4*織姫の役割
「もうお揃いとは、僕が一番遅かったみたいだね」
静かに響いた声に、聖那も銀二もビクリと肩を揺らした。
「……はっ! 彦星様……!」
二人が慌てて振り向くと、そこには涼しい顔で立つ呉羽の姿があった。
相変わらず、どこか中性的な美しさをまといながら。
「太政官、侍女頭。織姫を放って何を話しているんだ? ほら、困ってるじゃないか」
そう言うや否や、呉羽はす、と瑠璃の横に立つ。
そして小声で、瑠璃に向かって「ねぇ?」と囁いた。
「え、あ、えーっと……」
(素直に“困ってました”なんて言えるかぁ!)
心の中で全力でツッコミを入れつつも、曖昧に笑って誤魔化す。
「「も、申し訳ありません……!」」
二人はそろって深く頭を下げる。
「では、揃ったことだし──織星宮へ行こうか」
*
織星宮──それは、歴代の織姫たちが己に課された“使命”を果たす場所。
“使命”とは、天河界でしか作れないという神秘の織物──天女の羽衣を織り上げること。
この羽衣が天河界で重要な役割を担っているとか。
「私、織物とか……とっても苦手なんだけど、大丈夫かしら……?」
瑠璃はぽつりと弱音を漏らす。
「それは織姫様次第ですね〜。私としては、きっと出来ると思いますよ!」
と明るく笑う聖那に、
「滅多なことを言うものではありません、侍女頭様」
と銀二が即座に眉をひそめる。
「太政官様ってば堅いんだから〜」
聖那がぷくっと頬を膨らませる。そのやりとりに、瑠璃は(仲良い……)と思わず和んだ。
「人間界の織物とはまた別ものなのだ。案外、簡単に出来てしまうかもしれないよ」
と呉羽が言葉を添える。
瑠璃は少し安心したが、すぐに疑問が浮かんだ。
「じゃあ、代々の織姫たちも案外うまくやっていたの?
“使命”を全うしたってことは……織れていたのよね?」
呉羽は首を横に振った。
「いや、案外そうでもないんだ。肝心なのは──思い出せるかどうか、だよ」
と言い、にこりと笑う呉羽。
「……思い出せる、かどうか……?」
瑠璃はその言葉を反芻する。
だが、自分が何を“思い出す”というのかは、まったく見当がつかない。
呉羽は歩きながら、ぽつりと意味深に付け加えた。
「それに──“使命”とは、織物だけのことじゃないからね」
瑠璃は思わず足を止める。
胸がざわりと揺れ、呉羽を見つめるが──
呉羽はただいつもの涼しい顔で微笑むだけだった。
(……何なのよ、それ)
不安と好奇心が入り混じったまま、瑠璃は彼らの後に続いた。




