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ちょうさ.8



「ああッ、もうなんでこんな時に! ホント許せないヤツ!」


 榮倉七海はうろうろしていた。


「七海、いいから落ち着きなさい。私、今から武笠先生のところへ行って、貴方の書いた記事の了解もらってくる。壁新聞の方はナツキさんと一緒に少しでも先に進めてちょうだい」



 〈ヨット高新聞部〉が製作する新聞は、

 大量印刷して生徒に配布する“縮小版”と、

 一階の【生徒会室】前に張り出す“拡大版”の壁掛け新聞とがある。

 どちらかと言えば、こちらの“拡大版”の壁掛け新聞の製作に

 労力の大半が費やされる。

 今、加賀ナツキは床いっぱいに広げた方眼紙に突っ伏して、

 榮倉七海が難産の末に完成させた『短パン改正』の記事を、

 ひたすらに下書きしている。



「七海、仲良くね」



 意味深にそう言い残し、〈ヨット高新聞部〉の部長――

 景山(かげやま)真理(まり)は部屋を出て行った。



「なあんて役に立たないヤツ。加賀さん、携帯貸して。ほら早くする」



 戸惑った表情で、ナツキは手を差しのべる七海を下から見上げた。



「ど、どうするんですかあ?」

「そんなの決まってるじゃない! 今すぐに、あの不届き者を呼び戻すの。さあお出しなさい。柴崎君の連絡先、知ってるんでしょ」

「そりゃ知ってますけど……」



 七海は尚もぶらぶらと手を差し出す。


「ああ、ほら! たぶん今送っても繋がらないんじゃないかなーって。柴崎君にメールしても、あんまりすぐに返ってこないし。それに向こうは走ったりなんかして、たぶん気付かないと思うし!」

「何言ってるの」



 無表情の七海。すっかり目が血走っている。


「誰が呑気にメールするって言った。デンワよデンワ。繋がるまで、向こうのケータイを鳴らしまくるのよ」


 ナツキは思った。


 今の先輩には、こちら側の言葉は一切届いていない……。



 彼女――榮倉(えいくら)七海(なつみ)は完全に常軌を逸しているッ!



「ほらほら、お出しなさーい。さあ早く早く」



 ナツキは見る見る青褪めて、尻もちを付いて後退を始めた。

 目を血走らせた狂人は、そこに立て掛けてあった注入棒【元は高級茶器の杓子(しゃくし)】をおもむろに手に取ると、

 まるで学校を徘徊する噂の女幽霊のように怯える彼女にゆらりと迫る――



「しッ、柴崎君が居ても、その、あ、あんま変わらないような……」

「今は猫もシャクシも借りたい時なのー。私たちが苦しんでいる時に自分ばっかり楽しもうなんて人は、このチューニューボーでおしおきなのー」



 遂に壁際まで来た。



 ――もう、後がない。



 七海が注入棒を振り上げる! するとナツキは一息にまくし立てた!



「ひい、ひとり、私に心当たりがありますッ」



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