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かいめい.3


「柴崎君の勘が、それを示している、と」

「それだと弱いですか?」

「状況証拠と呼べるかどうか分からないけど、確かにそれらは彼女を示しているように見える。【四戸高等学校】の創設者である、一戸清次郎の一人娘が、まさか学校中を騒がせる〈歩き回る少女〉の正体だったなんてね」



 出来過ぎているだろうか。

 景山部長は腕を組んで、ずっと難しい顔をしている。



「マユちゃんがさっき言ったように、これが私たちの理解の及ばない現象となると、証明は難しくなるか……そうなると柴崎君の“得意分野”となるワケね」



 そう言って、景山部長は悪戯っぽい視線をマユに向ける。

 マユは驚いたように独特の赤みがかった瞳を丸くさせた。

「あのォ……僕の“得意分野”って部長、それってなんですか? 僕は特に何もない、フツウの高校生なんですけど」


 すると景山部長は「想像力」と言った。



「妄想でしょ。ただの」



 発言者に注目が集まる。

 僕の顔を見て、まるで勝ち誇ったように言い放ったのは榮倉先輩だった。



「ヘンタイなのよヘンタイ。要するに男だからよ。女性の脳は論理で構成されていて、男の脳は、うがった妄想力が大部分を占める。性質が初めから向いてないの、私たち女性はね」

「それはちょっと言い過ぎな気もします……」

「言い過ぎなんかじゃないの市原さん。これは脳科学で証明されている事実。ヘンタイ的な妄想力は男の特権、得意分野なのよ」



 確か聞いたところでは、女性の勘の方が男性よりも優れていた気もする。

 しかし、すっかり感情的になっている彼女に指摘したところで

 僕の発言は意味を成さない。


 たしなめるマユを得意の論理で打ち砕く榮倉先輩は、

 すっかり元の調子を取り戻したようだ。

 すると僕は、そこに漂っている不穏な空気を察する。

 まさか、さきほど先輩から差し入れられた甘酸っぱい『イチゴ牛乳』は、

 彼女からの宣戦布告の合図、飲んではいけない禁断の飲料だったのかも……

 しれない。


「おい柴公。まあ百歩譲って、この世にユーレイが居るとして、だ。なんでその一戸なんとかの娘が、夜な夜な学校に現れて、あちこち歩き回るんだ。“理由”はなんだ?」

「夜じゃないよ。彼女の目撃証言は夕方に――」


 そうか。それも大人の幽霊と違う。


 白瀬の言葉を借りると、彼女は逢魔時(おうまがどき)の住人。


「オイどうした。途中で止めるな気持ち悪ィ。最後まで言え」

「彼女が現れるのは夕方だ。君は――誰かが噂をしているのを聞いたことはないか? まあ君のことだから聞いた瞬間にアッサリ忘れてしまうんだろうけど、ひとつ、“向こうの世界に引きずり込まれる”という話がある」

「そのユーレイにか? おっかねえ」

「まあ最後まで聞いてくれ。その話は、陽が“すっかり落ちた後”なんだ。血みどろの女の顔なんて恐ろしいのも“夜になってから”だ」

「そんなもん当たり前だろ。ユーレイは夜に出ねえと恐くねえ。ヒュードロドロって、昼間に現れるバカが居るか」


 この男は、僕に対して常にケンカ腰である。


「だから、そこ。夜に現れる幽霊が、〈真っ赤に染まる音楽室〉のおっかない幽霊で、夕方に現れる方が〈歩き回る少女〉の幽霊なんだ。さっきも言ったように恐ろしい噂は、“陽が完全に落ちた後”に集中している。それに対して、幼い少女を匂わせる噂は“夕方”に集中している。ここまで言っても分からないかなあ」



 呉介は腕を組んでしばらく考えた後、突然怒り出した。

 どうやら最後の僕の一言が、彼の検索網に引っ掛かったらしい。

 売り言葉に買い言葉だ。


「ちょっと、いいですか」


 恐る恐るといった感じで、マユが赤い瞳を僕に向ける。



「“呪文”を覚えていますか?」




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