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ヨット高校新聞部!!  作者: 中田 春
異邦人
33/56

しょうごう.1



「誰でも一度は聞いたことがあると思いますが、南アフリカ共和国の最南端の【喜望峰】を通過したポルトガル人探検家のバスコ・ダ・ガマですが、実はガマが帰還してからも彼は二度ほど大きな航海をしています。彼の最期は三度目の航海の途上――マラリアに感染してクリスマスの前日に息を引き取ります。この箇所だけ見ても、何か特別なものを感じてしまうのは自分だけではないでしょう。この人が開拓した貿易航路によってポルトガルという、後の大海運帝国の基礎が築かれたワケでありますが、そもそもに、この【喜望峰】というアフリカ大陸の突端は凄まじい暴風の吹き荒れる魔の岬で、何隻もの商船がことごとく沈没し、その神々しい名前とはほど遠かったそうで、そして魔の海域と言えば大アフリカが暗黒の大陸と呼ばれていた事実からも分かる通り、当時の西欧諸国が常識のように考えていた世界の果ては――」



 ダメだ眠い。眠すぎる。

 この先生の話は、どうでもいい(省いていい)話が多すぎる。

 教科書に載っている、たった数行を説明するだけでこのざまだ。

 先生の言葉を借りると【壇ノ浦】で見せた源義経の八艘飛びを

 再現するが如く、内容が軽快にダイブする。

 時に、まるで聞いたことのない新説を披露することもしばしばだ。



 二、三年生の地理・歴史を担当するペンシルロケットこと――

 木多(きた)孝造(こうぞう)先生だ。

 ペンシルロケット、と二年生の間で愛称を拝命したのは、

 その鉛筆のように縦に長く、極端に横に細い身体的な特徴。

 そして前述の、あちこち勢い良く発射する

 雑学トークの軽快さによるものだ。



「生鮮食品を得ることが長い航海では必須となっています。多くの船乗りの命を奪った壊血病という恐ろしい病気はビタミン類の欠乏から来るもので――ですから艦船は石炭の積み込みと同時に生鮮食料品の積み込みを行うために、かなりの頻度で港に立ち寄る必要があるワケで、中でも大きい船になりますと生きた牛を乗せることもあったそうです。これは生きている牛で、新鮮な牛乳を摂るためですね。しかし我々もそうですが極度のストレス下に置かれてしまうと牛は役目を果たしません。酷い船酔いで肝心の乳の出が悪くなるのですね。そうそう、乳牛と言えば北海道で新しく――」



 もはやワケわからん。ちなみに今の時間は地理……だったはず。

 たぶんそのはずだ。僕らが去年経験した、

 あの無味乾燥でヨボヨボな武笠先生の地理・歴史とは違った意味で、

 きつい。


 燃料【時間】はまだまだ残っているようで、

 【ヨット高】のペンシルロケットは今日も快調に飛ばしている。



 正午を迎えた。


 2―Bの教室は、騒がしい。


 家から持参した母親手製の弁当を、

 その日もこっそり教室で開けていると、

 取り巻きを連れた秋山呉介がやって来る。

 昨日の放課後は要領良く逃げた、いつぞやの、

 名前も知らないあの二人である。


「よお」


 片方の頬にえくぼを作り、僕の前をさえぎるように巨漢の呉介は立つ。

 この男にしては珍しく好意的だが、気さくに返してはいけない。

 周囲の刺すような視線がずっと注がれている。

 悪い噂に事欠かないこの男と同類のイメージが定着しては、

 僕の学校生活そのものに大きな支障をきたす。


「シカトしてんじゃねえよ。柴公、ちょいと顔貸せ」


 ざわ――。

 その瞬間、周囲の動揺が手に取るように分かる。

 白昼堂々と、たかりに遭っていると誤解されているかもしれない。


 だがこの男は実に呑気に、また、とても穏やかな口調で、こう続けた。


「一緒にメシ食おうぜ」



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