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ヨット高校新聞部!!  作者: 中田 春
~歩き回る少女~
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うわさ.2


「おい柴公(しばこう)



 その聞き慣れた声に僕は敏感な反応を示すとともに、

 我が身に少しでも災難が降りかからないよう、

 自転車を押す手に力を込めた。



 クサリやらユビワやらネックレスやら――

 見るからに悪趣味なアクセサリーをジャラジャラさせ、

 まるで全てを傷付けてしまいそうな

 アマチュアのロックンローラーっぽい金髪のその男は、

 実に気安く僕を呼び付ける。



「ッていうか、汗かき過ぎじゃね? ダラダラだし。朝っぱらから、そんな疲れてどうすんの」



 この男が、件の秋山(あきやま)呉介(くれすけ)である。

 「笑えるんだけどー」と、肩で荒い息をさせる真っ赤な僕を見て、

 明らかにバカにする呉介の姿は許せるものではなかった。

 きっとこの男には、坂を登り終えた後に見る桜並木の素晴らしさなど

 分かるはずないのだ。



「な、マジで悲惨じゃねえそれ。よく授業受ける気になるよな。一時限目大丈夫か? くくく。寝ちまうんじゃねえの?」



 いつもの軽口をさらりと受け流し、僕は【自転車置き場】へと急ぐ。



 【四戸(よと)高等学校】と刻まれた物々しい石碑を過ぎると、

 色鮮やかな天然芝が向こう側いっぱいに広がる。

 芝生の両端にはフットサル仕様のミニゴールが固定されていた。



「――おい無視すンな。同じ部活の仲間じゃん」

「ナカマ?」



 仲間、とは、彼は何を指してそう言うのだろう。

 そのまま無視して歩を進めると【自転車置き場】にまで、

 なんと彼は付いてくる。


「な、今は何やッてんの?」


 何って何、と、止めた自転車に鍵を掛けながら、

 僕は無愛想に聞き返した。



「部活よ部活、新聞部」

「かなり忙しくしてるよ」



 屋根付きで鉄筋の【自転車置き場】は、いつ来ても空いている。

 生徒数はさほどでもない我が〈ヨット高〉であるが、

 この規模の壮大さはどうしたことだ。

 田舎で土地が安いのは承知だが、

 この敷地といい、あの設備の整った運動場といい、

 それにしても大盤振る舞いである。


 しかし、校舎の中はと言うと……不思議なことに手が回らないようで、

 明らかに使い古しの校内の備品といい、

 まったく換気しない【理科室】の換気扇といい、

 【体育館脇の用具倉庫】の天井(なんかモコモコ?している)といい、

 充分過ぎるほど整えられた周辺の設備とは雲泥の差だ。



 施錠して、つと立ち上がると、

 そこに驚愕の表情を浮かべる呉介が居た。


「君も来ればいいじゃない。そんなに気になるなら」


 いつの間に現れたのか。

 形のよい鼻をつまみ、あからさまな態度を取る榮倉(えいくら)先輩がそこに居る。

 心なしか彼女のトレードマークであるポニーテールも、

 まるで彼を軽蔑しているかのように愛想がない。

 思わぬところで榮倉先輩の凛とした立ち姿を見、

 まるでこの晴れ渡った青空のような

 僕はとっても清々しい気分になる。

 彼女も同じく自転車通学組だ。



「やっぱりタバコの匂いがする」

「……い、いえ、朝の一本だけッス。そんな匂いするッスか!」



 突如現れた榮倉先輩を前に、不自然なほど至極かしこまった呉介は

 自分が着る学ランをあちこち嗅いで回る。



「おッかしいな。香水で消えてるはずなンスけど……」



 おい匂うかと言って、

 女性の太モモはありそうなゴツイ首をかしげながら、

 彼は制服の袖を近付ける。


「気を付けることね。生徒指導の犬飼(いぬかい)先生は、お鼻がとっても利くから。特に最近は絶好調らしい」


 慌てる呉介に鼻声でそう言い残すと、榮倉先輩は鼻をつまんだまま、

 すたすたと足早に【自転車置き場】を離れていった。



「マジで匂いする?」

「さあ。僕の鼻は当てにならないから」



 昨日の先輩の話を聞いて『秋山呉介=タバコ』の図式が、

 僕の中でも完成されている。

 彼に対して、拭えない“先入観”があるのだ。



「だから待てッつーの! 本当に匂うか?」

「匂いが移る、こっちに来ないでくれ。榮倉先輩に嫌われたくない」



 すると呉介は足を止め、茫然とこちらを見返した。


「はあン?」

 はあン? 


 何かおかしなことを、僕はあの男に言っただろうか?



「……お前、景山部長から榮倉先輩に乗り換えたのかよ」



 とそれを耳にした途端、かあああっと、

 抑えきれない激しい憎しみの感情が、

 まるで電撃のように僕の全身を駆け巡るッ! 



「だから柴公、いつからお前は――」

「だッ、ダダダッ! だ、誰の所為でそんな“根も葉もない噂”がッ!」



 しかし、当時の恐怖が次第に込み上げて、

 すっかり青褪めてしまった僕はそれきり沈黙し、

 ごくりと大量の唾を呑み込んだ。




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