戻らない自然の改善
湖の主の秘密とは?
町の集会場に沢山の人が集まっていた。
「それで、どんな湖の主を見たって?」
良美の質問に老人が答える。
「鴉天狗さまじゃ!」
「違うよ、仮面ライダーだよ!」
即座に子供が反論すると別の中年が言う。
「大きな牛だったぞ」
「私が見たのは、人間くらいの大きさの狼でした」
主婦の言葉を聞いて町長が大きく溜め息をつく。
「やっぱりまとまりが無いの」
次郎は、肩をすくめて言う。
「ですから、全部幻なんですよ!」
それを聞いて、亮が怒鳴る。
「ふざけるな! 俺達は、実際に襲われたんだよ!」
「それが幻覚だといっているんだ!」
次郎の言葉に蓮美が言う。
「次郎叔父さん、信じられないけど、地面には、痕跡も残っているの」
実は、玲美の親族だった次郎が戸惑う。
「それは、……、反対勢力の偽装工作だ!」
「何だと!」
亮の父親である五郎が掴みかかる。
そんな中、良美が言う。
「それで、解ったのか?」
較は、通信をしていたノートから顔をあげて言う。
「解析結果が帰ってきた。ここの湖は、天然の幻獣の製造装置になっているみたい」
「なんですかそれは?」
首を傾げる町民を代表して町長が聞くと較が答える。
「人のイメージを元に物理的影響力をもった幻の獣が作られているって事。民間伝承にもなってたから、むかしからその効果があったんだけど、今回の工事の所為で、偶然的にもそれがより効率良い形になったんだよ。詰り、湖の主、幻獣が建造物を壊したのは、反対派の人のイメージを受けていた所為だね」
それを聞いて驚く町民達。
「本当なのか?」
戸惑いながら質問する五郎に較が頷く。
「因みに解析結果で算出した内容だと、あの建造物を壊した湖の主のイメージのマスターは、貴方みたいですよ」
次郎が複雑な顔をする。
「原因は、はっきりしたかもしれないが、そんな原因は、認められないぞ」
較が即答する。
「残念だけど、開発は、無理。多分、調査の解析を頼んだ、間結の連中がここの土地の買取工作に動き出しているから」
「いきなりだな、どうしてだ?」
良美の質問に較が頬をかきながら言う。
「さっき、天然の幻獣の製造装置になる土地なんて、物凄い貴重なの。多分、五十億位で買い取って、それに手を加えて百億以上で転売するつもりでしょ」
とんでもない金額に驚愕する一同を尻目に良美が言う。
「八刃って暴利な商売してるな」
較が頷く。
「八刃の基本方針は、儲けられる時に儲けるって奴だからね。そういう訳だから、あちき達は、一応お役御免、後は、間結の専門部署が担当って事になるでしょうね」
五郎が怒鳴る。
「そんなふざけた奴らに売れると思ってるのか!」
それに対して較が言う。
「八刃は、ヤクザより性質が悪いうえ、政府にも強いパイプがあるから、警察沙汰にしても捕まるのは、貴方達かもよ?」
あまりもの非道さに言葉が無い町民に代わり良美が言う。
「極悪だな。どうにかならないのか?」
「あちきは、八刃側の人間だからなんともいえない。ここは、諦めて五十億で町の新しい産業を作って、行くのがお勧め」
較の答えに、町民達が戸惑うのであった。
翌日の湖で、魚釣りをしている較と良美の元に亮と蓮美が現れた。
「どうしたんだ?」
言い出しづらそうにしていた亮達に良美が声をかけると蓮美が答える。
「較さんが仰った様に、間結の関係の人が来て、湖一帯の買取を提案してきました」
続けるように亮が言う。
「うちの親父達が反対しようと詰め掛けたら、障害の現行犯だって警察に連れて行かれた。取り下げて欲しかったら、湖を売れってふざけたことを言ってやがる」
「裁判で八刃が負けると思うか?」
良美の言葉に較が首を横に振る。
「絶対ありえない。物的証拠を偽造なんて朝飯前だし、優秀な弁護士も沢山抱えている。何より、万が一にも負けそうになったら非合法手段で相手を消すくらいするもん」
「冗談ですよね?」
顔を引き攣らせる蓮美に良美が手を横に振る。
「本気だろね。ヤヤは、何度も何百人って人間を壊してるけど、一度も訴えられた事無いよ。一度なんか警察署で刑事を半殺しにした事あるらしいからな」
「とことんとんでもない組織だな」
亮の呻く中、較が立ち上がり言う。
「このままって訳にも行かないね。町民を公民館に集めてよ。あちきが今後の事を提案するから」
それを聞いて、亮が舌打ちする。
「どうせ、湖を売れって話にするつもりだろ」
較があっさり頷く。
「何十億って金が動くからね、綺麗ごとだけじゃすまないよ」
その夜、較の圧力で保釈された五郎を含めて、町民が公民館に集まった。
そんな中、五郎が次郎に言う。
「結局お前の考えが通るみたいだぞ」
次郎は、悔しそうに言う。
「私だって、湖に誇りがあった。だからこそ湖をメインにした観光を提案したんだ。間違っても怪しげな組織に売る為じゃない!」
それを聞いて五郎が戸惑う中、次郎が言う。
「あんたは、うちの開発で湖が汚れたって言ってたが、湖は、開発が行われる前から汚れだしていたんだ。その所為で魚の数も確実に減っていたんだ。湖を観光施設とすれば、その予算で湖を綺麗に出来ると考えて居たんだよ」
「お前がそんな事まで考えていたなんて」
五郎が戸惑う中、亮が言う。
「開発が始まる前から汚れていたなんてどういう事だよ?」
傍に居た較が答える。
「生活の近代化に伴う、汚染物質の流出。他にもゴミの不法投棄なんてのもあるみたい。詳細があるけどみる?」
亮と蓮美がその資料を見て眉を顰める。
「別に珍しいことじゃないだろう?」
良美の言葉に較が頷く。
「そう、よくある事。あの次郎さんがやったように観光施設にでもして、予算を調達しないと改善は、無理だっただろうね」
複雑な顔をする町民の前に較が出て言う。
「最初に言っておきます。あちきは、あくまで八刃の人間であり、湖を買い取ろうとしている側の人間だという事です。ここで提案する前に聞かせてください。貴方達は、何を望んでいるのですか?」
その問いに町民が戸惑う中、イの一番に手を上げたのは、五郎だった。
「あの湖を元の湖に戻す事だ!」
次に手を上げたのは、次郎だった。
「観光施設として、新しい産業にし、町の活性化をするんだ!」
その両者の意見を中心に町民が声を上げていく。
出揃ったところで較があっさりいう。
「元の湖に戻すなんて人間の思い上がりですよ」
それを聞いて五郎が言う。
「人間が汚したんだから人間が綺麗にするのは、当然だろう!」
それを聞いて較が言う。
「調査の結果、元の湖に戻ったら、現行生きている魚の五分の一が生きていけない環境になりますが、その五分の一の魚は、元に戻す為の犠牲にするんですか?」
それを聞いて亮が驚く。
「そんな事があるのかよ?」
蓮美が言う。
「そういえば、お父さんも前と違う魚が獲れる様になったって言ってた」
較が言う。
「よく、自然を元に戻すって言う人が居ますが、それは、人間の思い上がりです。自然は、常に現状にあった進化の元、存在しています。それを無視して、元に戻そうなんて人間の自己満足以外の何物でもありません」
沈黙する町民に較が言う。
「難しい話は、止めてましょう。あの湖は、町の人達が自分で使いたいって事ですよね? 自由に漁をして、湖を満喫する。その為に、少なくとも現状維持は、必要。これ以上の開発は、したくない。そして、同時に町に産業も欲しい。違いますか?」
「そんな都合の良い話があるか!」
次郎の言葉に五郎も頷く。
「そうだ、それが出来ないからずっと争っていたんだろうが!」
較が答える。
「何、難しい事じゃないんですよ。環境を維持して、湖と違う観光施設を作れば良い。それだけです」
首を傾げる町民達であった。
それから数週間後、湖の畔。
「湖が綺麗になり、魚の量も増えました」
蓮美の言葉に較が頷く。
「まあね、良いほうに改善するのは、問題ないですよ。それより、新観光スポットの状況は、どうですか?」
それを聞いて亮が苦笑する。
「大うけだ。まさか、湖の主を少し離れた場所に作り出して、それを適当に誤魔化して観光に利用するなんて良く考えたな」
較が笑みを浮かべる。
「湖の近くに自分たちの施設を作る組織も湖の力が欲しくても、イメージを勝手に幻獣にする現象は、邪魔、それを引き受けるのを条件に湖をこれまで通りに運用する。それで全部丸く収まるったって事です」
そこに観光施設から帰ってきた良美と較の金髪の妹、小較がやってくる。
「ヤヤお姉ちゃん、あれって良いの? 思いっきり幻獣だったよ?」
良美が平然と言う。
「良いの。最新技術で作った特殊な演出装置なんだから、当然、その方法は、企業秘密なんだけどね」
苦笑する一同であった。