交換条件は随分重めですが
「あ、セーシェ!かなり探したんだよ。テラス席に向かったんだけれどシャンドラ君とレイラ君しかいなくてさ。」
ルティウスは安堵したように息をついた。セーシェはルティウスの顔から足元までを見て、怪訝そうに聞いた。
「何の用かしら。あなたが私をそこまで必死に追いかけるなんて、何か企んでいるとしか思えないけれど。」
「ちょっと、僕を何だと思っているんだ!」
ルティウスが度肝を抜かれたような顔でセーシェの顔を見つめる。セーシェは知らん素振りで言葉を続けた。
「さぁ?ヘタレで女たらしでいつもよく分からない弦楽器を持ち歩いているお坊っちゃんかしら。」
「全部違うよ!そうじゃなくて、僕は君をお茶会に誘おうと思ってね。今度、城下町のお店を貸切にするんだ。」
ルティウスは道脇にある花畑の方向に目線を逸らしながら言った。セーシェは彼を怪しんで一歩近づいた。
「それで、もしよかったら君のお友達もどうかなと思って…ほら、シャンドラ君とかレイラ君とか…いててっ!」
セーシェはルティウスの頬を軽くつねった。ルティウスが痛そうに頬を押さえる。
「やっぱり女たらしは間違ってなかったじゃない。レヴィーナ領にいた時も色んな女の人に声かけてた話を聞いたことがあるんだから!」
「なっ…誰からそれを!それは事実だが僕は…人探しをしていただけなんだ!」
「まぁ、どうでもいいけれど私達は表向き婚約者なんだから変な恋沙汰は起こさないでちょうだい。私の名誉も傷がつくんだから。」
「ご、ごめんなさい…。」
げんなりとしたルティウスにセーシェは人差し指を立てて顔を近づけた。
「シャンドラとレイラをお茶会に誘ってあげてもいいのだけれど、一つ条件があるわ。」
「条件…?もう嫌な予感しかしないよ。」
「私、小議会の書記に立候補するの。その応援演説をやってくれないかしら。」
その言葉を聞いた瞬間にルティウスはがっくりと肩を落としてはぁ…とため息をついた。
「応援演説なんて手間も暇もかかるだろう。あんまりにも不釣り合いじゃないかい?」
セーシェは口元を隠しながら不敵に笑った。
「あら、なら自分であの二人を誘えばいいじゃない。私があなたの悪口をある事ない事吹き込んで行かないように根回しするけどね。」
「君は本当に…商売が上手だな。」
「私達、ビジネスパートナーでしょ。お互いの利益のために頑張らないとね。」
セーシェは勝ち誇ったように笑いながら腕を組んだ。ルティウスは枯れた笑いを漏らした。
「とは言っても、応援演説のイロハなんて僕には何一つ分からないぞ。」
「別にあなたの演説力には何一つ期待していないわ。でも、あなたは大貴族というだけでそのネームバリューがある。」
「君は僕を感情のない化け物だと思っていないか?僕だって傷つくんだぞ!」
「でも安心して、あなたの出番はまだ先よ。校内審査で全校生徒の10%から書記候補の中で票を獲得できないと小議会選挙に立候補することすらできないの。」
「なるほど、僕の出番は小議会選挙の応援演説か。…もしセーシェが校内審査で脱落したらこの交換条件は?」
ルティウスが恐る恐る聞くとセーシェは狂気の笑顔で近づきながらむんずとルティウスの手をつねった。ルティウスが声を上げる。
「もちろん決裂よ。まぁ、そんな事はありえないから安心しなさい。」
「わかった、わかったから。わかりました、わかりましたって!!!」
静かな花園の中で、ルティウスの悲鳴だけが木霊した。
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セーシェは自室へと帰る途中、掲示板に新聞を貼るケレンの姿があった。内容は小議会の校内審査の告知のようだった。
「あら、あなたは探偵部部長のケレンさん。あの節は大変お世話になりました。…これは何をしてらっしゃるの?」
「セーシェさんお久しぶりです!私は新聞部も掛け持ちしているんですよ。小議会本部と提携してこんなふうに張り紙を下回っているんです。」
「なるほど。私も今回、書記に立候補することにしたんです。」
「ええ、もちろん知っていますよ。新聞に候補者一覧が載っていますから。今回はどうやら、大物揃いみたいですね!」
セーシェはケレンに言われるがまま新聞に視界を向けた。書記の欄にはセーシェとザクノの名前が書かれていたが、驚きなのは財務の欄にディミトリアの名前が書かれていたことだった。
「ディミトリア…。彼女が小議会に名乗りをあげるなんて。意外と活発なのね。」
「そうなんですよ。今年はセーシェさんとディミトリアさん、大貴族のお二人が立候補することもあって大変っ!盛り上がっているんです!」
「でも、高学年の方が全然いらっしゃらないですね。どうしてでしょうか?」
ケレンはむぅ…と顔を曇らせながらおどろおどろしくセーシェに言った。
「学年を重ねるにつれ課題は増え、授業数は増え、将来を考えなくてはならなくなります。そんな時に小議会の仕事も受け持ってしまえばもう…悲惨なことに。」
「そんな理由が…。」
「まぁでも、セーシェさんは要領がいいから大丈夫ですよ。それに、小議会を経験しておけば何かと将来有利に働くはずです。」
「セーシェさんのお相手はザクノくんですね。アルデンブルグの大貴族と中貴族の戦い、楽しみにしていますから!」
「ええ、ありがとうございます。」
セーシェは書記の欄に刻まれたザクノの名前を見ながら、絶対に負けない!と深く決心したのだった。




