第五翔
ジジジッと火縄が焦げ、種火が大砲へと近づいていく。
それを凝視しつつ、ランスは今か今かとその時を待ち構える。
あと少し、あと少しだ。
いやがおうにも気分が高揚してくる。
ランスは自らの口元が緩んでいくのを自覚せずにはいられなかった。
やがて種火が大砲へと収まる。
「いくぜ、相棒! 戦闘開始」
ランスの声に続いて、大砲の音が大気をつんざく。
ほぼ同時に、アロンダイトは駆け出していた。
勢いをつけぬまま羽ばたいても加速がつかない。
ある一定の速度までは大地を駆けたほうが速いのだ。
べフィーモスにはわずかに劣るとしても、サラマンダーはワイバーンより遥かに高い脚力を誇る。
あっという間にアロンダイトは竜群の先頭に躍り出ていた。
「ここっ!」
ランスがグッと手綱を引き絞る。
同時にアロンダイトが翼をはためかせ、ふわっとその巨躯が宙を舞う。
飛翔と走行、その速度の分岐点を見極めた、まさに絶妙のタイミングだった。
そしてそのまま一気に加速していく。
風避けのゴーグル越しの視界は狭く、肉眼と比べてどこか霞んでいた。
それでも遥か彼方に空と海が繋がっているのが見えた。
身体を叩いてくる風は、少し気を抜けば竜の背から弾き飛ばされそうなほど激しく強い。
なのに竜体はその風圧の中でもしっかりと安定している。この乗り味が、ランスはたまらなく好きだった。
手綱を通して、アロンダイトの闘志がありありと伝わってきた。
これはワイバーン種やべフィーモス種からはほとんど感じられない。また、いかなサラマンダー種でも平時は出してくれない。
全てが、懐かしかった。
ようやく、そう、ようやく自分は故郷の空に帰ってこれたのだ。
「かーっ、たまんねえ! さあ、相棒。空を楽しもうぜっ!」