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かいめい.2
「どうぞ」
ふと顔を上げると、ピンク色の紙パックが可愛らしい
『イチゴ牛乳』が目の前にあった。
“意図”がまるで読めず、顔はそっぽを向いている榮倉先輩を見上げる。
「ぼっ、僕に買ってくれたんですかあ?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。外から見ると、とてもバカっぽい。
皆がそれぞれの場所へと散っていった新聞部の部室は、
まるで山奥の古寺のような静けさで満たされている。
「ほらッ早く取るッ!」
僕は慌てふためいて、なんとか『イチゴ牛乳』を彼女から無事に受け取った。
容器は触れた途端に指が痛くなるほど、キンキンに冷えていた。
冷たくなった左手を痛々しそうにさすり、榮倉先輩は、
不自然に膨らんでいる制服の上着ポケットから、
もうひとつ『イチゴ牛乳』を取り出してみせる。
それからパックを裏返してストローを剥ぎ、伸ばして差し込み口に突き立てる。
その一連の行動に見入っていると、視線に気付いたのか、
照れたように彼女は背を向けた。
深い青色のゴムバンドで結えた彼女の後ろ髪が、小さく震えていた。
意識すると、こっちも急に恥ずかしくなって、お礼の言葉も出なかった。
そのまま長らく無言で居た。
まだ誰も戻らない部室には、ただ二人のストローをすする音が響いている。




