ヘアルって元ネタなんでしょ?
あっさり終わります
「そう言うわけで、八百刃獣の降臨の儀式を行います」
較の宣言に良美がドーナッツをかじりながら聞き返す。
「どんな訳?」
小較が呆れた顔をする。
「あのね、流石に御火得相手じゃ勝ち目が薄いから、八百刃獣の力を借りようって話になってたでしょ!」
眉を寄せる良美。
「何か虎の威を借る狐みたいで嫌だな」
較が淡々と準備を進める。
「好き嫌いを言っていられる程、余裕も無いんだよ」
複雑な魔方陣を描き終え、何故か周りにロリータ写真集を配置する較を見て、良美が頬をかく。
「それって、なんの冗談?」
較がパンツを脱いで中央に置きながらため息混じりに告げた。
「本気で相手を選んでいられないから、一番、餌に引っ掛かり易い八百刃獣にしたの」
「引っ掛かり易い八百刃獣?」
良美が首を傾げる中、儀式が始まる。
『偉大なりし戦いの神、聖獣戦神八百刃に仕え、刃とならん獣よ、力弱き我等の訴えを聞きたまえ!』
魔方陣が光り、その中央、較の下着がある場所からイルカが降臨する。
『ロリータの下着ゲットだぜ!』
良美と小較が冷たい視線を送る中、較が作り笑顔で告げる。
「お久しぶりでございます、船翼海豚様。珊瑚の魔王の際は、助かりました」
鼻先に下着を載せたまま船翼海豚が偉そうに言う。
『我々も仕事でしたこと、気にしなくてもよい。それより何の用なのだ?』
「赤酒杯様の高位使徒、御火得様についてです」
較が前回の話をすると船翼海豚が呆れた顔をする。
『又か、御火得殿も懲りる事を知らないな。八百刃様に報告をするが直ぐには、動けない』
較がやっぱりって顔をするが良美が納得行かない顔をする。
「どうしてよ?」
較が小声で答える。
「赤酒杯様は、管理系の神だからね、管轄が違うから直接命令したり出来ないの」
「まるで霞ヶ関みたい」
小較の言葉に船翼海豚は、苦笑する。
『人に限らず、意志が有るものが集まれば、同じ様な物が出来るものだよ』
較は、この展開を予想し、次手を用意していた。
「船翼海豚様、出来ましたら、この件を世間話レベルで構いませんから赤酒杯様の使徒に流して貰いませんか?」
船翼海豚は、較の企みに気付き言う。
『出来なくは、ない。総合的に見て良いだろうが、私の利益がないな』
何が言いたいのか判る較が、渋い顔をするのを見て、船翼海豚が言う。
『多くは、求まん。そこの娘を我の背中に跨がらせるだけで良い。いやらしい事は、しないぞ!』
涎を垂らしそうな顔を見ては、信用度が皆無だった。
小較が覚悟を決める。
「ヤヤお姉ちゃん、あたしだったら平気だよ」
すると良美が庇う様に立ち言う。
「無理するな。妹を犠牲にする手段をヤヤが選ぶわけないだろう」
較が頷く。
『ならば先ほどの件は、無かった事にするが良いな?』
未練がましく確認して来る船翼海豚に較が右手を見せる。
「話は、変わるんですが、あちき右手って白牙様と繋がっているんです。だから、時々こっちの会話が白牙様や八百刃に伝わる事が有るんですよね」
『その話は、聞いた事があるがそれがどうした?』
船翼海豚が聞き返すと、較が視線をそらす。
「ですから、もしかしたら今回の事を話題にしている時に繋がっている可能性も……」
船翼海豚の体に冷や汗が浮き出す。
良美が頷く。
「今回の事が長引いたら間違いなく話すな」
船翼海豚があさっての方向を向く。
『まあ、八百刃様に報告する前に、赤酒杯様の使徒に軽く裏をとらないとな』
船翼海豚が去っていき、完全に消えたのを確認してから較が半眼になる。
「ロリコンイルカなんて、鳥肌たつ奴を釣ったのは、こうやって脅迫する為だよ」
「はいはい、落ち着こうね」
苛立つ較を宥める良美であった。
「どのくらいでリアクションがあるかなあ?」
小較の疑問に儀式の影響を周囲に及ばさない様に後処理していた較が答える。
「御火得様の件は、以前にも大問題になりかけたから、比較的早く反応があるはずだよ」
『その通りだ。御火得件は、八百刃様が本格的に動く前に内々に処理しなければいけない』
突如現れた存在に較が顔をひきつらせ、小較が声も出ない程に驚くなか、良美が平然と質問する。
「あんた、御火得にそっくりだけど親戚?」
『私は、御火得の姉、生死の管理者、流死得』
そんな説明の中、小較が小声で聞く。
「どうして驚かないの?」
「どうしてって、よくある事じゃん」
良美の答えに眉を寄せる小較に較が囁く。
「あちき達みたいに普段から周囲を警戒してないから今の凄さに気付かないだけだよ」
そんな内輪話など気にせず流死得が告げる。
『御火得の確保に協力を要請する』
「随分と上から目線だな」
少し不機嫌そうな顔をする良美を隠し較が頭を下げる。
「了解しました。それで、実際の捕縛にはどなたが当たられるのでしょうか?」
『最終的には、私だが、最初から居れば御火得も警戒し出てこないだろう。そこで配下の者をつける』
流死得がそう答えると、一人の今時ファッションの少女が現れる。
「流死得様の配下、ヘアルと言います」
「ヘアル様、ヘアル様の名前に言霊が感じられないのですが?」
較の問いにヘアルが答える。
「言霊を込めて呼ばれると御火得様に気付かれる恐れがあるから。だから敬語も要らないよ」
『頼んだぞ』
流死得の言葉に、外見に似合わない真摯な態度をとるヘアル。
「一命をかけ、任務を全うして見せます」
消えていく流死得。
「それで御火得様の居そうな場所に心当りは?」
ヘアルの質問に較が資料を見せる。
「前回の件を基準に調査した所、いくつか怪しい所が出てきました」
ヘアルが資料をチェックする。
「ここが一番怪しい、ここから当たりましょ」
動き出す較達。
ミサが行われる教会に潜入した較達。
開始まで時間があったので話をするなか良美が言う。
「ヘアルは、今の体制をどう思うの?」
ヘアルは、気楽に答える。
「あたしみたいなシタッパには、あまり関係ない話だね。まあ、上の方、流死得様みたい抗戦経験がある御方は、逆らおうとは、思わないみたい」
「もしかして御火得様って抗戦経験無いんですか?」
小較が質問するとヘアルが頷く。
「御火得様は、赤酒杯様のお気に入りだから余り危険な任務には、ついてなかったのよ。あたしらなんかは、八百刃様の下位の使徒相手に手も足も出なかったから、八百刃様なんて、想像も出来ない」
「ヤオってかなりフレンドリーだぞ」
良美の言葉にヘアルが首を傾げる。
「今の話の流れで、どうして、そのヤオって名前が出てくるのかな?」
較が頬を掻く。
「ヤオって言うのは、八百刃様の愛称です」
長い沈黙の後、ヘアルが顔をひきつらせ言う。
「何で八百刃様を愛称で呼んでいるの?」
「友達だから」
あっさりとした良美の答えにヘアルが混乱する。
「あちきの右手の事で暫く分身が視に来ていた事が有るんです」
較のフォローにも納得出来ないヘアル。
「おかしいでしょ? 八百刃様は、六極神の一柱よ!」
「それがヨシなんです……」
諦めきった顔の較に疑る様子のヘアル。
「疑ってるな、友達の証拠写真を見よ!」
良美の突き出した写真を見て、硬直するヘアル。
「しまわないと動けないよ」
較の指摘に良美が写真をしまうと、ヘアルが脂汗を滴ながら動き出す。
「貴女何者ですか?」
「あたしは、あたし。大門良美だよ」
良美の答えにヘアルがため息を吐く。
「何か解らないけどこれ以上突っ込まない方が良さそうね」
較が頷く。
そうしている間にミサが始まる。
説法を聞き、ヘアルが囁く。
「完全に御火得様の影響がある。すまないけど前回みたいに騒ぎを起こしてくれる」
「でもこっちの面が割れてるから難しいんじゃ?」
小較の指摘に較が答える。
「ちゃんとサクラを用意してあります」
較が合図を送る。
「偽物だろ! 責任者を出しやがれ!」
「そうだそうだ!」
騒ぎが大きくなる中、御火得が現れる。
『神の言葉に信じられぬ愚か者に天の裁きを与えん』
炎が巻き上がる中、ヘアルが立ち上がる。
「御火得様、この様な事は、お止め下さい」
ヘアルを見て御火得が目尻を吊り上げる。
『貴様は、辺鴉流! 流死得の臆病者がまた邪魔をするつもりなのか!』
ヘアルは、カラスの羽を生やし、その羽根は、御火得の炎を無価値な物に落としていく。
「ヤヤお姉ちゃん、もしかして?」
小較の言葉に較が頬を掻く。
「多分、魔王べリアルの真の姿だろうね。流死得様は、大魔王ルシファーの真の姿と言われてたから、名前から想像してたけどビンゴだね」
両者の力は、均衡していたようにも見えたが、御火得がその翼を全開に広げる。
『もう、我慢できない! お前も、流死得も、愚かな人類も滅ぼす!』
辺鴉流が顔をひきつらせる。
「ヤバイ、御火得様がキレた。こうなったらあたしの力では、受け止められない!」
緊迫した空気の中、良美が卵型の物を投げつけた。
それは、御火得の万物を焼き尽くす炎をあっさり突き抜け御火得の後頭部に直撃し、ノックアウトした。
辺鴉流が話の流れを完全に無視した一撃に戸惑う。
「状況が解らないんだけど、どうやったら御火得様の炎を突破出来たの?」
良美が、卵型のそれを回収して見せる。
「ヤオに貰った神器だからじゃない?」
辺鴉流が言葉を無くす。
『判ったな、八百刃様が作った神器にすら、抗えない。これが現実だ』
引き取りに来た流死得の言葉に何も言い返せず、連れ帰られる御火得。
「まあ、感謝してる……」
歯切れの悪い辺鴉流。
「気にしないで下さい。あちき達も自分の為にやったんですから」
較の社交辞令に辺鴉流が呟く。
「絶対にこの子達は、トラブルの種だ」
「八百刃様に予言されてますから諦めてます」
較の悟りきった顔でため息を吐き、消えていく辺鴉流であった。