ゆうれい.2
「君は誰から〈歩き回る少女〉の話を聞いた?」
すると佐々木加奈子はようやく僕を見、そして、ゆっくりと話し始めた。
「……幽霊を見た日、バスケット部の先輩に聞いたんです。だから“呪文”のことも知らなくて。あの日、教室に行ったら見たことない女の子が前の窓のところに居て、私が近付くと、ウソみたいに消えたんです。私、それから怖くなって先輩に付き添ってもらって」
「じゃあ、その話は君の先輩から聞いたんだね?」
佐々木加奈子は伏し目がちに頷いた。
現時点で一年生での入部は、限られた一部の者だけだ。
部活を終えて辺りが薄暗くなると、
誰も居ない彼女の教室は容易に想像出来る。
僕の中で既定事実となっていた先入観は、
彼女には存在しないように思える。彼女は〈歩き回る少女〉の話を、
その時まで知らなかったのだ。
すると佐々木加奈子の唇からは堰を切ったように、
その先輩から聞いた“噂話”が溢れ出す!
「それは学校を徘徊する有名な幽霊だって。もしも出会ってしまったら、腕を掴まれて向こうの世界に無理やり連れて行かれるッて!」
「でも君はこうして、無事にここに居るじゃないか。僕もその話は知ってるよ。その一方で、君と同じく幽霊を見たけど、なんともない人だって僕はたくさん知っている」
「でも“一週間後に来るッ”!」
僕もナツキも、それを聞いて怪訝な表情になる。
「……一週間後に来るって、そのユーレイ?」
ナツキもそれは知らなかったらしい。
彼女の言葉を引き継いで、君を迎えに――とは、
さすがに聞ける雰囲気ではなかった。
次から次へと新証言が飛び出してくる。
この話は、一体どこまで膨らむのだ。
「ね、ちょっと待ってよ。さっき言った、その“一週間後に来る”ってのは、もしかして美奈から聞いた話?」
「美奈先輩……じゃ、なかった気がします……ああ誰からだったかな。確か、そうだ同じクラスの!」
「それじゃ私が知らないはずだよ。一週間後に来るなんて話、だって聞いたことないもん。それってゼッタイその人が作った真っ赤なウソだよ。皆を怖がらせようとしてさ。――なんか、インケン。だからさ、そんなのはゼンゼン気にしなくていいって。ね? 加奈子ちゃん」
だから、たった一晩でナツキはどれだけ七不思議に詳しくなったんだ、
――と、心の中で軽くツッコミを入れつつ表面上は同調しておいた。
それを聞いた佐々木加奈子は目を丸くして、
ナツキが見せたとびきりの笑顔をぼおっと眺めていた。




