さわり.2
青森県は、太平洋と日本海に接しています。
津軽と南部の文化は、すごーーく違うんですよね♪
※ちなみに、B級グルメのせんべい汁は、南部の郷土料理です。
そして自分は、あまり好きではありません。
「じゃあ柴崎君のその特殊能力で、秋山君を探してくれない?」
仕切り直して二度目かい。
もうスルーしよ。ストーリーが進まない。
そして我が高の問題児――
秋山呉介もまた、隣のクラスの同級生である。
彼が〈ヨット高新聞部〉に入部した経緯は僕と変わらない。
ただし彼は、文化部の顧問は監視が甘い――
という不純な動機で来たワケで希望通りと言える。
遅刻・欠席の常習者である。
「あの男が来ても状況は変わらないよ」
彼のドヤ顔を不覚にも思い出してしまった僕は
イヤミたっぷりにナツキに言ってやった。
「あら、そんなことない。先々月に呉君が書いた『知られざる地下世界! 〈四戸商店街〉の足元に拡がる世界はこうだ!』。とても面白い記事になったじゃない。学術的にも大変な価値があるわ」
「……その言い出しっぺの呉介は、その最悪な題名を考えて、ちょこちょこっと脇に絵を描いただけ。あれは僕が書いた――いや、“書かされた”んです」
そうだ。
あの男は信じられないことに、その突拍子もないことを
しんしんと雪が降りしきるクソ寒い二月に言い出したのだ。
鼻をつまむような悪臭は影を潜めていたものの
四戸町の地下を巡る広大な下水道は、
そこかしこで薄い氷が張っていた。
まるでタコ糸のようにキレやすい秋山呉介の
堪忍袋が予想通り破裂し
そして僕らは地下世界の入り口から約3メートル付近で
実地検証を断念した。
景山部長にはあえて報告を怠っているが
あの記事の全文は
ガンガンに暖房の効いた【四戸町役場】で済ませている。
「地道な取材なしに記事を作るのは感心しないけど、あれだけ書ければ大したものよ。信じさせるだけの真実味があった。そこを褒めているの」
やはりバレていた。
これぞ部長の恐るべき特殊能力(固定スキル)――
『全てを見通す眼』だ。
ちなみにフツウ……“凡人”(それでいいや)の男子高校生である僕は、
『魂』を浮遊させて記事を集めちゃうとか
特殊な音波で簡単に人を服従させちゃうだとか
はたまた雷に打たれたきっかけで電気人間になっちゃったとか……
そんなヤバ過ぎるヤツじゃない。
「しかし、卒業式の前に載せる記事とは思えません」
と、屈託のないナツキの笑い声が響く。
「ハハハ、ホント確かに! これから世間の荒波に揉まれる先輩たちには、真っ暗な地下世界は、ちょーっと可哀想かも!」
「それは大丈夫。だって、見ないもの。私たちの新聞は、今居る人たちに向けて書いていることを決して忘れないように。これは我が〈ヨット高新聞部〉の信念ね。――いいのよナツキさん。私の卒業前も、下水道でもトイレでも自由にやりなさい。それを乗り越えてこそ、この部長の座は譲られるの」
景山部長は誇らしげに僕とナツキに言った。
なるほど崇高な信念のような気がする。
しかし、この人に騙されてはいけない。
〈ヨット高新聞部〉は景山部長が入部するまで廃部同然で、
景山部長ともう一人――今は席を外している
敏腕記者の榮倉七海先輩とで、
ようやく復活させたのだ。権力を完全に手中に収め
まるで当てつけのように、卒業式の“直前”に秋山呉介の
【完全に見切り発車の。というか悪ふざけの】
『下水道巡り』をぶつけたのも
我が部を崩壊の手前にまで追い込んだ先輩らに対する
二人の歪んだ感情があったに違いない。
いや、絶対そうなのだ。
「……まあいいわ。それより柴崎君、今回は貴方を大抜擢する。ココ全部が貴方の担当だから。七海と話し合って決めたの。そろそろ貴方にも責任ある立場に就いてもらわないと。そうでないと新入部員に示しがつかない」
「ああッ新入部員!」
ナツキの夢見がちな視線が天井へと行き
後輩にテキパキと華麗に指示を飛ばす自分の姿を妄想している。
果たして新入部員が来るのかどうか、という根本的な議論は
何故かこの二人にはないらしい。この四月は体験入部で
どの部活も慌ただしくなる時機だというのに
今のところ新入生の姿は見られない。
〈生徒会室〉前の掲示板には、まるで雨後のタケノコのように
入部を誘う宣伝文句が躍っている。
「ね、だから柴崎君が――」
「ちょっと待ってください。僕一人じゃ無理ですよ。そもそも何を書けばいいんです、そんな、太平洋みたいなスペースに」
「太平洋じゃなくて、左隅の欄だから例えるなら日本海ね」
景山部長が言うと
マジメに訂正されているのかジョークなのかの区別がつかない。
それが果たして太平洋でも日本海でも、まず重要なのは日本列島で、
そこは景山部長と
〈ヨット高新聞部〉の“エース”である榮倉七海先輩とで押さえている。
すると明らかに力量不足な僕たちに任せられるのは
資源の乏しい列島周辺の離島である。
しかし、なくてはならない重要な土地に変わりはない。
明らかに戸惑っている僕に彼女はゆっくりと
そして、力強く言い聞かせる。
「大丈夫。言ったでしょう、貴方の『下水道巡り』は素晴らしかった。自信を持ちなさい」
「あ、あれは呉介の企画ですよ!」
「なら呉君と一緒でもいいわ。……うん、そうね。二人でようやく一人前か。じゃあナツキさんも使ってみる? ね、二年生で一丸となって、ひとつのものを完成させるの」
いい響きだわ、と勝手に納得して
景山部長は恍惚の表情を浮かべた。




