3*天河界の秘密
「彦星様から、“織姫様”についてお聞きになりましたか?」
「えぇ……衝撃が多すぎて、正直よく分からなかったわ」
「ふふ、ほとんどの織姫様が同じ反応をされますので仕方ありませんよ~」
聖那はいつもの調子で軽やかに言う。
だが、彼女も呉羽のように長い年月を生きているのだろうか──ふとそんな思いが胸をかすめる。
彦星様はあの話をするとき、どこか辛そうだった。
では、聖那は……?
気軽に聞ける話ではなく、瑠璃は心の奥の問いを飲み込んだ。
「では、気を取り直して! この天河界をご案内いたします~!」
弾む声とともに、案内が始まった。
天河界は人間界では見たことのない、異文化の香りに満ちた都だった。
牽牛府を中心とした東の街、織星宮を中心とした西の街──まるで鏡写しのように、二つの都市が左右に広がっている。
何かに似ている気がする……と考えて、瑠璃の脳裏に浮かんだのは“平城京”だった。あの、納豆おいしいで知られる平城京。
思い返すほどに、古代中国・唐の雰囲気と、シルクロードを通じて伝わった西アジアの文化が混じり合ったような、不思議な都に見えてくる。
平城京もこんな雰囲気だったのだろうか──と視線を巡らせていると、ある疑問が浮かんだ。
「ねぇ、この世界には……星はないの?」
常に夜の闇が支配する天河界。
人間界のイルミネーションのような光があちらこちらに設置され、その美しさに目を奪われていたが……よく見ると、空には星がひとつもない。
満天の星空だと思っていたものは、すべて人工の灯りだったのだ。
「そうですね~。この世界は、ずっと昔から雲に覆われてしまっていて……星は見えないんです」
「聖那は、星を見たことがないの?」
「はい。星も、太陽も。この雲があるのは……彦星様の──いえ、彦星様が直接の原因というわけではありませんが……責任は、あるのかもしれませんね」
「どういうこと……?」
聖那は言いかけて、言葉を飲んだ。
「ここから先は、私の口からお伝えすることはできなくてですね~。織姫様。あなたなら、なんとかできるのかもしれません。そのために、代々──」
そのとき、
「聖那さん! それ以上は、あなたの手に負える情報ではありませんよ」
鋭い声が割り込んだ。
太政官の銀二が、険しい表情で歩み寄ってくる。
「申し訳ありません、織姫様。これ以上は……我々がお答えできる範囲ではないのです」
眉をハの字に下げて深く頭を下げる銀二と、いたたまれない様子の聖那。
その二人を見て、瑠璃はこれ以上踏み込むべきではないと悟った。




