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ちょうさ.9



 身震いした。

 酷い悪寒がする。



「オイどうした」と呉介が訝しげに僕を見る。

「――うん、少し寒気がする」



 激しい肉体労働の挙句に大汗をかいて、

 風邪を引いてしまっては大損だ。

 背負った大きな衝立(ついたて)を、

 山ちゃんの軽トラックの荷台に降ろし、

 僕は噴き出る大粒の汗を拭う。


「これで終わり?」


 呉介がビクビクしながら山ちゃんに尋ねると、

 ようやく色よい返事がもらえた。


「これだけありゃあ、向こうサマも満足だろうさ。と言うか、十周年だからって気合が入り過ぎ。ウチの会長さんも困ったもんだ」

「はあ。十周年ですか」

「ま、メモリアルフェスティバルってヤツだな。たった十年で伝統が付くかは知らねえけど。向こうの看板にでっかく載ってただろ、(しば)(こう)



 はっ! その名称がすっかり定着している。

 そう言ってニコニコ笑う山ちゃんが少し怖い。



 何もなかった場所に、今日はなんと大きなアーチが出現した。

 【四戸町役場】の大広場にでかでかと掲げられた大きな看板には

 『四戸商店街さくら祭り』と太字のゴシック体で書かれた上に、

 『十周年!』の真っ赤なオメデタイ文字が輝いている。

 確かにこれを忘れては、会長さんのカミナリが落ちるのも無理ない。

 しかし、祭りが行われる間際になってようやく気付くとは、

 商店街の人たちも抜けている。



「一年の埃がたっぷり積もった看板掃除も大変だったしなあ。と言うか、もうやらなくていいだろ! な、これ以上は! ああヤメだヤメッ! いちいち報告とかメンドクサイから、役場に戻らないでこのまま勝手に現地解散! テッシューだ!」



 それは疲れ切って隣で立ち尽くす靴屋の近藤さんを始め、

 ここに居る誰もが同意見である。


 山ちゃんは靴屋の近藤さんに、ねぎらいの言葉を掛けると、

 僕と呉介を伴って軽トラックに乗り込んだ。

 中々かからないエンジンに四苦八苦しながらも、

 僕らは【四戸町】の中央に位置する大型多目的会場――

 外で休憩する吹奏楽部員がちらほら見える

 【メープルホール】を後にした。


「腹減ったろ? 俺もなんか腹に入れないと、へろへろだ」


 運転しながら山ちゃんが言う。


「お! 自分の店で焼肉でも食わせてくれんの?」

「バカやめろ。今はどう考えたって『肉』って気分じゃないだろ」



 なあ柴公と言って、山ちゃんは僕に同意を求める。

 しかし、こちらにはなんの問題もない。

 山ちゃんの店で出される、手製のピリ辛ニンニクだれに漬け込んだ

 『ミナカルビ』は、いつ食べても美味しいのだ。

 この前は湧き上がる食欲に任せて二人前をたいらげた。

 財布に余裕があったなら平気でもう一人前いったかもしれない。

 あの肉の赤みを想像しただけでヨダレが出る僕は、

 今やすっかりカルビ中毒だ。


「じゃあラーメンは?」


 今度の提案は満場一致で受け入れられた。

 至極うんざりして、【メープルホール】からそのまま車を走らせること

 十五分……この辺りまで来ると【四戸町】とは呼べない。




 交通量の多い、国道四十四号線沿いにあるラーメンショップ――

 『麺五郎(めんごろう)』。

 道路側に『こだわりのとんこつダシ!野菜とんこつみそラーメン!』と、

 とても美味しそうなのぼりが出ている。




 大量のススと煮出したとんこつ油のしつこい汚れとで、

 すっかりくたびれた店の外観と違い、中に入ってみると内装は新しく、

 ところどころに置かれた観葉植物が店内を鮮やかに彩るなど、

 また掃除が隅々まで行き届いていて小奇麗な店舗だった。


 客は他に数名が居た。



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