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過去の罪が返ってくる時

前回の話に出てきた人の家族が出てきました

 黒林剣道道場は、今日も賑やかだった。

「ここって何でこんなに流行ってるの?」

 良美の遠慮の無い質問に笑う一美。

「そうね、ここまで賑やかな道場ってそう無いかもね」

「半分以上は、一美さんのファンだと思う」

 較の分析に手を叩く良美。

「なるほど」

「違います! 健一さんが大きな大会で優勝を続けて、名前が売れているからです!」

 一美の主張に対して、良美が門下生を指差す。

「でも、皆、一美さんに見惚れてるよ」

 一美が視線を送ると、一斉に緯線をずらす。

 そんな中、一人だけ一美に見惚れず、木刀を振り続ける大学生が居た。

「あの人、何か鬼気迫る物があるけど、大丈夫?」

 較が指差しさすと汗を拭っていたこの道場の師範で、一美の彼、森田健一がやってきて告げる。

「色々事情があるみたいだ」

「でも、あれは、復讐者の目だよ」

 較の指摘にこの道場の主、剣造が言う。

「お主がそういうなら、間違いないだろう。練習が終わったら私の所に連れてきなさい」

「解りました」

 健一が請け負うのであった。



 練習終了後、問題の大学生、山中ヤマナカ怜次レイジが、剣造の居る部屋に連れて来られた。

「俺に話があるってなんでしょうか?」

 剣造が頷く。

「お主は、復讐者の目をしている。復讐は、何も生まない。そして、復讐の為に我が道場の剣を使うことは、決して許すわけには、いかない」

 それを聞いて立ち上がる怜次。

「貴方に何が解るというのですか! 訳の解らないバトルで兄を二度とベッドから起き上がれない体にされて、その所為で両親が離婚し、家族がバラバラになった俺の気持ちは、貴方なんかに解る筈が無い!」

「バトルの関係者で、その相手が病院送りか、誰かを連想させられるね」

 隣の部屋で立ち聞きしていた良美が較を見る。

「確か山中怜次だったよね。えーと、山中、山中って……」

 何かに思い至る較。

「まさかと思うが、心当たりがあるのか?」

 健一の言葉に頷く較。

「あちきが病院送りにした人間の一人に確か、中山礼一って居た」

「本人に確認しよう」

 良美が襖を開けて言う。

「お兄さん、もしかしてその人って中山礼一って人?」

「いきなりなんだか知らないが、俺の兄の名前は、離婚する前のままだから田川タガワ勇次ユウジだ」

 怜次の答えに良美が較を見る。

「良かったね、別人で」

 しかし、較が困った顔をしていた。

「まさかと思うが、その名前にも心当たりがあるのか?」

 健一が確認すると較が居た堪れない状況のまま口にする。

「少し前に話した廃ビルの戦闘の話に出てきた、兄貴分を助けようと拳銃を撃って来た人の名前が確か、田川勇次だったはず。確か、未だに病院でうなされ続けてるって話だよ」

 長い沈黙の後、怜次が言う。

「何を意味不明の事を言っているんだ? 俺の兄貴は、バトルって奴に巻き込まれて病院送りになったと聞いたぞ?」

 較が頷く。

「そう、まさに巻き込まれたと言うか、ある意味、仁義にそって行動してた。バトルの対決は、あちきと貴方のお兄さんの兄貴分に当たる人との物だった。貴方のお兄さんは、その人に恩義があって、バトルにも同行していた。それで、危なくなった兄貴分を助けようとあちきに発砲してきたから、敵だってあちきが全身の骨を粉砕して再起不能にしたの。あの時の恐怖が未だに消えず、毎晩うなされてるって話だよね?」

「ふざけるな! 俺は、そんなのを信じないぞ!」

 あくまで否定する怜次。

「実際にその時の映像見せた方が早いと思うよ」

 良美の言葉に怜次が怒鳴る。

「あるんだったら見せてもらおうか!」



 一時間後、バトルの組織から八刃が押収したバトルの記録映像から当時の戦闘映像を見て、気絶した一美を連れて小較が出て行く。

「これで、死んでないのか?」

 健一の言葉に剣造が言う。

「殺さないようにやっているのだろう。しかし、あれ程の苦痛だ、一生その後遺症に悩まされ続けるだろうな」

「兄貴……」

 怜次は、兄が人として終わった所を見て、言葉を無くしていた。

「まだ小学生で分別が無かって言うのは、言い訳でしかありません。間違いなく過剰な攻撃でした。貴方や貴方のお兄さんには、申し訳ないことをしたと思っています。すいません」

 頭を下げる較を糾弾する怜次。

「この化け物が! 兄貴を元に戻しやがれ!」

 反論しない較に殴り掛かろうとする怜次。

「止めるのだ。少なくとも、お前の兄は、拳銃を使った、殺されても文句は、言えまい」

 剣造が淡々と告げる。

「それも、勝負に割って入った。俺も、こんな目にあっても仕方ないと思うがな」

 健一も続く。

「そんな理屈で納得できる訳、無いでしょうが!」

 怜次の言葉に強く頷く良美。

「そうだよね。それで、どうするの? 復讐出来る相手かどうかくらい、今見たので判ると思うけど」

「絶対にお前に俺と同じ苦しみを味合わせてやる!」

 怜次が立ち上がるとそのまま、去っていく。

「何か厄介なことになったね」

 良美が他人事みたいに言う中、戻ってきた小較が言う。

「良美が余計な事に口を挟むからこうなったんだよ」

 それに対して較が首を横に振る、

「違うよ、これは、あちきの馬鹿な行為のつけだよ」

 剣造が頷く。

「それが解っているなら良い。しかし、罪の意識に囚われては、いけないぞ。どんなに罪を犯そうと人は、幸せになる権利があるのだからな」

 年齢を感じさせる思い言葉に較が笑顔で返事をする。

「はい。ありがとうございます」



 怜次は、居酒屋で自棄酒を飲んでいた。

「あんな化け物に勝てるわけない!」

 ビールを呷る。

 そんな時、一人の中肉中背で、居酒屋によくいる中年オヤジが近づいてきて言う。

「直接戦う必要は、ありませんよ」

「何だって?」

 怜次が聞き返すと中年オヤジが言う。

「未熟な妹が居ます。あれだったら方法しだいでは、貴方でも勝てます」

「小学生を襲えと言うのか!」

 怜次の睨むと中年オヤジは、苦笑する。

「貴方のお兄さんをあんな目にあわせたのも小学生だった筈ですよ」

 怒りがぶり返す怜次。

 中年オヤジは、一つの鍵を渡す。

「これは、駅前のコインロッカーの鍵です。その中に、貴方にふさわしい武器がありますよ」

 そのまま立ち去る中年オヤジ。

 怜次は、躊躇したが、その鍵を手に、駅に向かった。

 そして、縦にながいコインロッカーには、ゴルフバックに入った日本刀が納められていた。

「これで、奴の妹を……」



 数日後、小学校からの帰り道の小較の前に怜次が現れた。

「お兄さん、何の用? まさかと思うけどあたしを襲いに来たの?」

「そうだと言ったらどうする」

 荒んだ顔をした怜次の言葉に、鋭い目になった小較が言う。

「相手してあげるよ。ヤヤお姉ちゃん程じゃないけど、あたしだって強いんだから」

 怜次が常人とは、思えない踏み込みで抜いた刀を振り下ろす。

 紙一重でかわす小較。

「この前までと全然違う……」

 戸惑う小較に対して、怜次が告げる。

「この刀は、俺の魂を喰らう代わりに力を与えてくれる」

 小較は、真剣な顔になって腕を振る。

『ガルーダ』

 強風が怜次に襲い掛かる。

「無駄だ!」

 怜次の一振りがそれを断ち消した。

 しかし、その間に間合いを詰めた小較が回転蹴りを放つ。

『サークルトール』

 電撃が篭った踵が怜次に迫るが、怜次は、その直撃を受けながらも刀を振り下ろした。



「これが、落ちてたって」

 慌てた顔をしてやってくる一美の手に握られた切り裂かれた小較の上着とそこに血で書かれた住所 を見て較が拳を握り締める。

「剣造おじさんに言われていたのに、あちきが馬鹿だった!」

「そうだな、自分が襲われても平気だと、あの男を警戒対象から外してたんだろ?」

 良美の言葉に較が頷く。

「それが、小較にふりかかるなんて……」

 悔しそうにする較を一美が抱きしめる。

「一人で苦しまないで。山中さんの事は、あたし達にも責任は、あるわ。今は、小較さんを助けましょ。まずは、警察にいかないと」

 較が首を横に振る。

「あちきが行きます」

「どんな罠があるか解らないわよ!」

 一美の言葉に良美が胸を叩いて言う。

「あたしもついていくから安心して。あたし達は、こういうのってかなりなれてるから」

 それを聞いて、較が眉をよせる。

「慣れたくなんて無かったけどね」

「それじゃあ、あたしも行くわ」

 一美の言葉に較が慌てる。

「危険です!」

 一美が真剣な顔で言う。

「さっきも言ったでしょう、今回の事は、あたし達も関係してるわ。まだ子供の貴方達だけに任せて大人のあたしが待ってるわけには、いかないわ」

 困った顔をする較に良美が言う。

「諦めろ。ヤヤが頑張って護ればいいだけだよ」

 大きくため息を吐く較であった。



 小較の服に書かれた住所に行くとそこは、較と怜次の兄が戦ったあの廃ビルだった。

「待っていたぞ」

 廃材に座っていた怜次が立ち上がる。

「ごめんね」

 後ろに居た小較が頭を下げる。

「無事で良かった」

 安堵の息を吐く一美。

「何で、逃げないんだ?」

 良美の指摘に小較が悔しそうな顔をした。

「斬られてもおかしくなかったのに、寸止めされた。だから、誘き出す餌になったの」

 良美が肩をすくめる。

「相変わらず、情けないな。まあ、負けたんだったら餌になってもしかたないな」

「どうしても、やるんですか? その刀は、物凄く性質が悪い妖刀。このまま使えば命に関わりますよ」

 較の言葉に怜次が刀を抜いて言う。

「上等だ。お前を倒せるのならな!」

 斬り掛かって来る怜次に較は、動かない。

『アテナ』

 振り下ろされた妖刀が較に当たり折れた。

「どうしてだ! 命を懸けても傷一つ付けられないのか!」

 怜次の言葉に較が冷たく言い放つ。

「これが実力差って奴です」

 その場に崩れる怜次に一美が近づき言う。

「復讐は、何も生みません。しかし、それでも諦め切れないのだったら強くなりましょう。そのお手伝いならします」

「俺は、強くなる。そしていつかきっと……」

 泣き崩れる怜次を優しく抱きしめる一美だった。



 問題の廃ビルから少し離れた所に駐車していた車の中であの中年オヤジが車のドアに怒りをぶつける。

「馬鹿が! フィニッシュオブホワイトハンドに通じる訳がなかろうが! こっちの言うとおり妹をターゲットにしていれば良い物を!」

「そうしたら、お父さんが出てきて、タダですまなかったよ」

 較の声に中年オヤジが脂汗を垂らす。

「どうして、お前がここに?」

 較が笑顔で告げる。

「カメラ越しでも視線は、感じるものなんだよ。バトル組織の残党さん」

「急いで逃げろ!」

 中年オヤジの叫び声に、急発進する車。

 ゆっくり歩いてきた良美が言う。

「逃がして良かったのか?」

 較が肩をすくめる。

「バトル組織の残党だよ、八刃が動いていないわけ無いでしょ。おいしい所は、貰うけどね」

「権力の横暴だな」

 良美の言葉に較があっさり頷く。

「色々苦労してますから」



 アジトの撤退準備をする中年オヤジを含むバトル組織の残党。

 そんな中、影がどんどん立ち上がってくる。

「ここまでだ。お前達の残した情報も貰うぞ」

 捕獲班の班長を任された谷走鏡が宣言する。

「尾行は、無かった筈……」

 困惑する中年オヤジに鏡が淡々と告げる。

「八刃の盟主、白風の娘に手を出して、八刃が大人しくしていると思っていたのか? 事件発覚直後から、周囲は、完全に監視状態にあったのだ。お前らがオーフェンに関わりがあったバトル組織の残党と解った以上、八刃は、決して容赦は、しないぞ」

 次々に悲鳴が上がり、強引に拘束されていく中、中年オヤジが仲間を見捨てて逃走にかかる。

「放置して本当によろしいのですか?」

 部下の言葉に鏡が肩をすくめる。

「白風の次期長に逆らえると思うのか?」

 首を横に振る部下達は、残りの残党と資料回収に移るのであった。



 着の身着のままで必死に逃亡する中年オヤジ。

 変装用のかつらがずれ、体型を誤魔化す為の偽装外した為にぶかぶか服は、みっともなく、とても見られたものでは、無かった。

 周囲の冷たい視線もその男には、もう関係なかった。

 人気が無い川辺に逃げ込んだあと、男が憤る。

「どうしてだ! あの馬鹿な男を利用して、ノーリスクであの化け物に仕返しが出来る筈だったのに!」

「それが間違いだったんだよ。何かをしようとした時にノーリスクなんて無理なんだから」

 較の答えに、男がふりかえるとそこに較が居た。

「どうやって追ってきたんだ?」

 苦笑する較。

「逆だよ、ここまで誘導したの。人気が無い方無い方って移動してきて、ここに来たでしょ?」

 震えだす男。

「私は、何もしてない! 実行したのは、あの男だ!」

 較が静に告げた。

「だから余計に許せない。自分の欲望に人を利用した挙句、あちきの家族に手をだした。絶対に許さない!」

 較の右手から白い光が漏れ出す。

「許してくれ! 何でもするから許してくれ!」

 泣き叫び、許しを請う男。

 しかし、較は、ゆっくりと近づいてくる。

 腰を抜かし、這いずる様に後退する男。

「許すわけないでしょうが」

 較が冷たい視線を向けた。

「そこまで、そいつをやっても何にもならないしょうが。本当に学習しないね」

 走ってきた良美の言葉に動きを止めた較が男を暫く見ていたが、諦めた様に手を下ろし、白い光が消えた。

「運が無かったね。ここであちきに殺されていた方が幸せだったのにね」

 較は、そう棄て台詞を残し、良美と一緒に去っていく。

「助かった……」

 安堵の息を吐く男に、ゆっくりと歩いてきた青年、谷走栄蔵エイゾウが告げる。

「残念だが、白風の次期長の言うとおりだ。貴様には、生き地獄を味わい続けてもらう」

 その後、バトル組織の残党達が日の目を見ることは、無かった。



 怜次は、あの後も黒林道場に通い続けていた。

「復讐を諦められないのか?」

 健一の言葉に怜次が頷く。

「はい。いつか、奴より強くなって、自分の力で勝つつもりです」

 それを聞いて剣造が頷く。

「その心意気良し。単なる復讐でなく自分を高めるためならいくらでも力を貸そう」

 そんなやり取りを横で聞きながら、較が一つの報告書を読んでいた。

「何、難しそうな顔をしているんだ?」

 良美が問いかけると較が言う。

「バトル組織の残党なんだけど、奴らが生き残った裏には、オーフェンの元幹部が関わっていたらしいんだよ」

 頬をかく良美。

「元幹部って何か中途半端な奴だな」

 較が頷く。

「なんと、オーフェンを抜けて、正義と愛の為に人々を助けてる。あの人達も八刃の追撃からその人が助けたみたい」

「もしかして良い人?」

 良美が意外そうな顔をすると較が肩をすくめる。

「そうみたい、ただしかなり迷惑な奴みたい」

「ヤヤとどっちが?」

 良美の質問に較が眉をひそめる。

「それじゃあ、あちきが回りに迷惑な人間みたいに聞こえるけど」

 良美が笑顔で答える。

「そんなヤヤが迷惑な人間なわけないじゃん」

 較が頷く中、良美が言う。

「大迷惑な人間だよ」

 暫くの沈黙の後、較が言う。

「敢えて否定しないけど、あちきは、こいつを追う事にするよ」

「それってオーフェンハンターの仕事じゃないの?」

 良美の言葉に較が報告書を見せる。

「見事に失敗している。上の連中が動かないとどうにか出来る相手じゃない。だけど、上の連中は、もっと危険度が高い奴らとの戦いで空きが無いからね」

 良美が報告書に添付された人のよさそうな青年を見る。

「百目のイートコねえ」

 較達は、元オーフェン幹部を追って旅に出る事になるのであった。

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