で行動する浪人たちがいた。そのまま傾奇な人生を送る者もいれば中には大望を抱き立身出世を目指す者もいた。京の村岡貫兵衛はそんな浪人の一人であった。貫兵衛には志が有る、いつか腐れ切った日ノ本を変えてやろうと考えていた。だがそんな大それたことが成功する筈もなく失敗を繰り返していた。この日もまた失敗したのか、貫兵衛は京の酒屋に入った。常連の貫兵衛はいつもの席に座り、いつものように酒を頼んだ。相変わらずこの酒屋には浪人が集まる、酒が運ばれてくるまでの間、貫兵衛は様々なことを考えた。これからの自分のことや、早くに才能を発揮し駿河国の今川家に仕えている兄・十郎のことなどである。父を早くに失った村岡兄弟の過去を知る者は少ない。母は戦乱の波にのまれ所在すら知れない有様であった。
貫兵衛が望んで浪人になったのではないのである、故に戦を憎んでいた。貫兵衛が大名家への仕官を目指しているのは、何も戦をしたいが為ではない、乱を平らげることのできる主君を見出しどこまでもそれを補佐するつもりであった。そうこう考えてるうち酒が着た。
「貫兵衛様、今日はえらく落ち込んおられますな、何か有ったんで?」
酒屋の主人の言葉に貫兵衛は酒を一杯飲んで答えた。
「三好家に仕官を願い出たが門前払いじゃ、やはり素性の知れぬ浪人など受け入れられぬか」
「左様で、若いのに腕も立って頭も良い、あなた様のような方が受け入れられぬとは世も末ですな。……あっいらっしゃい、あんた初めて見る顔だな」
男が入ってきた。背はやや高く良い面構えをしている。男はなれなれしく貫兵衛の真ん前に座った。貫兵衛は男の顔にピンときた。
「おい、貴公の顔、どっかで見たことがある、確か……丸……丸……?」
「丸目蔵人佐長恵、久しくお目にかかるな、村岡貫兵衛殿」
「そう、丸目長恵殿じゃ、久方振りにお目にかかる」
丸目長恵の探していたある男とは村岡貫兵衛のことだったのである。長恵は突然核心を突く質問をした。
「貫兵衛殿、あなたは今、どこを目指しておられる?目的のことじゃ」
貫兵衛は苦しそうに頭を抱えながら答えた。
「言うなれば人は水、流れにまかせて何処にでも行きまする、……貫兵衛という水を救い上げより良く使ってくれる主君をそれがしは探しておる」
泥酔していた貫兵衛はそのまま夢へと誘われた。
お読み頂きありがとうございます、之からも是非ご愛読戴ければ嬉しく思います。また何かご要望が有れば受け付けさせていただきます。(登場させてほしい人物など)
末永く宜しくお願いします。(一五歳の三日月でした)