うわさ.1
青森の春は、訪れが遅い。
学校前の桜並木が満開になるのは常に四月の後半か、
もしくは五月の始めになる。入学式には到底間に合わず、
だから晴れの日に花は添えられない。
完全に時機を逸した東北の桜であるが、それは僕たちの都合である。
のぼりが出ている。
―― 四戸商店街さくら祭り ――
自転車の速度を緩めながら、僕は【四戸商店街】まで続く
たくさんの桜色ののぼりが春風になびく風景を眺めていた。
満開の桜が散り始める五月のゴールデンウィークは、過疎化が進み、
すっかり寂しくなった商店街に束の間の活気が戻ってくる、“らしい”。
僕は隣町から来ているので、その辺の事情には疎いのだ。
その商店街のささやかなお祭りにしたところで【ヨット高】に来るまで
僕は知らなかった。
【四戸商店街】の手前で折れ、
アスファルトで舗装された通学路をしばらく行く――
勾配のきつい坂道が、やがて目の前に立ちはだかる。
自転車通学の敵は、石ころだらけの農道と、
容赦なく吹き付ける強風と雨と、
そしてこのキョクタンな上り坂である。
学校までの道のりの最後を締める、この【心臓破りの大坂】は、
まるでネズミ返しのように新入生の登校をことごとく阻む。
延々と伸びる坂道の途上で自転車を押してトボトボ歩く、
哀愁漂う後ろ姿があちこちで見受けられる。
あれは皆、心を砕かれた人々である。
その苦難の道を後押しするのは、今は寂しいイチョウ並木と、
ようやく見え始めた僕たちの学び舎だ。
左側を占めるのは広大な敷地を有する【森林公園】。園内には、
町民なら誰もが利用可能なオートキャンプ場と、
愛らしいカルガモの親子が棲息する湖もあり、
手漕ぎのボートに乗って親子を観察する古めかしいデートプランは、
健全な男女交際を推進する学校側のプロパガンダだ。
立派な【多目的運動場】は、その公園を挟んで向こう側にある。
そして校門まで果てしなく続く、歴史ある古い桜並木――
それは疲弊しきった心身に、苦行を終えた者のみが与えられる
達成感の象徴である。
平時より僅かばかり高いところから、すっかり丸みを帯び、
今にも開きそうな桜のつぼみを眺め、その日を待ち遠しく思う。
肌に当たる風は柔らかみを増し、
春の到来はいよいよ間近ということを感じさせる。
スクールバスが止まっている。
「おい柴公」




