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「ジャミルを疎開させるというの?」

「姉上」


 少し興奮気味のフレイアさんに、フレインが唇の前に人差し指を立てた。フレイアさんがはくっ、となって次は小さな声になった。

「でも疎開ってもっと小さい子が対象でしょ?」


 フレインとフレイアさんと僕。三人で師匠の工房に移動する。僕の工房モドキはこの季節、長く過ごすのは不向きなんだ。壁板も屋根板も年季が入っていてすきま風が凄いし、元が資材置き場だから火の気もないし。椅子も無いからね。


 で、師匠の工房の可動式の暖炉に火をいれて、普段は設計図を広げたり細かい細工を行う作業台を囲んで座る。フレインとフレイアさんは角を挟んで並び、僕はフレイアさんと向かい合わせにならないよう、それで一番距離がとれるように対角線上、のひとつ右にずれて座った。フレインが物言いたげに僕をじっと見ている──何か言われるかと身構えていたけれど、フレインは長めの息を吐いただけだった。

 フレイアさんが煎れてくれたお茶がそれぞれの前で湯気をたてている。

 そこでフレインが冒頭の台詞、という流れ。

 僕はお茶に手も伸ばさず、椅子(スツール)の端を身体の前で握って俯く。


 王都から今回の敵である隣国国境までの南東方面は、戦線の動きによっては交戦区域になる可能性が高いからと、住民は疎開するよう王命が出ている。対象は十歳未満の子供と妊婦。妊婦に対象の子供がいる場合に限って子供ひとりにつき大人ひとりが付き添って疎開していい、となっていた。

 両親と子供が五歳、七歳、十二歳の五人家族で、母親が妊娠していれば五歳と七歳の子供と、あとふたりの大人が一緒に疎開できる。でも母親が妊婦でなければ五歳と七歳の子供ふたりだけが疎開することになる。

 これってダメなヤツじゃん?

 せめて未成年の子供全員、それに母親か大人の家族ひとりが一緒について行かなくちゃ。小さい子だけで疎開して行った先でどうすんのどうなるのって思う。

 送り出す親はもちろん、受け入れる側だってたいへんだろう。はじめましての子供達が大挙して押し寄せてくるんだから。もう悲惨な未来しか想像できないでしょ。


 そりゃ大人や十歳以上の子供を残すのは戦闘以外で軍を支えるためだってわかるよ。僕もゲームで得た知識があるからね。

 確か国の南東部は酪農や農業が盛ん。王都で消費される食料の大半がここで生産されている。疎開で誰も居なくなったら即食料危機になるからね。だから働き手を残して、戦争中もここで酪農や農業を続けてもらう。考えたね。でもさ、家族が離れ離れになる疎開って悪手だと思うよ。ゲームならともかく、生きている人を動かすんだから。


「ジャミルは十二歳よ?それに王都の子供は疎開の対象になっていないわ」

「子供達の疎開とは別口なんだ」

 フレインは「ちょっと待って」と言っていったん工房を出て行った。少しして戻って来たフレインは念入りに戸締まりをして、六つの窓も確認してから僕の肩に手を置いて言った。

「まだ大っぴらに話せる事じゃないんだが、ジャミルにも関係あるんだ」

 だからこっちにおいで、と言われたら嫌だなんて言えないじゃないか。

 ええー。

 そんなに警戒しなくちゃならない話をするの?

 お城の衛士であるフレインはともかく、僕もフレイアさんもただの平民だよ──まぁ僕には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ、って知識はあるけどさ。でも僕はモブだと思うよ?ゲームのメインストーリーに見習いを含めた人形使い(ドールマスター)なんて出てこなかったしさ。


 僕が椅子(スツール)ごと移動するのを待って、フレインが語りだした。

 僕はフレイアさんを視界に入れないようにフレインの背中側で俯く。フレインは少し眉間に皺を寄せただけで僕に文句は言わなかった。



 フレインは城門の衛士だ。前世だと○コムとかアル○ックみたいな警備員って感じかな。所属も国軍じゃなくて王家に直接雇用されているんだって。王宮詰めの武官つまりア○ムとかア○ソックみたいな仕事をしている公務員って感じ?

 師匠みたいに戦い方も知らない一般人まで戦争に駆り出される中、剣士とかってばりばりの戦闘職のフレインが徴兵されないのは、王家の意向なんだって。まぁそりゃね、お城や女王陛下に警備が無しなんてあり得ないっちゃあり得ない。僕にしても知り合いの大人の男の人が居てくれるのは心強い。個人的にはね。

 理屈はわかるんだけれど納得できるのかって言われると……それはまた別の話だ。

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