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けっせん.1
ある女生徒はクラリネットを丹念に点検している。
ある女生徒は楽譜を見ながら必死にフルートを吹いている。
ある女生徒はとても緊張気味に、
さっきからトランペットの音を外しまくっている。
この一団は、軽快そうだ。たとえ何があっても楽器を手にして逃げられる。
地元商店街主催の手近な出張ライブということもあって、
ホルンやピアノといった持ち運びが困難な楽器は見当たらない。
様々な音がする。
きっと演奏会の前は、こんな感じなのだろう。
ピリピリとした彼女らのいい緊張感が、こちらにまで伝わってくる。
「木多先生は、いらっしゃいますか」
その女生徒は明らかに不審そうな目を向けている。
それに僕は負けないくらいの、ぎこちのない笑みで切り返した。
「……ええと、新聞部の者です。来月号の『ヨット高新聞』に是非ご協力を」




