ちょうさ.4
分かったような、分からないような――
役に立ったような、しかしムダだったような――
武笠先生との邂逅は、実りあるものとは言えなかった。
これを、ケムリに巻かれたと言うのだろう。
後に残ったのは、文字通りのタバコの匂いばかりである。
「クサイ」
新聞部の部室にはカンヅメになった榮倉先輩が居て、
役目を終えて帰ってきた僕に白い目を向ける。
【職員室】に長時間滞在した僕に、ここでの居場所はないらしい。
「それで部長は? 柴崎君と一緒じゃないの?」
「部長なら上の階に行ったよ。自分の教室に行ったんじゃないかな」
音にはまるで反応しないのに、匂いには酷く敏感だ。
ネコが全身の毛を逆立たせるように部室の端を陣取った榮倉先輩は、
すっかり書く手を止めて、僕に無言の圧力を掛け続ける。
切羽詰まっているはずなのに、ちょっかいを出すところを見ると、
原稿の進み具合が思わしくないのだろう。
「柴崎君、どこか行くの?」
「ああ――ちょっと、知恵を拝借に」
「ハイシャクって、あ! もしかして、この前の『本の虫』ちゃんのところ? だったら私も行こうかな。することなくて今は暇だし」
と榮倉先輩がその瞬間ッ!
まるで獲物を捕らえるような鋭い視線を向けていたことに
ナツキはまったく気付いてなーーーい!
「それに“あの人”……とっても面白いし。それにカワイイし。なんか放って置けないのよねえ」
活字に不慣れな僕たちが、
これほど効率よく短時間で情報を集められたのは、
全て“あの人”のお陰である。
あの『伝説の同人誌』(榮倉先輩いわく。有名ではないし、そもそも存在を誰も知らないだろう)なるシロモノを見つけたのも“彼女”だ。
誰が呼んだか分からない。
三階の【図書室】に巣食う怪人――『本の虫』。
夜な夜な【図書室】に現れては片ッ端から部屋の蔵書を貪り読む、
と噂されている。
このままいくと〈ヨット高七不思議〉に加えられる日も間近であろう。
「榮倉先輩、ちょっと僕たち出てきます」
と、形式上どうしても言わなければならない。
今の榮倉先輩は、例えるなら信管むき出しの爆発物だ。
慎重に慎重を期して、ようやく扱わなければならない。
彼女は恨めしそうにこちらを見やると、
う、う、う、と三度唸った後にようやく送り出した。
なんとも言えない後味の悪さを僕はひとりで噛みしめる。
ナツキは「はやく行こうよォー」と青ざめた僕に言うあたり、
やはり気にしていないようだ。
放課後の【図書室】は、閑散としていた。




