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序章1.〜side M〜 




 都心から車で約2時間。

 木々に囲まれた長閑な地。

 ポスト&ビームのログハウス。

 そのような環境下で1人暮らしをしつつ、自宅に隣接するカフェを1人で経営する、彼女の日々は忙しい。


 7時からのモーニングに間に合うよう、朝4時には起床。

 身支度や掃除洗濯といった生活に必要な事柄を行った後、中庭・エクステリアに咲き誇る草花の手入れ、カフェ店内のセッティング、朝採り食材の調達とその日提供する品の調理を行っていく。

 

 提供品は、モーニング、ランチ、ティータイムとそれぞれ内容が異なり、どれも日替わりのメニューを用意する。

 食事メニューのみならず。自家焙煎のコーヒーや自家製ハーブティー、手作りデザートなど、ドリンクやデザートにもこだわっているのが、カフェ“ohana”。

 提供するメニューには全て手を掛け、毎日、真心を込めて用意している。


 地域で採れた新鮮な食材、日替わりメニュー、自家製のドリンクやデザート。

 こだわりの品々を提供しているカフェ“ohana”は、お客からの評判が良く、一見わかりにくい店構え、閑静な場所にありながらも客足は途絶えない。

 店は小さめの平家、カウンター席6つとテーブル席3つがある形なのだが、満席になる事も多々。

 開店から閉店まで、休みなく働かなければならない程の盛況ぶりだ。


 彼女の労働時間は、一日12時間以上。

 早朝の開店作業から、日暮れ後の閉店作業を終えるまで、週5.5日(週5日と半日)しっかり働く。

 残り1.5日(週1日と半日)を定休日としているものの、カフェを1人で切り盛りする彼女には、休日らしい休日は存在しない。

 休みとしているその時間は全て、カフェに関する事柄に消えていく。

 中庭やカフェ併設のガーデンの整備、新しいメニューの開発や食材の買い付けなど。カフェを営むには、お客相手に料理やサービスを提供する以外にも、数多のタスクをこなす必要がある。

 なにより、彼女の脳内はカフェのことでいっぱいで、休みが休みにならないのだ。


 『休みなく働かなきゃならないなんて……』

 『頑張り過ぎでは』

 『明らかなオーバーワーク』

 『花盛りだというのに勿体ない』


 日々の長時間労働は然る事(なが)ら、趣味はもちろん、友情や恋愛を謳歌できるような充実したプライベートが皆無。

 そんな彼女に、彼女の生活状況を知る者達から心配の声がかかるものの、彼女自身、現況に辛さを感じたことはなかった。

 ……というより正しくは、辛さを感じる暇がなかった、だ。




 

 彼女が多忙な生活を送るようになったのは、今から3年前。

 19の誕生日を迎えた翌日に起きた事柄、それが起因となっている。

 大好きな両親の、突如とした行方不明。

 『おやすみ』『また明日ね』と笑顔で挨拶を交わしたが最後、両親は見当たらなくなってしまったのである。


 

 生活の基盤を支えてくれていた両親。

 彼らが居なくなってしまったということは、彼女自身で生活の基盤を整えていく必要があるということ。

 

 『生活支援制度もあるにはありますが…………』


 両親の捜索願いを出した後、知人からアドバイスを貰い、政機関に相談しにいったものの。

 彼女の置かれた状況的に頂ける支援金は少なく、支援を受けたとて、今までの生活を維持し続けるのは困難だった。

 自身の生活費、通学している私立大学の学費、両親が持つ資産(土地や店、自宅)を維持するための費用など。

 彼女が現在と変わりない生活を送るためには、それなりのまとまった金銭が必要だったのだ。


 突然降りかかった痛事。

 頼れる親族が居ればよかったが、彼女には両親以外に頼れる人がいなかった。

 頼みの綱となるはずの貯蓄は、両親が特殊な形の貯金をしていた事から、彼女には見つけることができず…………。

 今ある財産(土地や店、自宅)は、両親の物(名義)

 資産者(両親)が不在(突然の行方不明)という状況では、痛事を軽減させる(財産を運用する)事が法的にできなかった。

 

 中でも、彼女が難儀だと感じたのは、資産を維持するためには費用の支払いが必要だという点。

 支払いができなければ、今ある資産は手放さなくてはならなくなる仕組み(法の制度)は、資産(土地や店、自宅)を維持したければ、継続的に金銭を所持しなくてはならない事を意味する。

 つまりのところ。

 彼女は、今後それなりの金銭を持ち続けていなければならない状況に置かれたのだ。

 

 手をつけられる貯蓄がない。

 大好きな両親が営んでいた“カフェohana”や土地、我が家を失わないためには、それなりの費用がいる。

 両親同様、大好きである(カフェ)は無くしたくない。

 カフェを開いていれば、両親に所以のある人が来たり、行方不明に関する情報が得られるかもしれない。

 

 置かれた状況と自身の想いや考えを加味した結果、彼女は、カフェをやりながら収入を維持する形を選んだ。

 19歳になって程なく。

 通っていた大学を自主退学した彼女は、いち学生から1人忙しく働く事業者へと変わる。

 


 カフェをやって生活していく。

 そう決意したものの、頼れる者は自分1人。

 当時の彼女にあったのは、学業の合間に両親の手伝いをしていた“お手伝い”の経験と、大学で学び得た食に纏わる多少の知識のみ。

 カフェのレイアウト能力、ガーデンに咲き誇る草花を維持する方法、メニューを考案する事や経営についてなど、カフェを営むために必要な事柄の多くを、彼女は理解できていなかった。

 

 わからないことや出来ないことが、知っていることや出来ることよりも圧倒的に多い。

 そんな彼女に芽生えたのは、漠然とした不安。

 自分には何もない。

 そう思えるほどに不安は強く大きかったが、やるしか道はない。

 生きていくためにはお金が必要で、両親以外頼れる人はいない身の彼女。

 己の生活を維持し願いを叶えるためには、1人頑張るしか方法がなかった。


 

 そうして早3年。

 立ち止まる暇などなかった彼女には、辛い事も大変な事も数多くあったが、それらは全て、胸に抱いている強い想いで打ち消してきた。

 

 “大好きな両親が営んでいたカフェ、大切に想う場所(土地や我が家)を絶対に守る”

 “行方不明の両親を必ず見つけ出す”


 カフェを存続させ大切な場所を守ることが、人生の目標であり生きる活力。

 そんな彼女、“聖月 まな”は、今日も今日とて、一人忙しくカフェを営むのだ。











 

 お読みくださり、ありがとうございます✩.*˚


 三人称書きは今回初となるため(文章が大丈夫か)ドキドキですが……:( ;´ `;):

 今後の鍵となっていく内容(伏線)を各所に散りばめながら、丁寧に創り上げております。


 物語の内容はもちろん、文章(構成や表現)からも楽しんで頂けましたら幸いです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)



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