表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨット高校新聞部!!  作者: 中田 春
ヨット高校新聞部!!
9/56

さわり.7



 一年生の教室を回って〈ヨット高新聞部〉の部室へと戻る。



 まるで侵入者を拒むかのように、入ってすぐに立ちはだかるのは

 両面にびっしりと書き込みがされたホワイトボード。

 備品と言えば〈視聴覚室〉にもある細長いテーブルと、

 黄色い綿があちこちに飛び出た粗末なパイプ椅子と、

 そして部長のあの奇妙な古道具と、窓辺に陶器の花瓶がひとつ――


 そこに申し訳なさそうに萎れた造花が一本活けてある。




 ワープロやプリンターといった文明の利器は存在せず、

 原稿に清書するのも手書きであれば、それを大量印刷するには

 〈職員室〉にある、これもまた骨董品級のコピー機

 【印刷時、けたたましい音を響かせる】を使わせてもらうことになる。





 入部当初、窮屈でしかなかったその部屋は、

 今ではすっかり馴染みとなった。元は“運動部”の自分が、

 どうしてこうまでピッタリ収まるものか……ここに帰ってくると

 心底ホッとする自分が居る。




「何か、見つけた?」




 視線を手元に落としたまま、彼女は中空に向かって投げ掛ける。



「ナツキさんは戻っていないわ。彼女のカバンがあるから、まだどこかでお喋りしているのかしら。(くれ)君は、まあ……ご想像の通りよ」

「部長、僕は」

「七海からさっき聞いた」



 榮倉先輩がどう伝えたかは知れないが、

 それについて部長の答えは決まっているらしい。




 日本人形を思わせる景山部長の

 非現実的な美しい横顔を眺めながら、僕は、試験の結果を待つ

 受験生にも似た想いで彼女の返答を待っていた。


「いいんじゃない」

「イイんですか!」



 彼女はそこで僕を見る。


 椅子に乗せられた人形に束の間、清廉な魂が乗り移る。

 電気の付いていない部室は薄暗く、彼女の異様なほどの肌の白さが

 際立っていた。




 僕は言葉を忘れでもしたかのように、

   その光景にしばらく見惚れていた――



「でも難しいわ。相手が居ないんだもの」



 景山部長は読みかけの文庫本を閉じ、

 窓を向いていた体をこちらへと向ける。



「もしも貴方がこの件を、この前のように考えているとしたら、あまり感心しないわね」

「理由を聞いていいですか」


 すると彼女は少しだけ間を置いた。


「言ったでしょう」


 そして、ほんの少しだけ笑みを洩らす。



「責任ある仕事を今回は期待しているの」



 胸の鼓動が速まる。


 寄せられた過度の期待は重荷とは思えず、

 とても心地よく、僕の上にそっと()し掛かる。




「それで、どうやって裏付けを取るつもり? 結論めいたことは伏せたまま、目撃証言を比較・検討して、ひたすら膨らませる手法を採る?」

「部長は〈ヨット高七不思議〉を調べようと思ったことはありますか」



 ないわね、と景山部長は言い切った。



「だって、そこに結末があるとは思えないから」



 そう言って、彼女は眩しく笑う。

 うすうす気付いていたが、この人はやはり確信犯だ。

 この件について、僕が失敗することを見越している。



「何か勘違いをしていない? 私は、“止めろ”なんて言ってない。貴方がどういう記事を書くのか、とても楽しみにしている」

「ずるいですね、それ」

「あら、その言葉に偽りはないの。皮肉じゃないのよ、本当に。――で、送り出す方としては取材の方針を是非とも聞いておきたいわ。〈歩き回る少女〉だっけ? 私が聞いた話だと、歳は十五から二十七、八。そして容姿は西洋人と日本人の二通りのパターンがある。日本人と西洋人を見間違うのは、なかなか難しいわね。このふたつを取っても、大きく証言が食い違っている」



 そうなのだ。

 学年によって違うのかと思えば、それは二年生でも一年生でも

 話される彼女の容姿にまるで整合性はない。

 起こる怪奇現象もまた、それぞれ異なっている。



 誰もがそれと信じて疑わないのに、

 どうして同じモノを見ないのだ――




   皆が噂する少女の霊は、一人しか居ないと言うのに。



「確かなものなんて、そこには存在しない。見る人の意思によって、“少女”になったり“女性”になったり、“和服”を着たり“ドレス”を着たりする。何も確たる証拠がない。全ては人の意識――そう、噂の中でだけ、彼女は私たちの世界に存在できる」



 それは承知している。



 しかし、それでも僕は。

「でも、それでも貴方は、数ある証言を必死に擦り合わせて彼女を統一しようと考えている。違う?」



 僕は頷いた。



「きっと、そこから始まる。今はそれが、真実に迫れる唯一の方法だと思っています」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ