ジャンキー(雀鬼ー)・ウォーオーバー
関係者から「あの後が気になる」という声が続々届いたので書いた続編です。「ルールの説明などは不要、配牌の展開だけ書けばよい」等の意見を取り入れてみました。
<登場人物>
千奈美:川北千奈美。元クラス委員長のエリートOL。
隆二:篠井隆二。三流サラリーマン。千奈美の高校時代のクラスメート。
正文:栗原正文。同。二枚目風で、係長。
高田:正文の部下。
[1]
□ 先進企業のオフィス。
モニターや電話を使ってみんなが忙しそうに仕事している。
声「…承知いたしました、では明日に。」「あ、その件につきましては……はい、
はい、承っております。」「はい、××コーポレーションでございます…」
「課長、一昨日の件の書類ですが……」「すまんがコピーを3部づつ……」
□
ポーン
パソコン「メッセージが届いてます」
千奈美、モニターを見ながら紙コップのコーヒーを手に、何気なく気がつく。
□
モニターにはメーラーが。
「From: 篠井隆二<ryuji00264@xxxxx-system.co.jp>
To: 川北千奈美<kawakita-t@xxxxxxx-eigyo.co.jp>
Subject: Re:Re:Re:Re:Re:おさそい
いつもの栗原係長の件、今日18:00です。
来れたら返事ください。携帯にでもいいよ。」
□
千奈美、笑顔。しかし目は少し寂しそう。
[2]
□ 駅前。(季節は冬?)
T「ジャンキー(雀鬼)・ウォーオーバー」
千奈美が夕空を眺めながら、人待ちしてる。
[3]
□
隆二「待った、川北?」
千奈美「ううん、いま来たとこ。」
モノローグ「なんて会話してると、まるで恋人どうしみたいだけど…」
□
二人、歩き始める。
千奈美(笑)「でも変よね。同じ会社なのに、メールでやりとりして外で待ちあわせ
なんて。」
隆二(憮然)「だって、いいんちょは変な噂流れたら困るだろ?」
□
千奈美「え…あっ、うん。」(ちょっと赤くなる)
モノローグ「いいんちょ…川北千奈美と、俺…篠井隆二は高校の元クラスメート。それ
だけの関係でしかないのです。」「大学も…就職先まで一緒だけど。」
[4]
□ (小コマ)雀荘の看板。
雀荘『リーチ麻雀 天和』
□ (小コマ)
「禁煙 NO SMORKING」のシールが、壁に。
□ 雀荘。
そこで、高田と正文が待っていた。
正文「よっ、来たな。」「苦労したんだぞ、禁煙雀荘を探すのは。」
隆二「ワリイ、ワリイ。」
モノローグ「栗原正文。こいつも高校のときからずっと一緒。しかしそれには
ちょっとワケがある…。」
□
席につく千奈美と隆二。
東南西北=正文/隆二/千奈美/高田
正文「今日こそは決着つけようぜ、いいんちょ?」
千奈美(照笑)「その呼び方はもう嫌だってば。卒業して何年経つと思ってるの?」
□
隆二(複雑な疑問顔)「……。」
□
4人、雀牌を混ぜながら。
正文(溜息)「しかし、この勝負も長いよなあ…」
隆二(苦笑)「高校のころから決着つかないんだもんな。何回目の麻雀だっけ?」
千奈美(下を向いたまま)「……………」「167回目。」
[5]
□
正文と隆二、驚いて。
正文「ちゃんと数えてたのかよ?」
千奈美、視線を下に逸らしたままコクリ。
ジャラジャラ
□
正文(笑)「さすがいいんちょ、マメだねえ。」
正文をジッと見ている隆二。
隆二「…………」
□
正文「そういや、前から聞きたかったんだけど。」「隆二といいんちょ
って、つきあってんの?」
ジャラジャラ
□
ドキッ!!
焦る隆二。
□
擬音で繋ぐ。
焦る千奈美。
[6]
□
隆二あわててごまかし、
隆二「バーカ! やだよ、こんなかおカタい女!!」
正文、牌を摘みながらなんの気もなし。
正文「ふーん……悪くないと思うけどねえ。」
□
千奈美、悲しいのか恥ずかしいのか怒ってるのか、複雑な表情で上目遣い。
(この目で誰を見てるのかは謎)
□
正文「さて、サイコロは…」
千奈美「あっ、今日は私、振ってもいい?」
□
正文「?」「いいけど。」
書文字「はい」
サイコロを差し出す。
[7]
□
千奈美、ちょっと舌を出して拝むような手つきでサイをよく振り、
□
転がす。
声「東家は俺か。」
□
牌が積まれた卓を囲んで、
声「よし、勝負!」
四人の背景は、虎、龍、熊、獅子などのイメージ。
千奈美・正文は真剣。
高田は普通の表情。
隆二は苦笑。
隆二:書文字「またかよ…」
[8]
□
声(小さく)「立直…」
隆二「ん」
隆二、ふと気がつく
□
隆二(心の声)「ちょっと待て、なんだこりゃあ!!」
隆二:一東東東南南南西西西北北發 發
□
隆二(思わず笑顔)「なんてラッキー・・・」
□
正文「どうした? 早く捨て牌しろよ。」
隆二「あ? うん」
□
隆二の声「立直っ!」
一が出される。
声「和了!」
[9]
□
千奈美(静かに)「立直一発、一気通貫、字一色…」
千奈美:二三四五六七八九四四四北北 一
声「げぇぇぇぇっ!?」
□
隆二(心の声/怒)「川北…てめえ!」
歯を剥いて震えてる隆二。
□
千奈美、隆二に向かってアカンペ。
□ (回想)町中、夜。
キャプション「3年前…」
大学生っぽい服装。隆二が千奈美と歩いている。
千奈美「え? 篠井くんも同じ会社に内定!? 偶然ね……。」
隆二「うん。」
隆二の心の声「…ホントは偶然じゃないけど。」
[10]
□
隆二「だけどさ、川北…大学も就職も栗原を追いかけて…そこまでするんなら、
さっさと告白した方がいいんじゃないの?」
ドキン!
千奈美、真っ赤。
□
困惑してる千奈美の真っ赤な顔…
千奈美「…………だめよ。」「だって、まだペペロンチーノ食べてないもん。」
□
隆二「ビストロ=トリニティのペペロンチーノをおごらせたら長続きするカップルに、
か…」「そんなジンクスに頼らなくても、長いつきあいになってるじゃん。」
千奈美「だけど……」
□
隆二、溜息。
隆二「しょうがないな……。じゃあ奥の手を教えてやるよ。」
[11]
□ 隆二のアパート。
雀卓が出されているけれど、2人麻雀状態。
千奈美(驚愕)「いかさまぁ!?」
□
隆二、牌を積みながら
隆二「牌を積むときに、こうやって積み込んで…」
ひょい、ひょい
□
千奈美、驚いた顔でじっと見ている。
隆二の手にサイコロ。
隆二「サイコロもね、こうやって、仕掛けしたやつとすり替えるわけ。」
□
隆二「それから、全自動の場合でも、こう服の中に隠しといた牌を…」
千奈美の声「篠井くん……」
□
千奈美、責めるような表情。
千奈美「いつもそんなことやってたの?」
[12]
□
隆二「奥の手って言ったろ。」「いざってときのために練習はしたけど、実際に
やったことはまだないよ。」
隆二、牌を混ぜ始める。
ジャラジャラ
□
千奈美、怒った顔で。
千奈美「…………いやよ、そんなの!」
□
隆二(驚)「いいんちょ……」
千奈美、涙が出てくる。
千奈美「ズルして、嘘ついて勝つなんて、そんなの嬉しくない!」
□
隆二(慌)「嫌ならやらなくてもいいんだよ! ただ、こういう方法もあるってだけ
で…」
隆二、慌てて千奈美を宥めてる。
(回想終了)
隆二、溜息。
[13]
□
雀卓を囲んでる4人。
カツッ チッ
声「捨て牌。」「あ、それポン。」
□
正文「ロン。平和タンヤオ。」
□
高田「相変わらず手堅いですね、栗原課長は。」
正文「仕事でもなんでも、確実さが成功のもとだからね。」
ハハハ…
隆二、正文をじっと見ている。
□
隆二、じっと見ている。
(回想)
新社会人になったばかりの3人、もう一人の誰かと雀卓を囲みながら
正文「しかし、3人とも同じ会社になるとはなあ。」
隆二「ははは…」
キャプション「2年前…」
[14]
□
正文、ツモった牌を見ながら
正文「ところで川北。勝負の目的、そろそろ変えない?」
千奈美、疑問顔。
□
正文「社会人になったんだから、もう携帯麻雀セットなんか必要ないし、パスタだっ
ていつだってオゴれるぜ?」
□
千奈美(力なく微笑み)「うん…でも、やっぱり勝負は勝負だから。」
□
正文「……俺の方は賭けの対象、変えたいんだけど、いいかな?」
□
千奈美、捨て牌しながら
千奈美「うん、いいけど? 何?」
隆二「あ、川北、それチー。」
[15]
□
正文、点棒を指に挟み、「哭の竜」のようなポーズで
正文「俺が勝ったら……一晩だけつきあうって、どう?」
ぶぶっ!!
牌を手にしたままたまげてる隆二と、
真っ赤になって口をおさえ、驚愕している千奈美。
□
隆二、、スカしてる正文に突っかかり
隆二「栗原、てめえ! 冗談はいい加減に…」
声「……いいよ。」
□ (小コマ)
隆二、顔面蒼白。
隆二「いいんちょ…」
□
千奈美は、決意の笑み。
千奈美「そのかわり、私が勝ったらペペロンチーノだよ?」
[16]
□ (回想終了)
正文(困惑)「うーん……」
□
千奈美「?」
隆二「どうした? 珍しいな、栗原が。悩むほど負けが込むなんて。」
□
正文「…いいや、勝負だ。オーラスで破産なんてイヤだもんな。立直。」
キャプション「南四局、1本場」
(回想)雨の夜の公園。
キャプション「半年前…」
□
高台から、街明りが見えてる。
そこに、立ってながめている千奈美と、
後ろから傘を差し出してる隆二。
ふたりともびしょ濡れだ。
隆二「いいんちょ、濡れるってば!」
[17]
□
千奈美、涙顔で振り向いて
千奈美「篠井くん…わたし…」
□
隆二「言ったろ! 早く告白しないからだよ!」「でもまだ間に合う! 婚約ったって
あきらかに政略結婚だし、どうなるかまだわからないじゃん!」
□
千奈美「いや…栗原くんの出世を邪魔するなんて……。」
隆二、頭を抱えて
隆二「……ったく、もう!」
□ (大ゴマ)
隆二(必死)「恋愛ってのは生存競争なんだよ! 戦いなんだよ! なりふり構わず
奪いとらないと、負けて死ぬんだよ!! 相手のことなんか考えるな!!」
□ (小ゴマ)
千奈美(驚いて目を見開き)「篠井くん…」
[18]
□
寂しそうに笑いながら、
千奈美「もしかして…篠井くんにも、好きな人ひとがいるの?」
隆二「えっ!?」
□
隆二(焦って誤魔化し)「あっ、うん……まあ。」
千奈美(背を向けて)「そう…きっと素敵な人なんでしょうね。」
□
隆二「うん…サイコーの女の子だよ。思いやりがあって、真面目で、頭よくて…
[以下書き文字] 麻雀も…ごにょごにょ」
千奈美(背を向けたまま)「…篠井くんの恋、うまくいくといいね。」
□
隆二「え!?」
□
千奈美、雨に向かって拳を握り、決意のポーズ。
千奈美「ありがとう。私もがんばってみる、なりふりかまわないでペペロンチーノに
賭けてみる!」
隆二、後ろで
隆二「あ、そ…そう。」「がんばれよ。」(ひきつり笑い)
(回想終了)
[19]
□
隆二(心の声)「オーラスで南家の栗原が立直…この場では俺が親。」
ちら…
□
千奈美、悩み顔で牌を見ている
隆二の声(心の声)「川北はまだ聴牌ってない様子…」
□
隆二、考え込む。
隆二「問題は、栗原が何を待っているのか…」
□
千奈美、捨て牌。
千奈美「!」「立直っ!」
□
隆二「!」
□
モノローグ「『ペぺロンチーノか』!?」
緊張してる千奈美。背景に虎。
□
モノローグ「『一晩』か!?」
緊張してる正文。背景に龍。
(二人の間で、青くなってる隆二、背景にビビッてる熊。)
[20]
□
カッ
千奈美、捨て牌。Ⅴ
□
カッ
正文、捨て牌。九
□
隆二、点棒を手に考え込んでる。
隆二(心の声)「どうせなら川北を勝たせてやりたいけど…」
□
隆二、手で顔を隠す。
隆二(心の声)「どっちが勝っても、いいんちょは栗原のものになるんだよな…」
「いや、わかってたけど。…わかってたけど!!」
泣きそうな雰囲気。
[21]
□
正文「?」「どうした、篠井。調子でも悪いのか?」
□
隆二「あ、いや、ちょっと考えてたんだ。」「そういやお前、婚約者とはどうなってん
の?」「その東、カン。」
□
正文、ツモった牌を見ながら
正文「ああ、来月、式だよ。招待状、いる?」
□
ビクン!
青い顔になる千奈美。
□
正文の声「ま、こういう人生もありかな、って……」
タン…
誰かの捨て牌 北。
声(絶叫)「…ロンッ!! 役牌!」
[22]
□ 雀荘前、明け方。
声「おつかれ」「おつかれー。」
□
正文(溜息)「じゃ、パスタは式が済んでからな。」
千奈美(顔を逸らし)「うん…」
□
正文「あ、そうそう、篠井…」
□
正文、すれ違いざまに
正文「ペペロンチーノ、俺は急用で行けなくなるから……お前だけはいいんちょを
泣かすなよ?」
□
隆二、びっくり。
隆二「え?」
□
正文、コートの襟を立て、振り向かずに手だけ振って去っていく。
正文「[書文字]♪お~いらは何で~も知って~いる~…」
[23]
□
軽く手を振りながら、笑顔で見送る千奈美。
千奈美「じゃあね…!」
その後ろに、隆二が複雑な表情で。
□
フェード・アウト。(のイメージ)
□ 明け方の駅のベンチ
背を丸めて座ってる千奈美に、小さなお茶のペットボトルがさし出される。
千奈美「ありがとう。」
□
千奈美の隣に隆二が座る。千奈美はペットボトルを開ける。
隆二「しかし…あそこで役牌の1翻なんて安い手で栗原が破産とはなあ。」
千奈美「うん。でも…」
□
千奈美「これ。」
千奈美、なにかを隆二に手渡す。
隆二「?」
□
隆二「!!」
それは、北の雀牌。
[24]
□
隆二(驚)「いいんちょ、ま、まさかあの和了はッ!! [書文字]イカサマ…」
千奈美(力なく笑って)「ズルしたんだから当たり前だよね、8年ごしの恋が破れたっ
て。」
□
千奈美(笑顔)「でも、なんかすっきりしちゃった。」「8年もの間、協力してくれて
本当にありがとう、篠井くん。」
□
隆二「い、いいんちょ…」
□
夜明けの駅で2人がベンチに座ってる遠景。
千奈美「じゃ、こんどは私が篠井くんの恋を手伝う番だね。」
隆二「え?」
千奈美「篠井くんの好きなコって、誰?」
隆二「え? え? えっ!」
千奈美「協力するからさ、私にだけは教えてよ。」
隆二「ええっ!?」
千奈美「ねえ、はやく、はやく!」
隆二「えーーーーーっ!!?(涙)」
☆おしまい☆