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第2話

 嫁さんとイチャイチャしつつたっぷりと英気を養い、万全の体調でソロ村を出発してから、早3日。

 時刻はそろそろお昼時といった頃だろうか。順当に進んでいれば、そろそろ目的の皇国領カルセイデが見えてくるハズ。

 窮屈な馬車での移動生活から解放されると思うと、手綱を握る手も緩んでくる。


「~♪ ~♪」

「耳にタコができるくらい聞いた曲だけど、相変わらず不思議な旋律」


 元の世界でのお気に入りであった洋楽の曲を歌う俺に対し、セフィーアは隣で錬金術に関する本を読みながら、さして興味もなさそうに呟いた。


「えへへ、俺も未だに何言ってるのかわかんない」


 だってカラオケで歌えるように歌詞を覚えただけで、英語ができるワケじゃないもの。……このやり取りも耳タコだ。


「……ご機嫌ね」

「クククッ……マイマスターの故郷は、国によって独自の言語が確立されている世界だったね。実に興味深い」


 二代目がフラスコの中で恰好つけているが、華麗にスルー。興味深いなんて言われても、もう二度と戻ることは叶わないのだ。知識欲を満たしたい気持ちはわからないでもないけど、諦めてもらうしかない。


「あと少しでカルセイデに着くんだよ? ご機嫌にもなろうってもんさ」


 カルセイデに辿り着けば、そこを拠点にしばらくはエーデルロアの採取に勤しむことになる。お金は掛るものの、気の休まらない野宿や質素な食事からは解放されるワケで、そこは素直に嬉しい。


「カルセイデについたら、まずは宿とって昼寝だな! もう眠くて敵わん!」


 昨夜から寝ずの番で見張りをしていたのだ。幼児特有の体質云々の話ではなく、普通に眠い。


「お昼ご飯は食べないの?」

「起きたら食べる」

「あっそ」


 短い会話のあと、セフィーアは再び本に視線を戻す。

 嫁さんは「見張りなど知ったことではない」と言わんばかりにしっかり寝ていたし、夜までは気ままに行動するつもりらしい。

 彼女の事だ、どうせ空いているアトリエを借り受けて、ご無沙汰だった調合を心行くまで楽しむ腹積もりに違いない。

 厄介な事にならなければいいけど、まぁ仮に何か問題があっても、二代目がきっちり務めを果たしてくれるだろう。あぁ、何て頼もしい小人(げぼく)なんだ。


「クククッ……どうして僕の顔を見て微笑むんだい?」

「いやいや、気にするな。お前という存在の愛おしさに心を突き動かされただけさ」

「……あまり気持ちの悪いコトを言わないでもらえるか。身の毛がよだつ」

「失敬な! せっかくホムンクルスの大切さを理解し、内心で感謝してやっていたというのに!」

「そうか。どうして今感謝されているのか理由はわからないが、それが本音なら光栄の極みだよ。親愛なるマイマスター」


 あくまでも皮肉と受け取っているのか、二代目は肩を竦めるだけで大した反応は示さない。ちぇっ、ノリの悪い奴だなぁ。


「……むぅ~!」

「どした?」


 突然横から唸り声が聞こえたと思いきや、我が愛する嫁さんが頬を膨らませてこちらを睨んでいた。

 怒られるような事をした覚えはないので、つい首を傾げてしまう。


「むぅぅ~~!」


 さらに語気を強めて唸るセフィーアは、読んでいた本を貨物室へ放り投げると、不機嫌の理由をわかってもらえなかった不満を態度で表わすように抱きついてきた。そのまま、小さな頭をぐりぐりと胸へ押しつけてくる。「撫でろ」と言いたいらしい。


「はいはい、よしよし」


 彼女は言葉ではなく、行動で要求してくる。

 対応を誤ると、しばらくの間機嫌を損ねてしまい、手に負えなくなってしまう。というワケで、素直に頭を撫でてやった。


「……ん」


 気持ち良さそうに目を瞑るセフィーアを眺めながら、思わず出てきた苦笑を引っ込めた。

 大方、俺がホムンクルスを褒めたから、それを作ったのは自分だと訴えにきたのだろう。そんなことしなくても、ちゃんとわかってるのにねぇ。この歳になっても堂々と嫉妬をアピールするとは、どこまでも愛くるしい妻である。


「――っと、ようやくカルセイデが見えてきた!」


 視界の先に薄らと建物の輪郭が浮かび上がってきた。常に魔物の脅威に曝され続けてきたカルセイデ特有の堅牢な街壁は、対攻城戦用の大規模戦術魔法の直撃にすら数発は耐える頑丈な代物だ。その威圧感は、まるで戦場における大要塞を彷彿とさせる。

 

 約20年振りに訪れるカルセイデの懐かしい景観に、思わず頬が緩むのを感じる。

 距離は凡そ馬車で1時間といったところだろうか。早く足を踏み入れたいものだ。


「私には見えないけど。でも、ソーイチがそう言うなら、間違いないんでしょうね」


 俺の視力が常人と比べてずば抜けて高いことを知っているセフィーアは、いつの間にか俺の膝を枕に御者席に寝転がっていた。もう完全に甘えモードに入っている。


「カルセイデには久々に訪れるってのに、フィーアさんはホントに己のペースを崩しませんなぁ」

「騒いだところで、何か変わるワケでもないでしょ。無駄な体力の浪費は嫌いなの」


 嫁さんの蒼穹のように鮮やかな髪を弄びながら、カルセイデへ初めて訪れた頃の遠き過去に思いを馳せた。


「あの頃は目に映る物全てが新鮮だったなぁ。若き日の思ひ出ろぽろぽ」

「その老いたおっさんみたいな言動はやめて」

「だって40代だもん! 言い訳のしようがないくらい中年だもん!」

「事実だけど、幼児の見た目で言っても説得力ない」


 確かに。


 グゥの音も出なかったので、腹いせにセフィーアの耳に息を吹きかけてやった。


「ひゃうっ!?」


 膝の上で悶える嫁さんは可愛かった。


 ◆◆◆


『おい坊主共! 早く逃げろ! カルセイデはもうお終いだ!!』


 カルセイデの街門に着いた途端に、知らないおっちゃんから怒鳴られた。それが皮切りってワケでもないんだろうけど、おっちゃんの言葉に続くように街から続々と馬車や人が溢れてくる。

 

 他人を押し退けて我先にと脱出を試みる人々の醜い顔といったら……まるで汚物の濁流のようで気持ち悪い。


 まぁ原因はわかっている。魔物の群れの襲撃だ。街の中で蠢く無数の魔物の気配と、其処彼処からもうもうと天に上がっていく黒煙を見れば一目瞭然だろう。


 でも、解せない。


「んー? カルセイデにとっちゃ、こんなの日常茶飯事でしょ? 第二空挺騎士師団は? 冒険者ギルドの連中は?」


 第二空挺騎士師団とは、世界で唯一クレスティア皇国陸軍のみが所有する翔機船を移動手段に持つ、選りすぐりの精鋭騎士団のことだ。大空から敵地を強襲制圧するタフネスな連中である。

 ちなみに、元の世界の空挺部隊のようにパラシュートを装備して降下とか生温いことはしない。ていうか、この世界にはまだパラシュートなんてないから当然だけど。命の保証が無いノーロープバンジーを敢行し、着陸の際は風系列の魔法でなんとかするという猛者達だ。

 彼らはこのカルセイデを駐屯地として、魔物の襲撃から――より正確にいえば、山脈を挟んだアークレイム帝国軍を牽制する役割を担っている。


 それに加えて、ちゃんと魔物の撃退目的で、大規模な冒険者ギルドも設置されていたハズ。


 そんな彼らが、この事態を黙って見過ごすなんてことはないと思うけど。


『連中は未だに魔物と戦ってるよ! だが、ヤツらの数が今までとは桁違いなんだ! 名付きの竜だって飛んでやがる!! もうこの街はもたねぇ! ちくしょう、なんでこんなことに……! 坊主達も早いとこ逃げろ!! いいな!?』


 幼児がどうしてそんな事情を知っているのか、疑問に思う余裕すらないらしい。おっちゃんはペラペラと捲くし立てると、一目散に駆けていった。


 ……手荷物すら持たないで、彼らはいったいどこに逃げるつもりなのか。一番近いソロ村だって、ここから馬車で丸三日はかかるっていうのに。途中に休憩場はないし、雑魚とはいえ、一般人には十分手強い魔物だって生息してる。脱出している人々が結託して村を目指すならともかく、バラバラに逃げてる現状、彼らが無事に生きていける確立は絶望的だ。


「名付きの竜、か。……面倒だけど、お相手致しましょうかね」


 ここまで来て引き返すのも癪だし、何より美味しい食事とふかふかのベッドが俺達を待っている。尻尾を巻いての撤退は許されない。


「行くの?」

「うん。魔物を統率してるのは、間違いなく竜だ。そいつを殺すなり追い出すなりすれば、魔物達も山に帰るハズだし、ちょっと行って暴れてくる」

「わかった。じゃあ私も準備して合流するから。気を付けてね」


 俺の無事を祈り、ほっぺにチューしてくれる嫁さん。


「あいよ」


 俺は『いってきます』の代わりに嫁さんの柔らかなほっぺにチューを返し、手渡された【特製筋力増強剤(ムキナール)】を一気に飲み干す。

 ドーピングは好きになれないケド、こうでもしないと幼児の身で剣は持てないから辛いところだ。

 配合された成分による身体能力向上と若干の精神的高揚を確認し、俺は日本刀にとてもよく似た自作の愛刀を手に取って、馬車を降りた。


「よっと! 身長より武器の方が大きいと、やっぱ動きづらいな」


 俺の愛刀は刀身が二尺八寸もあり、通常の打刀と比べてかなり長い。それに幼児体型も加わり、さながら斬馬刀を携えている気分になる。抜刀するのも一苦労なので、最近では鞘に納めず、刀身に嫁さん特製の布を巻くだけに留めて、いざというときに備えている。本当は刀に対して冒涜的な事はしたくないんだけど、背に腹は代えられない。


 ちなみにこの刀は見た目だけの紛い物というワケでもなく、日本刀の製法とほぼ同一の手順を踏んでいる為、ぶっちゃけまんま日本刀と呼べる代物であったりする。

 刀の製法なんてにわか知識でしか知らなかった俺がどうしてこんな物を作れるのかというと、それは単純明快、その道では有名な鍛冶師である師匠に教わったから。なんでも、刀は師匠の家系に代々伝わる武器らしく、これを打てるようになって初めて一人前と認められるんだとか。

 当然、その人に弟子入りしていた俺も、刀を自作できるように厳しく扱かれましたとさ。

 といっても、師匠が言う刀は西洋剣の柄に反った刃がくっ付きましたって感じのよくわからないデザインなんだけどね。鞘も西洋風なデザインだし。そこらへんは築いてきた文化の違いとかが関係してるんだと思う。


 閑話休題。


「二代目、フィーアのお守は任せたぞ」

「クククッ……任された。我が魂と誇りに懸けて、不潔な塵共はマイロードに指一本触れさせないことを誓おう」


 禍々しい狂気――を演出しようと必死になっている二代目。まぁあんな調子でも仕事はしっかりとこなしてくれるので、心配はしていない。邪気眼相応、結構強いしね。


「んじゃ、また後で」


 一言だけ言い残し、駆ける。


 幼児になったせいで思うように身体が動かなくなったとはいえ、これまで積み重ねてきた経験はしっかり感覚として脳に刻み込まれている。

 それを出来る限り肉体にフィードバックしてやれば、得意だった縮地法もなんとかやれないことはない。

 あ、縮地法ってのは、所謂ファンタジーでいう瞬間移動術のこと。相手からすれば、『敵が一瞬のうちに消えて、気付いたら懐に入り込まれていた。何を言ってるかわからねーと思うがかっこあーるわい』的なノリ。


 まぁそれは置いておくとして、門衛がいなくなった街門を抜けて、街中に入る。そこで飛び込んできた光景は、なかなかに凄惨なもので。


「結構、被害が大きいなぁ」


 軍と冒険者の精鋭を集めていただけに、魔物の死骸が山のように積み上げられているものの、人間側の被害も馬鹿にならないようだ。

 俺達がもう少し早く到着していれば、犠牲者も抑えられたのだけど……時既に遅し、か。


「だからって、後ろ向きになっていい理由にはならないケド」


 強烈な殺気を背後から感じ、身体一つ分だけ横にずれる。

 その瞬間、今まで身体があった場所を一匹の魔物が通り過ぎた。

 擦れ違い様にガチン!と凶悪に鳴らされた牙からして、『オレサマ オマエ マルカジリ』の尊い精神が窺える。

 死角から急所を狙った奇襲、野生の動物らしい行動だ。


「レイジクリーチか」


 爪で地面を削りながら、こちらを威圧するようにゆっくりと振り返る魔物の名前はレイジクリ-チ。四足歩行の獣型の魔物で、約4mもの体躯を誇る獰猛な種族だ。

 黒光りする硬質な表皮や白く濁った5つの眼孔、今にも千切れそうな口元の皮が怖気を誘う。

 冒険者ギルドの間で、単独での討伐許可ランクがレッド以上と定められている、なかなかに厄介な魔物である。4人以上6人未満のチームで討伐するなら、平均ランクグリーン以上推奨。


「お口の中が綺麗にならないうちに、もう次に手を出そうとか、とんだ食いしん坊さんだ」


 奴の口の中にまだ食べ残しがあるらしい。もっちゃもっちゃと汚く咀嚼する度に、口元の千切れそうな皮の隙間から、哀れな犠牲者の鮮血が滴り落ちている。

 魔物の群れは街の中心部へ集結していると読んでいたのだが、まだ残飯漁りに勤しんでいる輩も残っているらしい。


「こんなちっちゃいお子様もお構いなしにパックンチョするつもりですかそうですか。なら死ね」


 と言いつつ、あちらさんに食欲がなくても死んでもらう事に変わりはないはないんだけどね。


『――ガオオオオオッ!!』


 もうお腹ペコペコ我慢ならんらしいレイジクルーチが涎を撒き散らして飛び掛かってくる。凄い速さだ。下位ランクの冒険者やそこらの雑兵では、視界に捉えることもできないに違いない。


 俺は愛刀に巻いてある布を一息に解き、最小限の動きでレイジクルーチの突進をかわすと、刀を逆手に持ち替えて無造作に突き出した。

 嫁さんオリジナルの特殊複合金属による黒い刀身が、獲物の肉体に抵抗なく吸い込まれていく。

 自身の勢いだけで豆腐のように両断されたレイジクルーチは華麗に着地すると、数歩分よろめいてから地面に倒れ伏した。遅れて、亡骸から毒々しい色の血が盛大に噴出する。


「またつまらぬものを斬ってしまった……なんちゃって」


 刀身保護用の薄紫色の布をマフラー代わりに首へ巻き巻きしつつ、てへぺろ!


『――うっうわああああ!!?』


 なんだよ! 俺のてへぺろはそんなにキモイってか!?

 ……と、ふざけてる場合じゃないな。結構、洒落になってない悲鳴だったし。

 愛刀を脇に構えつつ、叫び声の主の元へ走る。


「ちちち近寄るんじゃねぇ!! 薄汚い魔物風情が!!」


 声が震えているものの、なんとか虚勢を張っている男の子――見た目からして16~7歳くらいの赤髪の少年は、海を泳ぐ魚のように空中を舞う複数匹の魔物に対し、ぶんぶんと我武者羅に剣を振っていた。結構良い剣持ってるのに、あれじゃ宝の持ち腐れだなぁ。勿体無い。


 空を飛ぶ魔物の名前は、ピュルケー。人と鳥がくっ付いたような女性体型の姿をしている。まんまハルピュイアのような怪物といえば分かり易いかな。

 単独での討伐許可ランクはイエロー。一匹の強さは下の中といった雑魚だけど、御覧の通り、必ず複数匹の仲間とつるんでいるので、少し鬱陶しい魔物だ。

 強大な力を持つ竜種に群れで纏わりついていることが多く、"凶兆の先触れ"とも呼ばれている。


「くそっ! 飛んでばかりいないで降りてこいよ!!」


 一向に降りて来ようとしないピュルケーに吠える少年。

 むぅ……装備からして冒険者っぽいけど……体捌きといい、剣筋といい、素人に毛が生えたか生えないか程度の腕前しかないらしい。あんな腕では、奴等の間合いに入った途端に、忽ち喰い殺されてしまうだろう。


『ケーッ!! ケケケーッ!!』


 宙を飛び回りながら少年を翻弄するピュルケーも獲物の非力さを理解しているのか、せせら笑うように少しずつ包囲網を狭めていた。存分に怯えさせてから、遠慮なく臓腑を食い散らかす腹積もりのようだ。趣味の悪い奴らだなぁ。


「さっさと助けて、次行かないと……って、お?」


 少年を助けようと動きかけたその時、質素なロングソードを携えた少女が疾風如き速さで少年の前に飛び込んだ。


『――やあああッ!!』


 裂帛の気合と共に繰り出される一閃。

 一目見ただけで安物と判断できる剣の一振りで、謎の少女は少年を包囲していた3匹のピュルケーを瞬く間に斬り殺してみせた。

 無駄のない動きで体力の浪費を極力抑え、尚且つ、剣を振るう腕に余計な力が込められていない。あのような見事な剣捌きを見たのはいつ以来だろうか。歴戦の剣士でも、彼女の動きを真似できる者などそうはいないに違いない。


 ……あれ? つーかあの女の子、どこかで見たような――って、まさか?


「んなっ……!?」


 突然現れた少女の圧倒的な強さに度肝を抜かれたらしい少年は、茫然と地面に座り込む。

 それを一瞥した少女は、軽く苦笑しながら言った。


「この辺りにもう魔物はいないよ。だから、落ち着いたら街の外にでも逃げてね。それじゃ!」


 軽く会釈するように頭を下げた少女は、そのまま剣を収めて走り出そうとする。


「ちょ……まっ待てよ!」


 それを少年が呼び止めた。


「はい? 何か用でも?」

「あ……えっと、その……」


 顔を赤くしてどもる少年。なんとなく勢いで呼び止めてしまったといった雰囲気が、焦った態度からぷんぷん伝わってくる。

 小首を傾げる少女は、少しだけ顔を近づけた。


「――ッ! い、一緒に戦ってやるから、俺も連れてけ!」


 赤かった顔をさらに真っ赤に染め上げ、飛び退くように慌てて立ち上がった少年は、どこかやけくそ気味に怒鳴る。


 いやはや青春だねぇ!にやにや。


 少年の言葉を聞き、一瞬だけ驚いたような表情を形作った少女は、


「足手纏いになるから、結構です」


 にっこりと天使のようなほほ笑みを浮かべて、バッサリと一刀両断した。


「なっ!? あしで……!?」


 言葉を詰まらせて、愕然と膝を着く少年。直球ストレートの弱者認定に、ぐぅの音も出ないようだ。

 ……さすがにあれは可哀想だと思うけど、まぁ隠しようのない事実だし、助け船も出しようがないなぁ。


「それじゃあ、私もう行くね。バイバイ」


 フランクな態度で軽く手を振った少女は、今度こそその場を後にすべく踵を返す。

 何も言えない少年は、ちらりと彼女の背中を一瞥した後、項垂れた。


 その時――


「ん? この気配は……」


 嫌な空気の流れと大きな気配を感じ、俺はその方向に振り向いた。

 それと同時に、大地が大きく揺れる。


「な、なんだ!!?」

「これはいったい……?」


 まるで榴弾が着弾したかのような地鳴りが一帯を襲う。その想像を絶する衝撃の前に少年は悲鳴をあげてへたり込み、少女は周囲を警戒しながら状況の確認を急いだ。


 ――そして、少女がその強大な存在を察知すると同時に、2人の前に一つの試練が舞い降りる。

 

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