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ホラー小説『死んだ彼女が残したセーブデータ』

作者: 虫松
掲載日:2026/05/09

深夜二時。

雨が降っていた。


アパートの窓ガラスに、 べちゃり、べちゃりと水滴が張り付き、 まるで誰かが外から爪で叩いているみたいだった。

部屋の中には、 古いゲーム機の起動音だけが響いている。


――ピコン


「……なんだこれ」


俺は、凍りついた。


メモリーカードの一覧。


そこに、 見覚えのないセーブデータが増えていた。


【、?xd30】


文字化けみたいな名前。

保存日時は今日。

ありえない。


だって、このゲームを最後にやったのは、


半年前。


彼女が死んだ日だ。

喉が、ひゅっと鳴る。


……いや。


気のせいだ。


バグだろ。


そう思いながらも、 俺の指は勝手に震えていた。


選択カーソルが、 ゆっくりとそのデータに合う。


決定。


その瞬間。


テレビ画面が、 真っ白になった。


ノイズ。

耳鳴り。


ギギギギギギギギ……


何かが、 頭の奥を引っ掻いてくる。


「っ、あ……!」


視界が回転する。

部屋が歪む。


天井が液体みたいに波打ち、 壁紙が剥がれ、 黒いシミが人の顔みたいに浮かび上がる。


臭い。

鉄の臭い。

生臭い。

血の臭いだ。


次の瞬間。


「……久しぶり」


隣から声がした。


ぐぁああああ


俺は絶叫した。


ソファの横。


そこに、 彼女が座っていた。


濡れた髪。

白いワンピース。

首が、 少しだけ曲がっている。


折れている。


なのに、 彼女は笑っていた。


挿絵(By みてみん)


「再会してくれてありがとう」


「な……なんで……」


喉が動かない。


彼女は俺を見つめたまま、 カチ、カチ、とコントローラーを操作している。


画面には、 見覚えのあるRPG。

だけど、 主人公の名前が違った。


【ユウキ】


俺の名前だ。


「やめろ……」


「やっとロードできた」


彼女が言う。


「ずっと待ってた」


カーソルが動く。

メニュー画面。


セーブ。

上書き保存。


「……っ!」


嫌な汗が吹き出す。


やめろ。

やめろ。

本能が叫んでいる。


だが体が動かない。

彼女はにっこり笑った。


「今度は、私が生きる番」


ピッ。


セーブ完了。


その瞬間。

世界が、 ぐにゃりと裏返った。


俺の頭の中へ、 大量の記憶が流れ込んでくる。


知らない記憶。

いや、 違う。

これは、俺の記憶だ。


なのに、 俺のものじゃない。


「……あれ?」


頭が痛い。


彼女と出会った記憶。

笑った記憶。

旅行した記憶。

キスした記憶。

喧嘩した記憶。


そして―

雨の日。


彼女が泣いている。


『別れて』


違う。

違う違う違う。

そんなこと言ってない。


俺は優しかった。

俺は彼女を愛して


『痛っ……やめ……』


フラッシュバック。


狭い部屋。

倒れた椅子。

割れたマグカップ。


俺の荒い息。

彼女の首。

白い指。

爪。


苦しそうな顔。


「……ぁ」


思い出してしまった。


俺は


俺は


彼女を――





殺した。




別れ話をされた。

カッとなった。


「お前のせいで人生めちゃくちゃなんだよ!」


叫んだ。


掴んだ。


押した。


床に頭をぶつけた。


動かなくなった。


なのに俺は

警察に嘘をついた。


事故だと

転倒だと

泣きながら演技した。


みんな騙された。


俺自身さえ


「……あ……あああ……」


吐き気。

脳が焼ける。

記憶が書き換わっていく。


“俺は被害者”

“彼女は事故死”


その偽物の記憶が、 バリバリと剥がされる。


下から、 本物が出てくる。

彼女が、 俺を見ている。


でもその顔は、 もう笑っていなかった。


首が、 ぐるりと回る。

骨の音。

ボキ。

ボキボキボキ。


「思い出した?」


眼球が、 ぼたっと落ちた。

なのに彼女は笑う。


「じゃあ次は、私の番」


画面に文字が出る。


【プレイヤーデータを移行します】



YES



勝手にカーソルが動く。


YES



「やめろおおおお!」


叫んだ瞬間。



俺の指先が、 砂みたいに崩れ始めた。


皮膚が剥がれる。

肉がノイズになる。

身体が、 データ化していく。


「嫌だ!!死にたくない!!」


彼女は優しく俺の頭を撫でた。


あの日みたいに


「大丈夫」



「すぐ慣れるよ」




俺の視界に、 セーブ画面が浮かぶ。


【、?xd31】

保存しますか?

▶YES


その時、 気づいた。


部屋の隅

テレビの黒い反射。


そこに映っていたのは、 “俺”じゃない。



髪の長い女

首の折れた女

俺が、 彼女になっていた。


そして


ソファに座る“新しい俺”が、 ゆっくり振り返る。


生き返った彼女の顔で


「次のセーブデータ、誰にする?」


ピッ


保存完了



翌日


ニュースでは、 こう報道された。


「男性が自宅で突然死」


死因不明。


部屋には、 古いゲーム機だけが残されていた。


そのメモリーカードには、 新しいデータが増えていたという。


【、?xd32】


ホラー小説『死んだ彼女が残したセーブデータ』  エンド

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