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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第二章 其れを腹心の友と為します
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第十三話

 現在時刻、朝10:00。

 大型ショッピングモールの従業員から、地下駐車場が重機の様な物で壊され、人が死んでいるという通報から約2時間後の事である。通報を受けた警官はあまりの内容に半信半疑で悪戯かと訝しんでいたが、現場を見て仰天。急遽警官が大量動員され、現在は現場検証を行っている最中であった。


「被害者の名前は天野 勇一。都内に住む20歳の男性。一週間前に発生した3人のホストと1人の少女の死亡事件の重要参考人としてあげられており、行方不明になっていた人物です。手に握られていた日本刀から、連続殺傷事件の被害者と思われる数人の血液型が検出された事から、恐らくは最近の若者連続殺傷事件の犯行者かと思われます」

「死因は失血多量によるショック死。右腕が根本から切断されており、そこからの失血が死因につながったと思われます」


 年季を感じる背広姿の中年の刑事と若々しく利発そうな青年の刑事が並び歩き、現場で向かう途中に受け取った概要と同様の報告を受ける。しかし、死体より先に周りの異常さに目を奪われていた。


「こりゃあ、夢でも見てんのかね、俺は」


 歳の頃50歳の中年刑事は所謂ノンキャリアと呼ばれる地方公務員試験上がりの人間で、長い間現場で勤務していた。そしてそこで培った経験で実績と信頼を得て警部の職に就いている敏腕の警察官だ。その長い警察官生活の中でも“コレ”はとびぬけて異常だった。

 辺りを見回すと、高さ3、4m程度の駐車場の広い空間。その空間を形成する分厚い鉄筋コンクリートの壁や天井がまるで重機で突っ込んだかの様にへこみ、ひび割れ、砕かれていた。それも一つや二つではなく、何か所も。


「大型車両で衝突を繰り返した……にしては天井までへこんでるのに説明つきませんね……」

「現在調査中ですが、壁面に衝突したであろう物体の残骸が一つも残されていないのが不可解です。これ程の破壊活動を行ったのに痕跡ひとつすら出てきていません。不可解な点はもう一つ、切断された被害者の右手首に残されていた手形ですが……こちらの写真をご覧ください」


 二人の刑事は写真を覗き込む。そこに映し出されていたのは青年の物と思われる根本から引きちぎられた人間の右腕だった。血が流れ出たせいでまるで人形の手に思える無機質さを内包する不気味な写真であったが、彼らの視線はその手首に集約する。そこにあったのは人の手形。しかし、それはあまりにも―――


「こいつぁ……小さすぎねえか……?」

「高学生……?いや、中学生位でしょうか?下手したら小学生かも」


 彼らが知る由もないが、そこにくっきりと刻まれていた小さな手形は、まごう事なき悠の手形だった。無意識に手の内側に斥力を発生させていた為、まるで万力で締め上げたかの如く深く刻まれていた。


「常識を抜いて考えるなら、この犯行は中学生程度の体格の者が人間の腕を素手で引きちぎり、これ程の破壊を行ったということに……あの、警部、自分にはこれが現実とはとても……」


 困惑した表情で言う比較的若い警察官。その顔に刻まれているのは恐怖。調べれば調べる程湧き出てくる『有りえない』物的証拠の数々にその精神は恐怖に飲まれ始めていた。


 「一体、この街で何が起こってるってんだ……」


 長く接し、護ってきた街で立て続けに起きた不可思議な事件の数々。彼の長年培われてきた“勘”が警報を鳴らしているような気がしていた。








―――場所は変わり、いくらか離れた場所にある雑居ビルの非常用階段の中、竜胆悠と仔犬の魔獣は向かい合うように座っていた。


「改めて自己紹介をしよう。我が名はエランティス。依然名乗った通り拒絶の名を冠する魔獣だ」

「……急にどうしたんだ?」


 唐突に改まって自己紹介を始めた仔犬ことエランティスを訝しげに見ながら僕は尋ねた。しかし仔犬の姿の割に随分とカッコいい名前じゃないか。てっきりシロとかポチとかそんな名前かと思ってたよ。本人が聞いたら確実に噛みつかれそうな内容を考えていたら、エランティスが僕の問いに答える。


「気が変わったのだ。汝に期待してみたくなった。先ずは非礼を詫びよう。正直言って我は汝が再び死ぬ事があっても構わぬと思っていた。故に必要以上の情報は与えず、魔獣と引き合わせ、異界の紛れものと引き合わせた」


 “期待”と言う言葉にドキリとする。僕は、期待されているのだろうか。が、その先のセリフを聞いてげんなりとする。死んでもいいって思われてたのか。酷い奴だ。


「切裂き魔の件なら別にいいよ。着いて行ったのは僕自身の選択だ。まさかあんなに強いとは思ってなかったけど」

「此方としてもあれは想定以上だった。噂には聞いていたが、勇者と言うのは中々の手練れであった」

「ハハ、勇者とか、冗談だろ?」


 切裂き魔の言った自称勇者を信じているらしいエランティス。冗談かと思っていたが本人は至って真面目だったのか少し考えるように俯いていた。


「奴の正体をあれこれ詮索しても結論は出まい。それよりも汝に説明せねばならん事がある。魔法と我の目的だ」


 再度向き直り放った言葉に、再び僕はドキリとする。今迄考えないようにして居た事。僕が使ったどう見ても魔法としか思えない超常現象。それに会話の端々から出てくる“異界”や“魔獣”と呼ばれるものについてだ。


「やっぱり、僕が使ったのは、魔法なのか?」

「順を追って説明しよう。まずは異世界と言うものを信じるか?」

「あんな化物や超常現象を見たら、信じる……しかないだろうなぁ。実感はないけど」


 僕の返事に、それで十分だと言ったエランティスは説明を続けた。





 此方の世界と似通っているが異なる世界。

 隣り合っているが永久に触れ合わない隣人。


 異世界。



 隣り合っているが故に二つの世界に大きな差異は無い。殆ど同じ気候・地質・環境、そして人種。ただ、そこには致命的なまでに決定的に異なっているものがあった。

 それは“魔術”。そのもう一つの世界は魔術が栄える世界なのだ。文明は地球に比べ1000年近くも遅れているが、様々な魔術が栄え、研究されそして、使用されていた。軍事、生活、宗教。ありとあらゆる分野において魔術が無くては成り立たず、それを意のままに操る事はそのまま権力を操ることにも繋がるのだ。

 そして、魔術を操れるのは人間だけではなかった。獣、魚類、虫、それらが魔術を得、異質なものへと変質したものが“魔獣”だ。魔獣は普通の生物とは比べ物になら無いほど強靭で凶暴だった。それらから身を護る為に人々の生活の範囲は狭く、街と街をつなぐ道以外は殆どが開発されず、そこに立ち入るのはよっぽどの命知らずか、狂人か、又はそれらを狩る事を稼業としている者たちだけであった。

 


「なんか、ファンタジーな世界っていうか……龍を狩に行くRPGでも想像すればいいのかな?」

「何の事だ?」

「ああ、いや、何でもない」


 説明を聞きながら、某国民的ロールプレイングゲームを想像した。所謂剣と魔法の世界って奴なのだろうか。


「あの世界は戦争が多い。基本的に魔術は破壊に適しているからな。その戦乱の中、ある女が願ったのだ。『こんな世界は嫌だ』『此処とは違う、平和な世界に行きたい』と。そしてその願いを以って女は魔女と為った。界渡りの魔女。魔法名は『異界至無窮門(いかいへといたるむきゅうのもん)』。その名が示す通り異界へと繋がる門を創り出す魔法だ」

「魔女とかがよく分からないけど、要するに誰かが魔法を使って、その門がこっちの世界に繋がったって事か?」


 新しい単語や説明で頭が沸騰しそうになるが、なんとなく自分で理解できるように噛み砕いて納得してみる。以前の様な冗長な言い回しや比喩が無い分、何とか理解できる範囲だ。


「然り。はた迷惑な話よ。その門は未だ閉じず、稀に紛れ込んだ化外、魔獣が此方の世界で人を襲う。

 それを憂いたのが我が主ティアナ・ブリュゲル。拒絶の魔女と呼ばれる魔女だ。此方の世界の人間が自らの世界の同類のエゴで無残に殺されるのを良しとしなかった。優しい娘であった。正義感の強い娘であった。


 ―――だが、死んだ。殺された」


 一息ついで発した言葉と共に悍ましい殺気が発せられる。あまりの殺気に息を飲む事しか出来なかった。


「許せるものか。納得など出来るものか。あの子はただ、正しい事をしていたのだぞ。其れをあの古狐共めが……!」


 深い毛の中の憤怒と憎悪で爛々と輝かせた瞳で僕の目を見つめながらエランティスが告げる。


「我の望みは二つ。一つはティアナを殺した輩への復讐。そしてティアナの望み、正義の執行だ。汝には悪いが、拒否権はない」

「分かった。手伝うよ」

「早々納得できぬかもしれぬが……何?」


 エランティスは言葉の途中で僕が想定と真逆の返事をした事に気付き、ポカンとした表情で此方を見る。


「恨まぬのか……?化物との戦いに放り込んだのだぞ?」

「でも、生き返らせてくれたんだろ?ちょっとハードだけど、生きてるだけで儲けもんだし」

「……」

「……」


 あれ、また何か変な事を言ってしまっただろうか?僕は急に不安になる。僕は人と微妙に価値観が違うのか、たまにこうやって場の空気を凍らせてしまう事があった。そのおかげであまり友人は多いとは言えない。普段なら冗談とおどける所だけど、さすがに今冗談って笑い飛ばせれる空気じゃないよなぁ……僕がこの凍りついた空気をどうしようかと迷っていると、エランティスが何かを小さく呟く。その声はとても小さくて聞き取れるものでは無かったけれど、何故かとてもさみしそうな雰囲気を感じた。


「我が言うのは何だが、変わっているな、汝」

「あぁ、うん、まさか喋る犬に言われるとは思わなかったよ!!?」


 普通に考えれば変わっているってレベルじゃない話だよ!?

 先ほどまでの寂しげな雰囲気はどこへ言ったのか全力でこちらを馬鹿にした口ぶりで仔犬に変人扱いされる。その後も何度か言い合いをするが、口が上手いエランティスには到底かなわず、あっという間に論破される僕だった。くっ、こいつの口の上手さに勝てる気がしないんですけど!

 論破されたままorzの体制でいるのも情けないので、話題を変えるついでにこれからの事について聞いてみた。


「それでとりあえずの所、僕は一体何をすればいいんだ?」

「界渡りの魔女の行方は分かってはおらぬ。当面はあの門から現れる魔獣を狩る事になるだろう」

「つまり、その迷惑な魔女が見つかるまでは現れた魔獣狩りって事か」

「後手に回るのは口惜しいが、仕方あるまい。あの門は彼奴にしか操る事は出来ぬ」


 そう悔しそうに言うエランティス。後手後手に回る事でその分被害者が出ているのは確かにとても心苦しいけど、正直僕も昨日の戦いで力不足を痛感した。その魔女ってのが切裂き魔並の強さがあるなら今度は本当に命を落としてしまうかもしれない。この力を使って慣れる事は必要な事に感じた。


「んじゃ、やる事も無いみたいだし、そろそろバイトの時間だから行ってくるよ」


 僕はそう言って立ち上がる。昨日からほとんど徹夜だったせいでかなり体が張っている。んーっと背筋を伸ばす僕にエランティスがらしくもない声を掛ける。


「感謝するぞ。竜胆 悠」

「よせやぃ。お前が素直だとなんか不気味だぞ?」



―――そう言ってやや気だるげに歩みを初めた悠を見送り、エランティスは呟く。



「あぁ、感謝している。感謝しているとも。だが、竜胆悠よ。気付いておるのか?一度死を体験し、その後も死の恐怖を感じつづけ、なお何の理由もなくそれに立ち向かうことなど、最早常人の域を超えている。一体何が汝をそこまで駆り立てるのだ?それではまるで―――」


―――その先の言葉をエランティスは飲み込む。その先の言葉は、悠に似ていると思ったかつての主を侮辱する言葉に思えて。だからこそ彼は再び誓う。この危なげな新たな主をみすみすと死なせるわけにはいかないと。

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