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ゆうれい.4



  【四戸町】が困窮していないのは、軍隊さんのおかげだ――


 中学の化学の授業中、先生がぽつりと口にした。

 グンタイ、という耳慣れない危険な響きは、

 僕の頭の中に不思議と残ったのだった。


 僕たちの通う学校から、もうふたつだけ険しい山を越えたところに

 その“軍事基地”はある。

 我が国で唯一、民間・自衛隊・米軍の三者が共同で使用する

 巨大な飛行場だ。そこで毎年開かれる『航空祭』は、

 僕も小さい頃に見た覚えがある。



 第一次大戦中、太平洋方面の防衛の拠点として、

 そこは旧日本軍によって建造された一大空軍基地だった。

 零戦・雷電・紫電といった当時の主力戦闘機の配備はもちろん、

 新型試作機の開発も極秘裏に行われていたらしい。



 そして、それによってこの町の空は赤く染まった――



 僕らの住んでいる土地には、かつてそんな過去があったのだ。

 米軍の本土空襲が激しさを増し、基地の町として発展してきた

 【四戸町】もまた、米艦載機による激しい爆撃を受けた。

 それは総攻撃の前日、爆撃予告のビラを数万枚空に撒いて、

 攻撃をする側の米軍が住民に避難を促したものの、

 憲兵隊や当時の警察により読むことが禁止・回収され、

 その警告が満足に伝わることはなかったそうだ。



 家を失い、命を奪われ、生き残った人々は追われるように

 近隣の町々に流出した。しかし当時の情勢下では、

 それは許されない行為だった。


 配給――統制――今では考えられない社会システムが

 大きく幅を利かせていた。


 この〈ヨット校〉が未だ木造で、今よりずっと規模も小さく、

 先生も生徒も洋服など着ていなかった時代――



「ここが……そうなの?」

「建て替えが何度も繰りかえされて、当時の面影は残ってないだろうけど」



 放課後の校舎に高らかに音を響かせる吹奏学部は来週の金曜日に向け、

 壮行会を兼ねて【メープルホール】で最終調整している。


 部員が出払い、すっかり閑散とした三階の【音楽室】は――

 いや、“この学校”は、当時の背景を調べた僕とナツキにとって、

 ぞっとする場所に他ならなかった。



「逃げ出した人たちが、この場所で……」




 そこに渦巻くのは狂気。

 何もかも捨て、

 安全な土地を求めて【四戸町】を去ろうとした当時の市民たちは、

 それを収めようとする警察機構の度重なる取り締まりによって

 一同に会された。そして――





 処刑された。


【四戸高等学校】の前身である旧制中学は、

 そのための場所の提供を旧日本軍から強制させられていたという。

 まるで監獄だ……この真新しい校舎には、その面影はない。

 しかし、忌まわしい過去はそれでも土地に()いているのだ。

 そんな悲しい過去を風化させないために、

 毎年の八月十三日には学校の前で慰霊祭が盛大に執り行われる。



 

 僕がナツキから聞かされた〈ヨット高七不思議〉のひとつ、

 〈真っ赤に染まる音楽室〉はこうだ――




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