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30話 デッド・オア・アライブ


 乙女ゲーム『奇跡のアクセサリーと救国の転入生』の全キャラクターを攻略すると、特典ストーリー『逆ハーレムエンド』が出現する。


 ただ、あくまで特典のため選択肢や分岐はなく、自動再生ムービーになっている。

 これまでの攻略の総集編をひとつの物語としてまとめたもので、最終スチルではちょっぴり大人向けになったイラストが拝めることもありファンの中では話題になった。


 可愛いネグリジェを着た美少女ミアが恥ずかしげにベッドに横たわり、それを美麗キャラ総出で囲んでいる豪華特別仕様スチル。

 ギリギリR指定を免れた攻めてるピンク系スチルに、前世のカトリーナはヨダレを垂らして拝んだものだ。


 でもそれは二次元だから見惚れるわけで、現実だとしたらとんでもない倫理違反。ロマンチックのカケラもなく、喜ぶのは頭が花畑の女だけだ。

 実際にカインに本当に惹かれ、心から恋をしているミアは他の攻略者に拒絶反応を示している。



「……カイン様以外となんてあり得ないし、カティが死んじゃうのはもっとありえない! カイン様ルートでは単なる領地送りで終わりなのに、どうしてラストが違うの!?」

「逆ハーエンドでの取り巻き令嬢が起こした嫌がらせは、すべてカトリーナの指示によるものとなっているの。取り巻き令嬢たちは涙しながら“カトリーナに逆らえなくて”と寝返りの証言をする。自分は手を下さず、他家の令嬢を脅し、救国のヒロインを害したとして罪が重くなるのよ」



 カインの単独ルートでは、不祥事を起こしてもカトリーナは公爵家の娘。犯行は単独で行われ、ミアの身の危険はなく、カインの心移りの落ち度もあってカトリーナは領地送りで済む。


 しかし逆ハーレムルートは集団いじめ。嫌がらせの内容は極めて悪質なものになっていき、やり方が陰湿。国外追放という名の処刑は当然の流れとも言える。

 ちなみに逆ハーでの断罪スチルは王城の地下牢で処罰を言い渡されるという暗くて地味な雰囲気のため、カトリーナの好みではない。



「カインルート確定だと思って油断してたわ。神スチルが見られない上に、死亡フラグも立つなんて最悪」

「でも、ゲームと違って今のカティは実際に取り巻き令嬢に指示しているわけじゃないんでしょう? なら国外追放されることは無いよ! きっとそうよ!」

「あなたって子は……でも、きっと取り巻き令嬢たちはわたくしに指示されたと口を揃えて嘘をつくはずよ。四人分の証言とわたくしひとりの証言――どちらが有利かしらね?」



 高位の令嬢四人がかりで口裏合わせをされたら、カトリーナが公爵令嬢だとしても発言権が弱くなる。悪女の話など、誰が信じるのだろうか。



「酷い……! カティが彼女たちに何をしたっていうのよ!?」



 自分の身にも危険が迫っているのに、カトリーナを本気で心配してくれるミアの気持ちが嬉しい。同時にこんなにも可愛い子を困らせる奴らに怒りと疑問が湧く。



「ねぇミア、攻略者たちは自分たちの婚約者である令嬢が嫌がらせをしているのも、あなたがカイン殿下を慕っているのも知っているのよね?」

「たぶん知ってる。私が心に決めた人がいるから誤解されたくないって言っても、友人としてミアの心配くらいさせてくれって四六時中そばにいようと付きまとってくるの。もしかしたら本当に心配しているだけかも……って思っていたけれど、やっぱり違うってことだよね」



 ミアは本気で困っているようで、また若葉色の瞳に涙が張る。

 攻略者たちはまだ自分に可能性があると思って、カインとミアがふたりっきりになるのを阻止しているのだろう。

 また嫌がらせをする自分たちの婚約者をわざと泳がせて、一方的に婚約破棄できるための材料を集めながら……。



「――あ」



 カトリーナは、ふと気づいてしまった事実に呆然とする。



「カティ?」

「……ごめんなさい。少し考えさせてくれないかしら」



 ミアは心配する視線を送りつつも、黙って待つ姿勢になってくれた。

 カトリーナは大きく深呼吸をして天を仰ぐ。

 幸か不幸か、アルトの行動の理由に気付いてしまった。



(アルト様はカイン殿下の命を受けて、わたくしに恋慕する演技をしているのでは?)



 次期王妃は婚姻前は純潔の乙女であることはもちろん、婚姻後も王位継承権に支障がでるため厳格な貞淑さが求められている。

 もしカトリーナがアルトに恋に落ちて何かしらの行動を起こせば、カインはふたりを糾弾できる。不貞が疑われた時点で婚約破棄の材料になりうるのだ。


 もしカトリーナがアルトに誘惑されたと訴えても、カインが裏で手を引いているのなら、アルトはむしろ勘違いされて迷惑だったと証言することで被害者面することも可能。



(カイン殿下はライバルが増えたことで、嫌がらせの証拠を固めている場合ではないと判断。早くわたくしと婚約破棄したいと焦った結果、アルト様にわたくしを誘惑するように命じたに違いないわ。そうでなければ、アルト様が色仕掛けなんてするはずがない)



 ライバルが先に婚約破棄を済ませてしまうと、身分の低いミアは婚約を申し込まれてしまうと断れない。

 カインは確実にミアと結ばれるためにアルトを利用したのだと、カトリーナは推察した。

 やっぱり悪女の自分が好かれるなんて幻だった――と腑に落ちれば、代わりに込み上げてくるのは悔しさだ。



「さて、どうしようかしら。わたくしの長年の野望に水を差すなんて」



 カインルートの断罪神スチルを拝むべく、十年も頑張ってきたというのに、逆ハーレムの強制力ごときに負けるのは屈辱。

 カトリーナに責任を押し付けるため、擦り寄る真似をする取り巻き令嬢たちも腹立たしい。



「逆ハーレムルートなんてぶっ潰してやるわ」

「うん! 私を好きなように利用して。何でもカティの言うことを聞くわ」

「ふふふ、言質はとったわよ。神スチルを絶対に拝むわよ!」

「そこは国外追放から逃れるためって言うところでは?」

「ミア、わたくしはカトリーナよ。傲慢で貪欲……戦略的撤退はあっても、逃げるための努力はしなくてよ。覚悟なさい。おーほほほほほ」



 カトリーナは力強く立ち上がり、高らかに笑った。

 アク転の完全コンプリートの覇者として、そしてハイスペック悪役令嬢カトリーナとしてのプライドが彼女を鼓舞した。



「作戦はどうする? 私は他の攻略者から嫌われるようにすれば良い?」

「他の攻略者も高位貴族よ。まだミアはカイン殿下の婚約者でもないのだから、逆ギレ圧力のリスクが高いわ。悪い振る舞いをして、せっかく集まった評価や味方の気持ちまで裏切っては駄目。よろしくて?」

「了解!」


 ミアをハッピーエンドに導きつつ、カトリーナが取り巻き令嬢たちの罪まで被らないようにするためには、婚約破棄の原因を嫌がらせ以外の理由で迅速に捏造する必要がある。

 少々癪ではあるが、カインの計画に便乗するのが最善だろう。



「わたくしがアルト様に気移りしたと、周囲にアピールするわ。堂々と浮気を始めようとするなんて、次期王妃としての資格が無いとしてすぐに婚約破棄されるはずよ。ミアはカイン殿下に他攻略者からのアピールに戸惑っていると相談して、しっかり守ってもらいなさい」



 カインは他攻略対象の友情を信じているミアがショックを受けないよう、彼女に気付かれないように動いていた。

 けれどミア本人から相談を受けたとなれば、堂々と正面から対策が打てるだろう。

 それで他の攻略対象が王太子カインを相手に、自分たちは勝ち目はないと身を引いてくれればラッキーだ。



「分かった! でも、なんでアルト様なの? アルト様はいつも影が薄いし……もっと格好良くてキラキラしている人気のある令息の方が、カティの片思いに信憑性が出るんじゃないのかな?」



 ミアの口から出たのはアルトの意外な評価だ。

 元日本人であるミアが黒髪黒目を嫌うはずはない。ミアの好きなカインは金髪碧眼のTHE王道キラキラ系王子様ということから、おそらく好みの問題なのだろう。



「アルト様は柔らかい笑顔が素敵で、とても優しい人よ。彼に対してなら、惚れた演技も自然にできると思うの」



 断罪されて領地に送られたら、アルトの顔を見ることはできなくなる。

 であれば、たとえ演技でも残り時間は一緒に過ごしたいと思う。



「……カティが良いなら止めはしないんだけど、無理はしないで。神スチルよりも、私の恋よりも、カティの命を優先して。カティを失うなんて絶対に嫌だからね!」

「お馬鹿。国が滅亡したら、理想の田舎スローライフが送れないじゃない。それに、わたくしを誰だと思っているの? 全部叶えるわよ!」

「カティはどこまで素敵なの!?」



 カトリーナはミアから思い切り抱きしめられた。

 こんなにも可愛い子をカインの嫁に出したくないと思ってしまうが、踏みとどまった。



「ミアはそろそろ戻らないと。わたくしと通じていることが知られたらいけないわ」

「そうだね。急いで戻らな――きゃっ」

「ミア!」



 東屋から慌てて出ようとしたミアは、山になっていた草のツタに足を引っ掛けて転んでしまう。

 しかも運悪く靴の金具にツタが絡まってしまい、なかなか抜け出せない。

 カトリーナはベンチ裏に隠していた鎌を取り出した。



「今これでツタを切ってあげるわね」

「ありがとう! 準備が良い!」

「ふふ、調子が良いんだから」



 転んだときにどこかぶつけたのか、ミアは笑いながらも若干涙目だ。

 早くツタから解放して冷やさないと!とカトリーナが鎌を握る手に力を入れたとき――



「貴様! ミアに何をしている!」

「――え?」



 怒気が含まれた言葉に驚き、カトリーナとミアは顔を上げた。

 ふたりの視線の先には、カインとアルトの姿。



「はは、ちょっと待ってよ」



 カトリーナは乾いた笑いを小さく漏らした。

 逆ハーレムのシナリオにおいて原作カトリーナは追い詰められた末に、直接ミアを襲おうとした現行犯で断罪される。

 放課後にミアを旧校舎に呼び出したカトリーナが、ミアの顔を傷つけようと短剣で襲うのだ。

 狂気を含んだ笑顔のカトリーナが、涙目のミアに刃物を向けたとき攻略者たちが登場して――そんな襲撃スチルが、走馬灯のようにカトリーナの頭の中を巡った。


 そして今、微笑んでいた口元を引きつらせたカトリーナの手には鎌。

 そばには地面に転がる涙目のミア。

 少し離れたところには攻略者人気ナンバーワンの王子カイン。

 他の攻略者はいないが、その存在を補うようにアルトがいる。

 場所や時間、凶器は違えど再現率が高すぎた。



「ミア、作戦変更よ」



 カトリーナは鎌を強く握り直して、ミアの首に添えた。


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