5*たて糸、よこ糸、夢を織る
案内された部屋には、一台の機織り機と、これまた豪華な家具が置かれていた。
仕事部屋とされているが、普通に生活できそうなほどだ。
「瑠璃は、こういった機織り機を触ったことはあるかい?」
「いや、ないけど…」
だが、まるで天女が持つハープのように華奢で華やかな雰囲気の機織り機を目にして、初対面とは思えない気持ちもあった。
「なるほど。では、使い方につきましては、私が一から教えて差し上げますね」
「え!銀二さん、機織り機を使えるの?」
確かに、こういった繊細な技術にたけていそうな雰囲気だけれども…という言葉は飲み込む。
「太政官様は、私にも機織りの技術を教えてくださったんですよ~!腕は私が保証しますので!」
となぜか銀二よりも自信満々な聖那。
「じゃあ、銀二さんは聖那のお師匠様ってわけね」
「師匠だなんて、ただ聖那さんがあまりにも下手すぎるだけで、私も技術的にはまだまだです。それに、機織りの仕事は本来織姫様のものです。私なんぞが到底かなうものではありませんでした」
と謙遜の態度をとる銀二。
「では、さっそく機織り機に触れてみましょう。何か感じるやもしれません」
「そうかしら…?」
促されるまま、機織り機の前に座る。ふいに手を伸ばして機織り機に触れると――
たて糸たて糸 朝露ふくみ
月を招けば 影ひとすじ
よこ糸よこ糸 風の子つれて
鳥のつばさで 渡りくる
ゆらせばゆらせ 梭なる舟
かくれ里ゆき 音もなく
とおき都の 夢をからめて
白妙ひと巻き あやと成す
結べば結べ 指のまじわり
ほころぶ心 のりで閉じ
星すくうごと 布が生まれて
誰が袖ふれる 春を待つ
思わず口ずさんでいた。
「え、え?」
その場にいた全員が声をそろえて驚く。
「織姫様、その歌を、どこで?」
「え、えと…。よくわからないのだけれど、なんだか聞こえた気がして」
「その歌は…」
顔色を青白くする銀二と聖那の一方で、呉羽だけは満足げな笑みを浮かべていた。
「やはり…!銀二!瑠璃をよろしく頼んだよ。瑠璃に織物を教えられるのは君しかいないのだから」
「しょ、承知いたしました、彦星様…」
その瞬間、部屋の空気がかすかに震え、瑠璃の手と織機の間に、まだ見ぬ物語の糸がひそかに結ばれたように思えた。




