カヤネズミと少年
昔々、大きな原っぱに棲む小さなカヤネズミがいました。
カヤネズミはすっと伸びた緑の草を編んで繭のような素敵な巣を作ります。
カヤネズミは原っぱの暮らしが大好きでした。
けれど、ある日カヤネズミの棲む原っぱに人間がドヤドヤとやってきました。鎧を着て、旗を背負ったものや、槍を持ったものが大勢います。
そして、人間は原っぱを踏み荒らし、殺し合いをはじめました。血しぶきと怒号が飛びかいます。
ほんとうにひどい光景でした。カヤネズミはおそろしくて泣いてしまいました。
人間たちが去ったあとの原っぱは、もうカヤネズミが好きだった場所とは違うものになっていました。
カヤネズミがおそるおそる巣から出ると、そこには死体にまじってまだ生きているけが人も転がっていました。
カヤネズミは一人のけが人の耳のそばに寄ると文句を言いました。
「どうしてくれるんだ。僕の好きだった原っぱがこんなになってしまった。僕は明日からどうして暮らしていいかわからない。おまえたちのせいだ。おまえたちが来なければこんなことにならなかった」
ネズミが話しかけたけが人の横顔には稚い丸みがあり、まだ少年のように見えました。
「ああ、ごめんなあ。ここにはおまえのようなものも棲んでいたんだなあ。まったく気がつかなかったよ」
「まったくだ」
とカヤネズミは怒ります。
「おれもほんとうはこんなことしたくなかったんだがなあ」
けが人はカヤネズミの話を聞いているのかいないのか、無念そうに顔を歪めました。
そこでカヤネズミは、はた、と気づきました。このケガをした少年もカヤネズミと同じように、ただ楽しく生きていたいだけだったのではないだろうか。
カヤネズミは少年を一方的に責めたてたのをバツが悪く感じはじめました。
「おい、おまえ責任取れ。こんなところで転がって死ぬな。迷惑だ」
とカヤネズミは言いました。
「おれも生きたいのは山々なんだが、もうまもなく死ぬ。それは無理ってものだよ。すまんなあ」
少年は素直に謝るばかりです。
「では死ぬな」
「無茶を言う」
「無茶ではない。いいか、なんでもいいから生き残ったら責任取れよ」
「わかったよ」
少年は諦めたようにため息をつきました。
カヤネズミは少年のそばを離れると、戦場にふよふよと漂う死霊の霊魂をたくさん集めてきて丸めて団子にしました。
そしてそれを清らかな泉につけて、清めました。
カヤネズミは、その団子をまだ息のあった少年の唇にむりやり押し込みました。
少年はむせ、胸を掻きむしり、大声で叫び、のたうちまわってもだえ苦しみました。
やがてしずかになると、少年の怪我はすっかり治っていました。そして額の真ん中に一本の角が生えていました。
少年は鬼に生まれ変わっていました。
カヤネズミは胸を張りました。
「ほら、生き残っただろ。おまえにとって不本意だろうが、僕としても棲家を荒らされて怒ってるんだ。約束を果たしてもらうぞ」
鬼となった少年は苦笑しました。
「そうか、そうだな。おれが生き残ったからには、おまえとの約束を果たそう。命の恩人でもあるしな」
少年鬼は立ち上がると、カヤネズミを肩に乗せ、カヤネズミの気に入るような素敵な原っぱを探して歩き出しました。
カヤネズミは行く先々で少年鬼に文句や悪態をつきましたが、少年鬼は笑って流して快く次の場所を探したということです。




