星のエッセイ〜「花の星座」がない理由は
秋も深まりゆく今日この頃、夜空には秋の星座のアンドロメダ座やぺガスス座などに加えて、オリオン座の姿も見られるようになってきました。
多くの一等星たちが煌めく夏とは少し変わり、やさしい光の星が多いのが秋の特徴ですが、澄んだ夜空をふと見上げれば、そこにはたくさんの星座があります。
古くから、星は作物の収穫期や雨期、航海で方角を知る道標としても人間の生活と密接に結びついてきたと言われます。
さらにその星と星を結んだ「星座」には、神話の登場人物や動物、物などがイメージされて、名付けられてきました。
そうした様々な地域の様々な星座を、今から約100年ほど前に国際天文学連合(IAU)がまとめ、現在の88の星座が定められています。
この88の星座を見ていると、冒頭のアンドロメダ座やぺガスス座、オリオン座などの有名な星座や、星占いでも使われる「黄道十二星座」などのほかにも、色々あります。
「くじら座」や「いるか座」などの海の生き物の星座や、南半球には「カメレオン座」、変わったところでは「かみのけ座」、「けんびきょう(顕微鏡)座」、さらに「コップ座」というものもあり、とても面白いです。
そうした中で、ふと気付くことがあります。それは、これだけ様々な星座がある中に、「花」をモチーフにした星座が一つもない、ということです。
もっと言えば、「花」だけでなく、そもそも「植物」の星座が見当たりません。不思議だと思いませんか。その理由を、ここでは一つひとつ考えてみたいと思います。
【星がつくるシルエット】
星座は、星と星を結んでできるものですよね。夜空に星がつくるシルエットを描き、そこに何を想い浮かべるかが重要になってきます。オリオン座はたしかに人の形に見えますし、たとえば「りゅう座」も空を竜がうねりながら舞うような姿をしています。
では、「花の星座」があるとしたら、どんなシルエットになるでしょうか。星がきれいな円を丸く描いていたら、そう見えるかも知れませんが、なかなかそうした形はないのかも知れませんね。
ただ、実は「らしんばん(羅針盤)座」や「コンパス座」といった「丸いもの」をモチーフにした星座はあります。
星の位置はきれいな円とまではいきませんが、それでもモチーフとして形から無理だった、とまでは言い切れず、どうやら「丸く」は収まらないようです。
【自然は大地に】
次に、「自然は、神聖で大事なものなので、空には上げなかった」ということは考えられるでしょうか。
実は、「自然」という意味では、「川」をモチーフにした星座があります。
「エリダヌス座」は、オリオン座の右下の青白い一等星・リゲルのあたりから、蛇行する川のように星が並ぶ冬の星座で、その流れに沿っていくと、一番最後に一等星・アケルナルにたどり着く、というドラマチックな星座です。
「エリダヌス」は伝説上の川の名前や、川の神の名前とされています。日本からはごく一部の地域を除いて、アケルナルまでは見ることができず、私も一度追いかけたことがありますが、見られませんでした。南半球に行って眺めたい星です。
また、春を告げるおとめ座も、豊穣の女神・デメテルのことと言われていますし、一等星・スピカは「麦の穂」(または「穂先」)を意味するとされるなど、「自然」だから星座にしなかったかどうかは、「自然体」では分からない、ということかも知れません。
【星と花のイメージ】
星は、人間の想像を遥かに超える壮大なスケールの宇宙の中にありますよね。もちろん星も、ずっと止まっているわけではなく、また、ずっと存在するわけではありませんが、私たちが地球から眺めている星や星座の姿は、そうそう変わるものではなく、そこに恒久性をイメージする面があるかも知れません。
それに対し、花はある時に咲いて、あまり長持ちはしないもの、というイメージですよね。また、植物は大地に根を張り育つので、空に浮かんでいる姿があまりイメージできなかった、ということもあるかも知れません。「地に足をつけて」考えてみますと、これが理由の一つかも知れません。
実は、花の星座はありませんが、花のような「天体」としては、「バラ星雲」というものがあります。星と星の間にガスがあり、特殊な撮影をするとそれが映ってバラのように見え、同じようなものとして「アイリス星雲」もあります。
ただ、肉眼では見えないとされていますので、星座とは違うものと言えそうです。
また、星座がつくられ始めたとされる古代メソポタミアで、あまり植物がなかったかといえば、必ずしもそうではないですし、その後、様々な地域で星座がつくられています。
過去に「百合座(百合の花座)」、「チャールズの樫の木座」といったものが提唱された時期もありますが、いずれも定着することはありませんでした。
― 星は遥かに、花はそばに ―
星は、遥か彼方に輝いていることで、夢や憧れをそこに人は想い描くのかも知れないですね。それに対し、花は、私たちの近くにあって、それを育てたり、花束にしたりすることができる意味では、そばにあってほしい、という想いを古の人も感じたのかも知れません。
いずれにしましても、星座に花はないとしても、夜空の星に花を想い浮かべることや、地上に星のような輝きを見つけることだって、あるかも知れないし、あってもいいですよね。
「星座」は、古の時代から、人類が夜空の星を見上げて、様々な想像力をはたらかせながら創り上げ、そして受け継いできた、素敵なものの一つといえるのではないでしょうか。
古の人々も、今の私たちとほとんど変わらない星を見上げていたと思うと、そばで一緒に見ているようで、なんだか感慨深いですね。
アストランティアという花があります。初夏を中心に紅や白の花が咲き、街中でも見かけたことがありますが、花びらが星のような印象的な形をしています。名前はギリシャ語の「星」に由来して、花言葉は「星に願いを」です。星と花の、素敵なコラボですね。
花の星座がない理由、皆さんはどう思われますでしょうか。
静かな秋の夜長、夜空に自分だけの星座を創って眺めるのも、いいかも知れませんね。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。