第七話
気分が悪くなる話が続いてます。大分押さえましたがややグロ注意
むかしむかし―――
世界には魔王と呼ばれる存在が居ました。魔王の力は強大で国中の兵士や傭兵が束になっても倒せません。困った王様は異世界から勇者を呼び寄せました。
めでたしめでたし
異世界から召喚された勇者は16歳の少年でしたが、正義感が強く、女神様の祝福でその身体能力は高く、あっという間にその国の誰よりも強くなりました。
めでたしめでたし
勇者は三人の仲間と共に魔王を倒すための旅に出ます。様々な苦難を乗り越え、勇者は遂に魔王の城まで辿り着いたのです。
めでたしめでたし
仲間たちは次々と倒れ、力尽きてしまいますが、遂に勇者の聖剣が魔王の胸を貫きます。数々の犠牲を払いましたが、遂に勇者は魔王を打ち倒し、世界を救う事が出来たのです。
めでたしめでたし
めでたしめでたし
めでたしめでたし
本当に?
本当にこれでハッピーエンド?
魔王は生き絶える直前、勇者に言いました。
「忠告じゃ。お主はこの世界に留まれ。此処がお主の救い。この世界がお主の居場所じゃ」
「何を言う!僕は元の世界に大切な人を残してきたんだ!元の世界に戻るためにここまできたんだ!」
「二度は言わぬ。忠告は私の命を終わらせてくれた礼じゃ。せめてお主の魂が救われる結末を祈っておるよ」
そう言うと悲しそうに微笑んだ魔王の身体は崩れる様に散っていきました
「元の世界には妹が…美祐が待ってるんだ…たった一人の家族なんだ」
勇者は意思を変えず、還る決意をします。胸にシコリの様な魔王の言葉を残しながら
王様は本当はこの世界に残って欲しかったのですが、惜しみながらも勇者の意思を尊重し、その全魔力をもって勇者を元の世界に戻します。
「本当に、本当に帰ってしまわれるのですか?わたくしは……わたくしは……」
「ごめん。でも、一度こうやって来れたんだ。いつかきっともう一度」
「そうです、わね……待っておりますわ、勇者様」
「ありがとう!皆ありがとう!!」
惜しまれながらも、感動的に勇者は元の世界に戻っていきました。
でも、違ったのです。
戻ってはダメだったのです。
魔王は言いました。此処が、この世界が救いだと。
戻った先に救いは無かったのです。
人が人を殺すのは簡単です。銃でも包丁でもそこら辺に転がってる石でも人は容易く殺せてしまいます。
人が人を殺すのは難しいです。それは知性があるから。戻れなくなると本能的に知っているから。
人を殺した人は元の形には戻れません。
戦争に行った兵隊さんが壊れてしまう様に。
人を一人殺した殺人鬼が、次の人を殺すのに抵抗がなくなってしまう様に。
人を殺した人は歪んでしまいます。
彼は、勇者は異世界で人を殺しました。それは山賊だったり、魔王に組した裏切りものであったり、暗殺者であったりしました。
正義の名の下以外で剣をふるった事はありません。
それでも彼は人を殺しました。
正義の下になら仕方ないと剣を振るいました。
だから彼は正義の名の下でなら人を殺せるように壊れてしまったのです。
彼は足元に転がる4個の死体を見下ろします。
3個は彼の妹を浚い、陵辱しようとした悪人です。
だから彼はいままでそうしたように悪人を殺しました。
この世界とは比べ物にならない程の修羅場をくぐった勇者です。
たとえ勇者の装備がなかったとしても、平和な時代のチンピラ程度など相手になりません。
もう1個は彼の妹だったものです。彼女は陵辱されかけたという極限の精神状況下で、大好きな兄が無表情に人を素手で縊り殺す様を直視してしまい、壊れてしまいました。壊れた彼女は割れたガラスの破片を喉に突き刺して死んでしまいました。
その4個の亡骸を見下ろして勇者は自問します。
なぜ?
どうして?
なんでこんなことに?
誰のせいだ、誰が悪い?
僕のせいだ。僕が魔王の忠告を受け入れなかったから。
異世界の皆のせいだ。そもそも僕を勇者としてあの世界に呼んだから。
そして何より、悪人のせいだ。こいつらが美祐を犯そうとしなければこんなことに為らなかった。
ああ、そうだこいつのせいだ、こいつらのせいだ。
美佑が死んだのはこいつらのせいだ。
駆除しなきゃ。―――また美佑みたいな被害者が出る前に。
駆逐しなきゃ。―――一匹残らず、微塵の欠片も残さず。
殺さなきゃ。―――殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ。
―――そうして勇者は壊れました。
―――めでたし―――めでたし
早朝の街を当てもなくふらつく。悪人は何時何処で何をしているか分からない。注意深く街の中を観察する。
「あー、今日もつっかれたわー」
「講義1限目どーする?ブッチするか?」
「出席日数やっべーんだよ。出て寝るわ」
チャラチャラとした大学生と言った二人組が歩いている。あのゴミ共を思い出す。それだけで心を憎悪が埋め尽くす。あぁ憎い憎い。殺してやりたい。
「そーいや、おめーが餌付けしてるあの可愛い子どうなったんだよ」
「あー?悠ちゃんの事か?さーねー。ガードが堅いったらねーぜ」
「いけんだろ。もうヤッちまえよ」
「ばーか、逃げられたらどーすんだよ。こう言うのはもっとゆっくりとじっくりとだな」
「きっめえ!こいつきっめえ!キャラじゃねーっつの」
どうやらこいつ等は女の子を騙して我が物にしようとしてるらしい。あぁ、じゃあやっぱり悪人じゃないか。殺さないと。
「うっせーんだよ。あんな可愛い子滅多にいねーだろ。焦るからてめーはモテねーんだよ」
「あー、はいはいイケメンさんは言う事違うねー。ットォ!!?」
茶化していた方のゴミにぶつかると、ゴミは舌打ちしながら悪態つく。
「ってーな!きぃつけろアホが!」
「……おい、お前、それ、どうなって」
「あ?」
気付くのが遅いな。まるで愚図だ。斬りおとされた右腕を呆然と見るゴミを見据える。
「あ……ああ……うわぁぁあああぁぁあああ!!ガバッ!!!?」
五月蠅い。高々右腕が無くなったくらいで叫びだしたので、口にナイフを突っ込んで黙らせる。突き抜けて脳を貫いたのか、数度の痙攣の後、完全に沈黙した。
そしてもう一人の悪人を見る。衝撃で混乱しているのか、今すぐ逃げ出すそぶりは無い。主犯らしいこの男はなるべく残酷に殺したかったが、先ほどの悲鳴だ。すぐに人が来てしまうだろう。時間はあまりないのでさっさと首を刎ねる事にした。
「は、ハハ……なんだ、これ……」
許容値を超える恐怖と言うものは脳が処理できないのだろう。ゴミは乾いた笑いをもらす。抵抗する素振りも無い。一瞬で殺すには好都合だ。尤も一目散に逃げていたとしてもその瞬間には首と胴が離れていたであろうが。
(俺、殺される、のか?それは、困る、な。あの子の今晩の飯どうすんだよ。柄にもなく惚れちまったんだ。まだ、死にたくな―――)
「これが被害者か?」
「えぇ、ここ数日の犯行と同様の手口です」
「鋭利な刃物で切断、被害者は若い男性、犯行時間は長くて数分程度の早業犯行、か」
「被害者の名前は――――20歳、――――同じく20歳。両名共、近くのXX大学に通う学生です。犯行は早朝ア ルバイト帰りの被害者が大学へ向かう途中、犯人と遭遇したようです」
「恐らく被害者と思われる悲鳴があがり、その声を聴いた第一発見者が向かった2~3分の間に犯人はこれだけの事をやらかして、姿を消していたようです」
「一体どうやってるんでしょう。人体をそんなに早く切断する方法なんて想像付きません」
「しかも若いにーちゃんがねぇ。そんな恨まれる事してねーだろうによ」
刑事は落ちている携帯電話を拾う。その待ち受け画面には可愛らしい少女の寝顔が映っていた。
「可愛い彼女さんだこと。……可哀そうに」
青春という人生で最も輝かしい瞬間だったであろう時代に、理不尽に奪われた若い命。そして残された者の事を考えると、このような残虐な犯行を行った相手を憎く思う。そして一刻も早く、これ以上の被害者を出さぬように犯人逮捕への決意を新たにする刑事達だった。




