小石
昔々、修行で断食中のお坊さんがいました。
そのお坊さんは大食らいだったので、断食がつらくてつらくて仕方ありませんでした。
あるときたまりかねて、小石をパクリと口のなかに含んでしまいました。
石を飴のように舐めますと、すこしは空腹が紛れるような気がしたのです。
長い時間、ころころ、ころころと口の中で石を転がすと、不思議なことにじんわりと口の中に味が広がって来るではありませんか。
それはよく噛んだお米の甘みに似ていました。
お坊さんは大喜びで、何日もずーっと小石を舐め続けました。
そうすると飲まず食わずの修行にも耐えられ、日が経つにつれまわりの人もあのお坊さまは大したものだと感心しはじめました。
いつの間にか食べない日が百日を数え、お坊さんは身体が軽くなっていることに気づきました。
一足踏むごとに頼りなくふわりふわりと身体が浮かんでいきます。最初は地面についていた足が地面からもう一尺ばかりも離れています。
あわてて戻ろうにも重しがないのでふわふわ浮かび上がるばかりです。
お坊さんは「おーい」と周りの人に助けを呼びましたが、そのころにはもう誰の手にも届かないほど高くへ上がってしまっていました。
みんなが唖然として見上げるなか、お坊さんはそのままふわふわと空を昇っていきました。
そうして雲の中の小さな点になって見えなくなったころ、コツンと小さな小石だけが落ちてきました。