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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第一章 重荷を負うて遠き道を行くが如しです
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第九話

復活しました。

線香の香りと畳の独特な匂いが辺りに漂う。聞こえる音は人のすすり泣く声と、僅かな話し声。周りに見えるのは数十人の喪服に身を包んだ人達。

僕は今、あのバイト青年の葬式に参列していた。今さっき葬儀会場の掲示で名前を知ったばかりの人間が葬儀に参列するのもどうかと思ったが、彼には沢山助けてもらっていた。自己満足かもしれないが、手を合わせに来た。


「まさか初めての給料の使い道が香典になるとは思わなかったよ」 


 僕は香炉に香を落しながら、小さく呟く。因みに初日と二日目の給料8000円は香典3000円と古着の黒いシャツ2000円ですっかり無くなってしまった。残りの3000円は諸経費。しかし、持っていたいたスカートの中に真っ黒の物があって良かった。

遺影に合掌し黙祷した後、少し下がり、遺族の方へ一礼しようとすると、その人たちと目が合う。座っている位置で考えると、青年の両親だろう。40歳後半の夫婦が驚いたようにこちらを見ていた。あれ、何か変なことしたかな?作法はたぶん間違っては無かったと思うんだけどな。




その後は恙無く葬儀は進んでいき、無事葬式は終わった。辺りには青年の友人たちであろうか、20歳くらいの人たちが涙を流しながら集まっていた。ちらっと見ただけでも二十人以上。気さくなヤツだったから、その分友達も多かったのだろう。死んだ時に涙を流してくれる人の数でその人の人徳が図れると言うが、その考えで行くと、彼はとても愛されていたんだと思う。

 そう考えると僕はどうだったのだろう。交通事故で死んだはずの僕はどこへ消えてしまったのだろうか?死体が消えたりしたら騒ぎになるだろうけど、そんな噂は聞かないし、そんな事が起これば流石に街頭テレビのニュースでも報道されるだろう。ただの交通事故として処理されたなら、僕の葬式では一体何人の人が涙を流したのだろう。そして、今の僕が死んだ時、誰が涙を流してくれるのだろうか。いや、そもそも誰が気付いてくれるのだろうか。家族も友達も仲間も居ない僕は―――

 考えても仕方ないそろそろ帰ろうか、と腰を上げたタイミングで彼の父母を見つける。丁度挨拶が途切れたみたいだ。一応帰る前に一声だけ挨拶をしておこうと思い、近づく。


「この度はまことにご愁傷様でした。謹んでお悔やみ申し上げます」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。お若いのに礼儀正しい御嬢さんですね」

「いえ、恐縮です。それでは、失礼します」

「あ、ちょっと待ってください」


 彼の母親に引き留められた。


「あの子の携帯電話、待ち受けがあなたのお顔でしたので……恋人だったのかしら?」

「えっ!?なっ、あ、いえ、取り乱して済みません。恋人では無いです。ただの知り合いです。困っていたところを助けて頂いて……」

「あら、あの子ったら。恋人でも無いのに女の子の寝顔を撮るなんて、ごめんなさいね」


What's?い、今何て?


「ね、ねねね、ね寝顔!?」

「あの子の携帯電話の待ち受け。貴女の寝顔だったの。」


寝顔だって!?一体いつの間に……!?いや、たしかに寝る時コンビニの休憩室をこっそり使わせてもらった事はあったけど!だからっていつの間に!よ、よだれ垂れてたり、変な顔してないよなその写真!?


「お、お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません……その、変な顔になっていませんでしたでしょうか……?」

「いえいえ、とてもかわいらしい寝顔でしたよ。ところで―――あの子から服を貰う約束などしてませんでしたか?」

「服、ですか?」


 そういえば、僕の服装について話していたときに、何時も同じ服を着ている僕を憐れんで、何着か女性用の古着を前借りで譲ってもらった事もあった。「今度、もうちょっとましな服買ってやるよ」と言っていたが、もしかしたらその事かもしれない。


「あー、あいつホントに買って……」

「その服、貰ってくれないかしら?あの子もその方が喜ぶと思うの」


 つい思って居た事を呟いてしまう。それを聞いて得心したように青年の母親が言う。確かに青年はそう言っていたが、だからと言って本当に僕へのプレゼントだったかなんてわからない。彼女が居た様子は無かったけど、もしかしたら意中の女性が居たのかもしれないし……ってそれってまさか僕か?アタックされまくってたし。


「いっ、いえ、そんな。本当に僕宛か分かりませんし」

「そうかしら?無理にとは言わないけど……」


 一応遠慮してみるものも、あからさまに落ち込む青年の母親。うーん、これは断りづらい。


「あの子言ってたのよ。最近すごく面白い友達が出来たって。年頃の男の子だから、あんまり学校や私生活の事話す子じゃなかったんだけど、貴女の事はとても楽しそうに話してくれてね。付き合いは短いけど、親友になれそうだーなんて恥ずかしい事言っちゃって。ちょっと嫉妬しちゃうくらいだったのよ。だから、あの子がいつでも頼ってこれる様にって集めてた服だから、貴方に受け取って欲しいのよ」

「……わかりました。受け取らせて頂きます」


 話しながら目に涙を溜めている青年の母親の願いを断る選択肢があるはずもなく、僕はその服を受け取ることにした。そう返事をすると青年の母親は心底ホッとした表情と、少し寂しそうな顔をして微笑む。


「ごめんなさい、ありがとね。用意しておくから、今度取りに来てくださいね」




 青年の両親の挨拶を終え、葬儀会場を後にする。


「……バカだろ」


 僕は名前も知らなかったんだぞ?どう見ても怪しいんだぞ?一週間くらいしか付き合い無かったんだぞ?

 なのに、友達って。しかも服まで買って集めるとかどんだけお人好しなんだよ。ああ、そうさ。僕も楽しかったよ。男だった時の家族も仕事も友人も無くした僕が、孤独に押し潰されなかったのはあいつのおかげだ。あいつが居なかったら仕事を探すのも諦めてただろう。あいつが居なかったら何もかもやけっぱちになっていたかもしれない。感謝してもしきれない。

 葬儀中は出る事が無かった涙が、今更溢れ出る。ポタポタとアスファルトに小さなシミを作る。

 友達だった。何が友達なんておこがましいだよ。短い間だったけど、確かに友達だったじゃないか。なのにそれを疑って。最低だろ。


 ―――切裂き魔

  

 許せない。友人を殺されたんだ。許せるはずがない。あいつを殺した犯人を見つけれたら、僕は……



「知りたいか?あの男を殺したものを」

「ッ……!!」


 1週間ぶりに、久々に聞いた渋い声。


「急に声かけるなよ……心臓に悪い……」

「人が掃けるのを待っていたのだ。今の反応、人前では見せれぬ顔だぞ?」

「……ご配慮痛み入るよ」


 まぁ、人前でいきなり驚くよりマシではある。そんな事よりも―――


「おい、知ってるのか?誰が、あいつを殺したのか」

「だからこうやって汝の前に姿を現したのだよ。ただの復讐劇には興味はないが、やつは無関係な人を殺し過ぎた。それにどうやらその悪人、こちら側の人間の様だ。異界の力でその世界の秩序を乱す。捨て置けぬ咎人よ」


 相変わらず言い方が回りくどくて、こちらに理解させる気が無い喋り方だ。気持ち的にも余裕が無いので、思わず苛ついた風に返事をする。


「僕に分かるように説明しろ」

「……フン、魔術や異形のものの悪行と言う事だ」


 思わず顔をしかめる。つまり―――あいつはこの前の熊みたいな化物の仲間に殺されたってのか?そういわれて納得する。ニュースでは数分の時間で大掛かりな犯行を行っていたと言っていたけど、確かにあんな化物なら人を殺すのも一瞬だろう。


「この前の、魔獣っていってたやつか?」

「恐らく厳密に言えば違う。……が、似たようなものだ。異界の産物、我等が滅ぼすべき“悪人”」


 一度しか見てない上に、人知を超えた“もの”の違いを説明されても理解できないだろうけど、異界とか初耳で気になる事もあるが、正直その事に対して気を向ける余裕は無かった。似たようなものだって言うなら問題ない。化物ならこの前倒せたじゃないか。だったら、仇を取れるって事じゃないか。


「いいよ、とにかく化物が暴れて、あいつはそれに巻き込まれたって事だろ。分かったよ、よくわかった」


「つまり、あいつは」


「あんな奴らに理不尽に何の意味もなく殺されたって訳か」


 ―――さない

 許さない



「良い顔だ。さぁ、復讐するにはいい夜だ」


 復讐、そう、復讐だ。友達を、殺されたんだ。



「さぁ、堕ちた勇者退治だ」




 ―――してやる



引っ越しで出来なかったネット環境が復活した為、連載再開します。読んでくださっていた方々、お待たせして申し訳ありませんでした。

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